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公爵令嬢の守護者

作者: 斗成

 夕暮れ時、辺りは静寂に包まれている。ただ一つの音、風に乗って聞こえるのは、蝉の声。白髪の少年アルスは、涼しげな表情を浮かべながら、背後に立つ公爵令嬢ラフィアを見つめていた。彼女は金髪を風になびかせ、その美しい姿は周囲の風景に溶け込んでいるようだった。


「アルス、今夜の舞踏会には出席しないの?」


 ラフィアの声は控えめでありながら、心の奥に秘めた強い意志が伝わる。彼女の父、ランバルト=フォン・ロータスベーグル公爵が主催する舞踏会は、貴族たちの集う華やかなものであった。しかし、アルスは冷静に首を振る。


「今日の任務はまだ終わっていません。今夜、貴族たちの動きに注意を払う必要があります。」


 アルスはラフィアの専属執事であり、幼い頃から彼女にさまざまなことを教え込んできた。彼らの関係は主従を超えて、深い友情と信頼に満ちていた。


「でも、私たちも人を知ることが大切よ。貴族たちは表向きは礼儀正しいけれど、心の底では権力争いをしているわ。」


 ラフィアの言葉に、アルスは少し思案した。執事としての責務を果たすことと、彼女の気持ちを尊重することの間で揺れていた。ただ、どちらを選ぶべきか迷うような少年ではなかった。


「ラフィア様、心配しないでください。私は常にあなたのそばにいます。もし何かが起こったとしても、私が守ります。」


 その言葉を聞いたラフィアは小さく微笑み、彼の手を握った。その瞬間、彼女の目の奥にある不安がふっと消えたかのようだった。


 その夜、華やかな舞踏会が始まると、貴族たちの賑やかな声が響き渡った。しかし、アルスの視線はその華やかさの裏にある影に注がれていた。公爵は、遠くから心配そうに彼女を見守っている。アルスはその目が、彼女を守るための彼の忠誠心を感じ取っているのだと思った。


「アルス、あの人が…。」


 ラフィアが指差した先に立つのは、冷酷な微笑を浮かべた若き貴族、ギルバートだった。彼は名のある家柄であり、自身の権力を誇示することで知られていた。


「ギルバートに気をつけて、アルス。」


 アルスは彼女の言葉を無視できなかった。ギルバートの狙いは明らかだった。ラフィアと公爵の権力を奪うための策略。それが誘う危険は計り知れない。彼は身を構え、ラフィアを守る準備をした。


 その瞬間、ギルバートが近寄ってきた。周囲の人々が驚き、彼の到来を見つめる。


「おや、令嬢。お一人で寂しくはありませんか?」


 ギルバートは淫らな笑みを浮かべ、ラフィアに手を差し出した。その瞬間、アルスは彼に向かって前に進み出た。


「この方に触れるな。」


 彼の声音は冷たく、それに伴う緊張感に周囲が静まる。ラフィアは彼の後ろで固唾を飲み込んで見ていた。ギルバートは一瞬驚いたが、次第にその笑みを強める。


「おお、執事君。君に命令される筋合いはない。離れたまえ、さもないと…。」


 その言葉が途切れると同時に、アルスは素早い動きでギルバートを制圧した。彼の動きは美しく、無駄な動きが一切ない。


「今すぐラフィアから遠ざかれ。」


 鋭い眼差しで彼を見据えた瞬間、ギルバートは衝撃と驚きを隠せず、退くしかなかった。周囲の貴族たちは驚いた表情を浮かべ、騒然とした空気が漂った。


「まったく、何をしているのか。気をつけろ、もう一度同じことをしたら…。」


 彼はその場から立ち去ろうとした。しかし、アルスは決して彼を見失うことなく、ただ静かに見守る。


「アルス、ありがとう。」


 ラフィアの声が優しく響く。彼女はアルスの隣に寄り添い、再び彼女の安全が確保されたことを実感した。


 しかし、事は終わっていなかった。舞踏会が進む中、影が忍び寄っていたのだ。ギルバートの手下たちが、暗闇の中から現れた。


「やれやれ、まさかこの子が必要になるとは思ってもいなかった。」


 彼らの言葉は恐怖を漂わせていた。アルスは剣を構え、ラフィアを守るために立ち向かう。彼は自らの力を信じ、冷静に彼らに向き合った。


「君たちの相手は私だ。」


 次の瞬間、彼らは一斉に襲い掛かってきた。しかし、アルスの動きは素早く、彼は彼らを一人ずつ捉え、出血を伴わない攻撃で次々と制圧していった。その俊敏性と判断力は、まさに彼の「天才」と呼ぶにふさわしいものだった。


「アルス、すごい!あなたがこんなに強いなんて!」


 ラフィアの声は歓喜に満ちていた。しかし、アルスは一瞬たりとも肩の力を抜かなかった。彼の本当の目的は、ラフィアを完全に守ることだったのだ。


 戦いが続く中、ギルバートの姿はとうに消えていた。彼の策は失敗し、自らの手下たちが次々と倒れていくさまに、彼は肚から声を上げて逃げ去った。


 場が静まり返る中、アルスはラフィアの手をしっかりと握りしめながら、彼女の存在を感じていた。


「私がいる限り、誰も貴方を傷つけさせない。」


 その言葉を胸に、彼はこれからもラフィアの守護者として、忠実に、沈着冷静に、彼女を守り続ける決意を固めた。


 夜空には星が瞬いていた。二人の間に存在する、確かな絆と信頼。彼らは、どんな運命が待ち受けようとも、共に歩んでいくのだ。

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