魔法使い志望、なおツッコミ役は確定らしい
魔法使いになりたい。
……と、思ってはいる。
ただし、それは別に世界を救いたいとか、伝説に名を刻みたいとか、そういう大それた話ではない。
「普通に生きるために、魔法が必要な世界」
それが、この国の現実だ。
魔物は街の外をうろついているし、護符や簡単な魔法が使えないと、仕事の選択肢も一気に減る。
だから俺――霧島ユウトは、魔法学園を目指すことにした。
至って現実的な理由で。
「……で、なんでこうなる」
俺は、自分の足元を見下ろす。
地面が、焦げていた。
さっきまで、何もなかったはずの地面が。
いや正確には、俺が何もしてないのに焦げている。
「詠唱、ちゃんと合ってたよな……?」
基礎魔法《微弱火炎》。
本来なら、指先にライター程度の火が灯るだけの魔法だ。
なのに。
「……強くね?」
地面に残った黒い跡を見て、思わずツッコミが漏れる。
おかしい。完全におかしい。
魔法が暴走したわけでもない。
失敗した感触もなかった。
ただ、出力が想定より三倍くらい強かっただけだ。
「頼むから、こういうの学園入ってからにしてくれよ……」
ここは街外れの空き地。
人がいないのを確認して練習していたとはいえ、見つかったら面倒だ。
俺は深くため息をついた。
才能がある、とは言われたことがない。
かといって、全く向いていないわけでもない。
中途半端――それが、俺の自己評価だ。
だからこそ、学園に行く意味がある。
王立ルミナス魔法学園。
魔法使いを目指す者なら、一度は耳にする名前だ。
「入学試験、ねえ……」
筆記と実技。
特別なコネも、後ろ盾もない俺にとっては、実力勝負だ。
……まあ、実技でまた地面を焼かなければいいんだけど。
「学園生活か……」
どんなやつがいるんだろう。
天才肌の問題児とか、やたら距離が近い先輩とか、
完璧そうに見えてどこか残念な人とか、
やたら眠そうな不思議系とか――
「……いや、なんで俺、もう振り回される前提で想像してるんだ」
自分で自分にツッコミを入れる。
まだ誰にも会ってない。
なのに、胃が痛くなりそうなのはなぜだ。
風が吹いて、焦げた匂いを運んでいく。
「よし」
俺は鞄を持ち上げ、空き地を後にした。
魔法使いを目指す。
それ自体は、間違っていないはずだ。
ただ――
「俺、たぶん学園でもツッコミ役なんだろうな」
根拠はない。
でも、妙な確信だけはあった。
こうして俺の学園生活は、
まだ何も始まっていないのに、すでに胃薬が必要な気配を漂わせながら、静かに動き出した。
次回予告
ついに迎えた王立ルミナス魔法学園の入学式。
広い講堂、集まる新入生、期待と不安が入り混じる空気――
のはずだった。
席に座った瞬間、隣から聞こえてくる謎の独り言。
前の席では、やたらと距離が近い誰かの気配。
そして壇上では、なぜか不穏な魔力反応。
「まだ何も始まってないんだけど?」
平穏を望む霧島ユウトの願いとは裏腹に、
学園生活は入学式開始五分で崩れ始める。
ボケ、色気、残念、そしておっとり。
個性が激突する最初の一日。
魔法学園編、ここから本格スタート――
次回、ツッコミ役、正式就任。




