入学式、開始五分で予想外
王立ルミナス魔法学園の入学式は、想像以上に壮観だった。
高い天井、並ぶ魔導灯、ずらりと集まった新入生。
「名門」という言葉をこれでもかと主張してくる空間に、俺は思わず背筋を伸ばす。
「よし……大丈夫だ。今日は静かにしていればいい」
そう、今日は入学式。
座って話を聞いて、式が終わったら帰るだけ。
何か起こる要素は――
「おっきい建物だね! これ全部魔法で作ったのかな!」
……開始三分で隣が騒がしい。
俺は、ゆっくりと横を見る。
そこには、きらきらした目で天井を見上げる少女。
「え、なにそれすごくない!? ねえねえ!」
「知らない。俺も今日初めて来た」
「そっか! じゃあ一緒に驚こ!」
「共有する必要ある!?」
初対面でこの距離感。
この学園、席替え制度ないのかな。
前を見ると、今度は別の問題が発生していた。
前の席に座っている女子生徒が、やたらとこちらを振り返る。
しかも、近い。
顔が近い。
「ねえ、緊張してる?」
「してるけど、それ以上に距離が近いです」
「ふふ、正直だね」
楽しそうに笑われた。
この人、絶対わかっててやってる。
「……入学式って、こんなイベント性高かったっけ」
俺が頭を抱えそうになった、その時。
講堂全体に、重厚な音が響いた。
――ゴウン。
壇上に立つ学園長が、杖を床に打ち付けた音だった。
「新入生諸君。入学おめでとう」
よし、やっと本題だ。
俺は姿勢を正す。
「本学園では――」
そこまで聞いた瞬間、背筋に違和感が走った。
「……魔力、揺れてないか?」
空気が、ざわついている。
言葉にしづらいが、肌がピリピリする感じ。
次の瞬間。
――バチンッ!
講堂の一角で、魔導灯が一斉に明滅した。
「え、なに?」
「きゃっ!」
ざわめく新入生たち。
学園長が眉をひそめる。
「落ち着きなさい。これは――」
言い終わる前に、今度は床に魔法陣が浮かび上がった。
「いやいやいや、入学式で出す演出じゃないだろ!」
思わず立ち上がってツッコむ。
周囲の視線が突き刺さるが、そんなこと気にしていられない。
「わあ、きれい!」
「落ち着いて見惚れてる場合じゃない!」
隣の少女は感動してるし、
前の席の人はなぜか楽しそうだし、
後ろからは「大丈夫ですよ~」とかのんきな声も聞こえる。
魔法陣が暴走しかけた、その瞬間。
「……ちょっと、出力がズレてるだけだな」
俺は、無意識に魔法の流れを読んでいた。
「ここを――こうして……」
指先で小さく術式を組み替える。
すると、魔法陣はふっと光を弱め、やがて消えた。
静寂。
数秒遅れて、どよめきが起こる。
「……今のは君が?」
学園長がこちらを見る。
「い、いえ、その……たまたまです」
本音を言えば、俺が一番驚いている。
隣の少女が目を輝かせた。
「すごいね! ねえねえ、名前なんて言うの?」
「いや、その前に状況を――」
「霧島ユウトです」
なぜか前の席の人が答えた。
「……なんで知ってるんですか」
「雰囲気で?」
「雰囲気で個人情報取らないでください!」
講堂の空気が、少しだけ和らぐ。
学園長は一度咳払いをした。
「……では、改めて入学式を続けよう」
俺は、ゆっくりと席に座り直した。
心の中で確信する。
(ああ、これ絶対、平穏な学園生活じゃない)
名前も知らない誰かたちに囲まれながら、
俺のツッコミ役としての学園生活は、こうして正式に幕を開けたのだった。
次回予告
入学式の騒動も終わり、ようやく落ち着く――
はずだった霧島ユウトの学園生活。
だが待っていたのは、
運命を決めるクラス分けと、
新入生最大の難関――自己紹介。
名前を言うだけで終わるはずが、
なぜか魔法を披露し始める者、
意味深な発言を残す者、
盛大にやらかす者が続出。
「自己紹介って、そういう場じゃないよな?」
静かに過ごしたい主人公の願いは、
今日もあっさり裏切られる。
そして、なぜか全員――
同じクラス。
ツッコミ役、逃げ場なし。
次回、胃薬の消費量が本格的に増加します。




