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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幻想 ‐冬‐

作者: 鮫男

百合です。

百合だと言ったら百合なんだ。

ノーマル?薔薇?そんなものは百合の前に屈服するがいい。



彼女は、孤独だった。


笑顔でいても、その笑顔には影があった。


皆が笑っていても、彼女だけは一歩引いていた。


引かざるを得なかって言った方がいいのかな。


でも、自分から望んだにしても、望まなかったにしても、孤独である事には変わりない。


何で孤独だったかって?


だって、彼女は






鬼だもの。








―――幻想







吹雪が窓をバタバタと叩くうるさい音が聞こえる。


外は黒雲で暗く、日の光は届いていなかった。


(…うるさい)


リビングで毛糸を編みながら、彼女は思う。


雪は比較的好きだが、うるさい事には変わりなかった。


おもむろに立ち上がり、厚手のカーテンを閉める。


多少は防音効果があるのか、少し静かになった。


元いた椅子にもどり、作業を再開する。


しかし、一度途切れた集中力がそう簡単に戻るはずも無く、すぐに飽きた。


することも無いので、とりあえず紅茶を淹れに台所に向かう。


と、その時だった。


ぴん、ぽーーーん、とするはずの無い音が耳に届く。


「…?」


ある一つの予感が頭をよぎるが、ありえない、とそれを振り払う。


外は吹雪。


常人ならば吹き飛んでしまいそうになるほどの暴風だ。


彼女が来るはずは無い。


そう思いながらも、もしも人が来ていたら悪いと思い、ドアを開ける。


「あら、遅いじゃないの。客人をいつまで待たせる気かしら」


ドアを閉めた。


確かに彼女だった。


体の左半身に雪を積もらせていたが。


しきりにドアを叩く音が聞こえたため、もう一度ドアを開ける。


「いきなり閉めるってどういうことなのよ。ちょっとは友人に対して優しくしたらどうなの?」


「入れて貰おうとしてる側の人間が良くそんな口叩けるわね…」


「いいじゃないの。私と貴方の仲でしょう?じゃ、お邪魔するわよ」


彼女は、ぶるるっ、と身震いして雪を振り払い強引に入っていく。


「あぁ、もう…ずぶ濡れじゃないの…ほら、レインコート貸して」


「ん、どうも」


受け取ったレインコートは水に濡れていて、思わずよろけてしまう程に重かった。


「ぉ、っとっとっと…」


「貴方、鬼なんだからそのくらい簡単でしょうに」


「最近天気悪いから運動してないのよ…」


やれやれと首を振りながらも、レインコートを脱衣所に持っていこうとするが、そこで気付く。


「って、下もずぶ濡れなの…」


「だって雪がすごかったんだもの」


「はぁ…まぁ、いいわ。お風呂入って来なさいよ…」


「ええ。有難く使わせてもらうわ」


そういい、土足では無いものの、濡れた足でスタスタと風呂場に向かう彼女に呆れる。


人の家を一体なんだと思っているのか。


「はぁ…」


もう一度掃除をしなければならない思うと、気が滅入るが、


彼女は掃除をしろと言われてするような人間では無い事は知っていた。










ほかほかと湯気を上げる彼女が上がってきたのは10分後だった。


だが、


「って…あんた、どんな格好してるのよ…」


「どんなって…着る服が無いんだもの。仕方ないじゃないの」


バスタオルを頭にかけたまま、素っ裸だった。


白い肌も、


細い体も、


小さな胸も、


(自主規制)も、


丸見えだった。


長く、薄い金髪が肌に張り付いて、やけに妖艶な雰囲気をかもしだしている。


タオル巻けばいいのに。


「あぁ、もう、分かったわよ。服貸すわよ…」


「そ、ありがと」


言葉とは裏腹に彼女はつまらなそうな表情を浮かべる。


リアクションを求めていたのかもしれない。


そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、自室に服を取りに行ってしまう。


「もう、サチってば…つまらないの…」


…ホントにリアクションを求めていたらしい。




数分後、


サチは白いYシャツ、下着と、スウェットのズボンを持ってきた。


「ちょっと、ダサいじゃないの」


「そんな事言うと貸さないわよ」


「私は別にいいけど、あなたが耐えられるかしら?確か鬼っていうのは人間に比べれば欲が強いんじゃない?」


そんなことを言いながら、誘うようなポーズをとる。


「ッ…!…もう!貸すわよっ…」


バサッ、と服を半ば投げるようにして渡す。


「ん、どうも…そういえば、サチ」


「なによ…」


「暖炉の火が消えかかってるわよ。薪を入れたらどうかしら?」


「え?あ、ホントだ」


慌てた様子で暖炉の脇に置いてある薪を数本放りこむ。


その間に彼女は着替える。


流石に人に着替えを見られるのは恥ずかしかったのか。


新しい薪を受け入れた暖炉は再びパチパチと燃え上がる。


サチは暖炉の前に置いてあるテーブルに戻り、火を眺めていた。


その隣の椅子に腰掛ける。


沈黙が続く。


この場に響く音は、外の吹雪と、暖炉の火の粉が爆ぜる音だけだった。


その長い沈黙を破ったのは、サチだった。



「…ねぇ、ヨル…」




「何かしら」





「何で、あんたは私に構ってくれるの?」




「…」




「私は、鬼なのよ?…大昔みたいな食人文化は残って無いけど、でも、新月の日は純粋種の鬼と同じ状態になるのよ?」




「…知ってるわ」




「その時のことは、よく覚えてないけど…目が覚めると、手が血だらけだったり、口の中に血の味があったりするって、言ったわよね?」




「ええ」




「あんたは、何で、こんな私に優しくしてくれるの?」




「…」





「気持ち悪いって思わないの?」




「…」




思わない。




「恐いって思わないの?」




「…」




思わない。




思うわけが無い。




目の前の彼女からは、クールで大人びた雰囲気が既に消え失せ、何かに怯えている子供のような雰囲気が漂っている。





ヨルは知っていた。




彼女は、拒絶される事を何より恐れる。




だから、ではないが、




「思わないわよ…だって、サチは、サチじゃない」




彼女を見据えて、言う。




「…そっか…そうだよね…ありがと…」




相変わらず彼女は火を見つめていたが、その瞳の端から涙が零れるのが見えた。




彼女はそれを拭う。




だが、




拭っても、拭っても、




流れる涙は止まらなかった。




「あ、れ?…おかしいな…火、見過ぎちゃったかな…」




飽きもせず、言い訳をし続ける彼女がもどかしくって、




今すぐにでも抱きしめたい衝動に襲われる。




でも、それは出来なかった。




彼女の頭を撫でる程度の勇気しか、ヨルには無かった。




「…ヨル…ありがとう…うっ…ぐすッ」




「…泣きたければ、泣きなさい。どうせここでは私しか見ていないんだし」




「うっ、ぁ…ぐすっ……うぅっ…」




雪原の一軒家に、少女の泣き声と、暖炉の火が爆ぜる音が響いていた。












目が覚めると、厚い毛布に体を包まれているのを感じる。


「あ、れ?」


昨日は暖炉の前で泣いてたはずだ、と思い、記憶を呼び起こそうとするが、途中からモヤがかかったように思い出せない。


その時、枕元に置いてあった一つの紙に気がつく。


その紙には、


昨日暖炉の前で椅子に座りながら寝てしまっていたこと、


仕方がないのでベッドまで運んだこと、


薬品を数種類無断借用したこと、


そして、最後に、




『貴方の寝顔、なかなか可愛かったわよ』




一行だけ、事務的な筆体ではなく、普段の口調で書かれていた。


「ヨル…」


分かっている。


これはただの悪戯だろうと。


自分の顔を見ながらこの紙を書いている彼女が、見ても居ないはずなのに鮮明に浮かぶ。


その顔は、悪戯心溢れるにやけ顔で、それでいて、ほんのりと、頬が朱に染まっていた。


「ッ…はぁ…」



自分のあまりにも突飛な妄想に溜息しか出ない。


どうせこれも私の反応を楽しむためだけなのだろう、と、適当に思考を打ち切る。




けれど




もし




最後の一文が、



本音だとしたら?




それは、とても




「…嬉しい、かな…」




窓を揺らす吹雪は、もう止んでいた。



やー、流石に7kbは短かったかなぁ。

前のも同じくらいだと思うけど。

ま、短編だしいいか。

このシリーズにはまだまだ続きがあってね。

バッドエンドとハッピーエンドがある。分岐点がある。アフターストーリーがある。

後々載せるかもしれないから。よろしく。

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