街に行く④
光を浴びて、キラキラと輝く金色の瞳が忙しなく左右に動く。
窓に張り付いたり、中に入ったりしたいという溢れる好奇心を必死で押し留め、立ち並ぶお店を片っ端から外側からだけ確認する。
「別に全部の店入ってもいいんだぞ」
アイリスの様子を見て、シリルが声をかける。
「日が暮れちゃうもの」
「まぁ1日で回るのは難しいか。とりあえず昼食べるぞ。何がいい?」
「えっと…」
先程通ったパン屋の焼き立てのバターの香りが思い出される。
しかし斜め前に見えているレストランから漂う肉を焼いた香ばしさもたまらない。
「パン屋かそこのレストランだろ」
「なんでわかったの?!」
「一番長いこと見てた。レストランで食って、パンは持って帰るか」
動揺するアイリスにシリルはなんでもないように言ってのけると、レストランに向かって歩き出す。
「なんか、すごいわね。観察力というか洞察力?と判断力が」
「まぁ必要な能力として育てられたからな」
アイリスが感心すると、シリルが視線を上にやり、ボソリと答えた。
「ふーん?騎士も大変ね」
レストランの扉を開けると、昼時なので店は賑わい、外からだけでは感じなかったほかの料理の美味しそうな匂いが充満していた。
「いらっしゃい!二人かい?」
元気な奥さんの呼びかけで、空いていた二人がけの端の席に案内される。
店内でもアイリスはきょろきょろと周りを見渡し、そわそわしている。
「そういやお前と妹の関係、勘違いしてたわ。てっきりすげぇ仲が悪いのかと」
メニューを見て、あれやこれやとしきりに迷ったアイリスがようやく注文を終え、ひと心地ついた時、シリルが口を開いた。
思い返すは出発前の二人の様子である。
姉妹は互いを本当に大事に思っているように感じられた。
アイリスもあっさりとうなずく。
「あぁ…ここ数年私が引きこもっていたせいでまともに会話していなかったけど、仲は悪くないわよ」
「じゃあなんで妹の話出すと頑なだったんだよ。頑張り屋の妹と比べられて不愉快だったんじゃねーのか」
シリルの室内では黒く見える瞳が、ど直球で問いかけてくる。
アイリスは迷うように、言葉を選ぶように、小さく息を吸うと、観念したように吐き出した。
「話を聞いたら羨ましくなっちゃいそうで。自分で決めたことなのに」
最後の方はぽそりとつぶやく。
シリルが片眉をあげて、なお口を開こうとした時、先程の出迎えてくれた奥さんが二人の料理を持ってきた。
寂しげに笑っていたアイリスだが、料理を見てまた金色の瞳が輝き出す。
とりあえずは目の前の料理を心から楽しませてやるか、シリルは話の続きを飲み込んだ。