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「ごしゅじーん」


 ルリに聞いてもリリに聞いてもどこに置けばいいかわからない荷物。その置き場所がどこか聞くために、彼女を捜していた。


 誰も買わないファングッズが並ぶショップ。いない。

 キッチンが併設された食堂。いない。

 通路。いない。

 スタッフオンリーの舞台の裏側。いない。


「…もしかして、ここか?」


 そう俺が言ったのは、滅多に使われない、てか俺らじゃ使わない、この劇場の舞台(ステージ)

 観客が入る用の豪奢な扉に手をかけ、ゆっくりと押した。



 そこには、たしかに、彼女は居た。

 観客席の真ん中から少し逸れた辺りの席に、一人座っていた。


 しかし、それ以上に目を引いたのは、ステージの上で上映されている映像。

 ステージの上には、普段使われていないスクリーンが降ろされ、そこに、映写機を使って映像が投影されていた。


 そこに映るのは、明らかに“普通”な日常。

 見どころなんかどこにもない、ただの日々。



 飲み物もポップコーンもなしに、黙ってそれを眺める彼女の表情は、こちらからは見えない。

 晴れきった空を見上げて、制服に身を包んだ少女が目を細める。


「んーいい天気。恨みたくなるくらいにいい天気」

「でもユキちゃん、雨の日すごい顔するのに…」


 ユキちゃんと、そう呼ばれた彼女の少し後ろを歩く別の少女がそうぼやく。猫背気味のせいでなで肩になった肩に、学校指定のサブバッグをかけなおした。


「雨の日は普通に嫌い。靴ン中ベシャベシャになるし」

「『靴下濡れた〜気持ち悪い〜』っていっつも言ってるもんね」

「っはは、そっくり!」


 きゃらきゃら笑いながら、彼女(ユキちゃん)は歩道橋の階段を登る。その後を、猫背の少女が進んだ。


「てかマイちゃん、もうちょい背中伸ばしたら?癖になっちゃうよ」

「いいよ、これが私のアイデンティティみたいなとこあるし…」

「まあ私と一緒になって合唱に熱入れたら驚かれてたもんね、去年」


 軽やかにてっぺんに乗りたち、そう言う。


「んー背中が軽い!荷物少ないって快適!」

「始業式だからね。明日から地獄を見るけど……」

「あーあー聞こえなーい!」


 もうちょい夢見させてよー、と言いながら、一つにまとめた黒髪をたなびかせて、ユキちゃんと呼ばれる彼女は歩道橋を下り始めた。


***


「はよーっす」

「お、おはよー」


 下駄箱で上靴代わりのスニーカー(学校指定)に履き替えて、二人は教室に入る。そこで二人を待っていたのは、髪の短い、ボーイッシュな少女だった。


「クラス表見たけど、今年はそらっちも一緒か〜」

「まあお前のおかげで不登校解消された節はあるし」

「お、おはよ…」

「おん、マイもおはよー」


 ユキこと、齋藤(さいとう)悠希(ゆうき)

 マイこと、雪城(ゆきしろ)(まい)

 そしてそらこと、白城(しらき)(そら)


 中学校に入学してからは、この三人でつるむことが多かった。

 そら以外の二人は小学校も幼稚園も同じの幼なじみで、中学生になってそこのペアにそらが入るかたちになった。

 中学一年生のときは特別教室に入り浸りだったそらも、二人とよく話すようになってからは下校時刻まで学校にいるようになった。

 おそらく、こういう好影響を見た先生が一緒になるように計らってくれたんだろうな、と今は思う。


 先生が入ってきて、みんなが着席して、先生の話を聞き流す。

 そうして、転校生が入ってくる。


 金髪を揺らして。

 碧い瞳で教室を見渡して。

 クラス中の注目を集めて、彼女は言った。


「メリー・スノードロップです。両親は外国生まれ外国育ちですが、私は日本生まれ日本育ちです。得意教科は理科、苦手なのは英語です。よろしくお願いします!」


 …彼女が私達のグループに入るのに、そう長くはかからなかった。

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