夏休み特別編:水着選び回(地獄)
「――なんで俺がここにいる」
冷房の効いた大型ショッピングモール。
その一角、水着売り場の前で、霧島ユウトは深く深くため息をついた。
「だって男の意見も必要でしょ?」
「参考意見、参考意見」
「ユウトくん、正直に言ってくれていいからね?」
四方向からの圧。
逃げ道、なし。
「参考意見って言うけどさ……」
「ここ、女子の楽園で俺アウェーすぎるだろ!」
「大丈夫大丈夫」
「見なきゃいいだけだし」
「目閉じてれば?」
「それもう意見出せないだろ!」
ツッコミを入れた瞬間、カーテンがシャッと開いた。
⸻
一人目:ボケ要因ヒロイン
「じゃーん!」
元気よく現れたのは、明らかに布面積が仕事していない水着。
「どう? 涼しそうでしょ!」
「涼しそう以前の問題だ!!」
「それ、泳ぐためじゃなくて事件起こすための服だろ!」
「えー? でも“動きやすさ重視”だよ?」
「動きやすすぎてアウトなんだよ!」
周囲の視線が集まり始め、ユウトは慌てて手で目を覆う。
「戻れ! 今すぐ試着室に戻れ!」
「はいはーい」
軽い足取りで去っていく背中を見送りながら、ユウトは確信した。
(この夏、こいつが一番トラブル起こす)
⸻
二人目:お色気要因ヒロイン
今度は、ゆっくりとカーテンが開く。
「……どう?」
現れたのは、シンプルだけど完全に大人の色気を理解している水着。
「……」
言葉が、出ない。
「ちょっと」
「無言は逆に困るんだけど?」
「いや、あの……」
「その……似合ってます……」
必死に視線を逸らしながら絞り出す。
「ふふ、ありがと」
「でも顔赤いわよ?」
「赤くなるに決まってるだろ!!」
「お前、分かってて選んでるだろ!」
「さあ?」
「男の子の反応、勉強中?」
「勉強すんな!!」
ヒロインたちの視線が、一斉にユウトへ向く。
(詰んだ)
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三人目:残念美人ヒロイン
「……これでいい?」
静かに現れた彼女は、見た目は完璧。
スタイルも顔も申し分ない。
「おお、普通にいいじゃん――」
次の瞬間。
「……ただし、機能性重視」
水着のあちこちに謎の補助ベルトとポケット。
「それ水着である必要ある!?」
「ほぼ装備品じゃねぇか!」
「安心感は大事でしょ」
「それに、いざという時すぐ対応できるし」
「海で“いざという時”起きるな!」
ヒロインたちがくすくす笑う中、本人だけは真顔だった。
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四人目:おっとりヒロイン
最後に、そっとカーテンが開く。
「……あの……どう、かな?」
控えめで、淡い色合いの水着。
派手さはないけれど、どこか目を引く。
「……」
またしても、ユウトは言葉を失う。
「き、気に入らなかった?」
「ち、違う!」
「その……すごく似合ってる……」
「……よかった」
ほっとしたように微笑むその表情に、
ユウトの心臓が一段階うるさくなる。
(反則だろ……)
⸻
全員の試着が終わった頃には、
ユウトはぐったりしてベンチに座り込んでいた。
「お疲れ様」
「大丈夫?」
「魂抜けてる」
「俺のHP、ゼロです……」
しかし、ヒロインたちは満足そうだった。
「でも、これで準備万端ね」
「海、楽しみ!」
「当日が本番だね」
その言葉に、ユウトは顔を上げる。
「……待て」
「今ので“地獄”終わりじゃないのか?」
「なに言ってるの?」
「本番はこれからでしょ?」
四人の笑顔が、やけに眩しかった。
(――俺、無事に海から帰れるのか?)
こうして、
水着選びという名の前哨戦は幕を閉じた。
本当の戦いは、
まだ始まってもいない。
次回予告!
※今回はゆるめです
「――で、次どうするの?」
放課後。
机に突っ伏した誰かの一言から始まる。
「……海」
「一応、海の予定」
「でも細かいことはまだ」
「え、予告それだけ?」
「雑じゃない?」
「だって疲れたんだもん」
「毎回ちゃんと考えるの、地味に大変なんだよ?」
「それ、言っちゃっていいやつ?」
「メタすぎない?」
「いいのいいの」
「次はどうせ海なんだから」
「水着着て」
「泳いで」
「ハプニング起きて」
「はいはい、分かってる分かってる」
「どうせ誰かが転ぶか、溺れるか、絡まれるかでしょ?」
「……誰がやると思う?」
「え、あなたじゃない?」
「えっ、私!?」
笑い声。
「まあさ」
「細かいこと考えなくても、海は海でしょ」
「太陽あって」
「水あって」
「霧島くんがツッコミ入れて」
「それだけで成立するよね」
少しの沈黙のあと。
「じゃあ今回は――」
「予告、休み!」
「おやすみ!」
「その代わり――」
「本編はちゃんとやるからね?」
楽しそうな声が重なり合う。
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次回!
ついに海・本番。
予告はお休みだけど、イベントは全力です。




