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魔法使いを目指す前に、まずツッコミ役に就任しました  作者: 三科異邦


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28/60

ルナ・ヴァルシュタインは、分かっていて距離を詰めてくる

「……なんでこうなる」


霧島ユウトは、砂浜に立ったまま空を仰いだ。


雲一つない青空。

照りつける太陽。

波の音。

そして――すぐ隣。


「なに? そんなに暑い?」


余裕たっぷりの声でそう言ったのは、

ルナ・ヴァルシュタインだった。


「暑いに決まってるだろ」

「物理的にも、精神的にも!」


「ふふ、後者は私のせい?」


「自覚あるなら離れてくれ!!」


ユウトが一歩距離を取ろうとすると、

ルナは同じだけ近づく。


「ほら、海なんだから」

「もっとリラックスしなきゃ」


「距離感がリラックス超えてる!」


ミアはすでに波打ち際で遊び、

セリナはパラソルの下で準備を整え、

フィオナは貝殻を拾っている。


(なぜ俺だけがこの配置……)



ルナの水着は、派手ではない。

だが――完全に計算されている。


露出は控えめ。

しかし、ラインと色合いが視線を誘導する。


「……見てない?」


「見てない!!」

「というか、見ないように全力出してる!」


「ふーん」


ルナは、少しだけ身を屈めた。


「じゃあ、ちゃんと目見て話そ?」


「その“ちゃんと”が一番危険なんだよ!」


真正面から向けられる視線。

近い。近すぎる。


(この人、わざとやってる……)


「ねえユウト」

「さっきミア助けたでしょ?」


「話聞いてたのか……」


「うん」

「結構、見てた」


「それ、褒められても困るやつだからな」


ルナは微笑んだまま、少し間を置く。


「……優しいよね」

「誰に対しても」


ユウトは言葉に詰まる。


「別に……普通だろ」


「そう思ってるの、ユウトだけよ」


一瞬だけ、

からかいの色が消えた気がした。



「ね、ちょっと泳がない?」


ルナは何気ない調子で言う。


「一人じゃつまらないし」


「……浅いとこだけだぞ」


「もちろん」


その“もちろん”が信用できない。


二人で波打ち際へ向かう。

水はひんやりしていて、足元を撫でる。


「気持ちいいわね」


「まあ……それは認める」


「ふふ」

「こうしてると、静かでいいわ」


ミアの騒ぎ声が遠く、

波の音だけが近い。


「……なあ、ルナ」


「なに?」


「今日は、やけに大人しいな」


「そう?」


ルナは足元の水を指で掬いながら言った。


「いつも通りよ」

「ただ……」


ちらりと、ユウトを見る。


「海ってさ」

「距離、近くなりやすいでしょ」


「……否定できない」


「だから、少しだけ」

「素直になってもいいかなって」


ユウトの心臓が、跳ねる。


「少しだけ、ってなんだ」


「さあ?」


そう言って、ルナは一歩踏み出した。

水の中で、自然に距離が詰まる。


「ルナ」

「近い」


「嫌?」


即答できなかった。


「……嫌じゃないけど」

「問題が多すぎる」


「ふふ」

「正直ね」


ルナは満足そうに微笑んだ。



その瞬間。


「ルナー! ユウトー!」

「なに二人でいい雰囲気出してるのー!」


ミアの声が飛んでくる。


「出してねぇ!!」

「向こう行ってろ!」


「えー?」

「セリナもフィオナも呼ぶよ?」


「呼ぶな!!」


ルナはくすっと笑った。


「残念」

「続きは、また今度ね」


「続きって言うな!!」


そう言いながらも、

どこか名残惜しそうなのは否定できなかった。



しばらくして、パラソルの下。


「霧島くん、顔赤いわよ」

セリナが冷静に指摘する。


「日焼けだ!」

「日焼け!」


「……本当に?」

フィオナが心配そうに覗き込む。


「大丈夫だって!」


ルナはタオルを肩にかけながら、

小さく囁いた。


「ねえユウト」


「なんだ」


「さっきの答え」

「聞けてない」


「……何のだ」


「私が近いの、嫌かどうか」


ユウトは一瞬だけ黙り込む。


「……嫌なら」

「最初から逃げてる」


ルナの笑みが、少し柔らかくなった。


「そっか」

「それで十分」



海は変わらず、穏やかだった。

だが、ユウトの内側は、確実に波立っていた。


(……この人、一番危険だ)


自覚的で、余裕があって、

それでも踏み込みすぎない。


ミアとは違う種類の“事故”。


こうして――

ルナ・ヴァルシュタインという名の夏が、

静かに、しかし確実に爪痕を残した。

次回予告


作者腰痛のためお休みです。

次回作にご期待ください。

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