渓谷の遺跡
俺は新しく見つかったという遺跡の探索に来ていた。
「ここが例の遺跡か………」
山奥の渓谷の奥、その深い霧の中に、それはあった。
大量の配管や水路、金属製の扉、巨大な機械時計だったであろう物など、それがかつてこの文明が高度な工業文明であったことを物語っていた。
「なにかがあったんだ…これほどの文明が滅ぶほどのなにかが…」
「……とりあえず入ってみるしかないか」
俺は、ゆっくりと金属でできた重い扉を開いた。
中に入ると、そこは広い空間だった。
天井にはいくつもの照明があり、部屋全体を明るく照らしている。
そして部屋の中央には、大きな機械が鎮座していた。
「これは……蒸気機関?」
巨大な筒状の物体から蒸気が立ち昇っている。
おそらくこれはボイラーだろう。
さらに周囲にはいくつかのパイプが伸びており、それらは隣の部屋に繋がっているようだ。
「ここは工場なのか?でもなんでこんな場所に……」
その時、俺の背後に何者かが現れた気配を感じた。
咄嵯に飛び退くと同時に剣を抜く。
そこには黒いローブを着た人物が立っていた。
フードを被っているため顔はよく見えない。
だが体つきを見る限り老人であることがわかる。
「誰だ!?」
俺の声を聞いても老人は何も答えない。
ただ黙ってこちらを見つめてくるだけだ。
(消えた!?)
瞬きと同時に老人は消えた。
暗い部屋の中、ボロボロになったボイラーの残骸だけが残っていた。
「何なんだ一体……」
俺は急いで出口へと向かった。
外に出て、辺りを見渡す。
しかしそこには何もいない。
あの謎の老人の姿はどこにもなかった。
「今のは何だったんだ……」
俺がそう呟くと、遠くから音が聞こえた。
崖につけられた巨大な時計が、鐘を鳴らしていた。
ゴーン……ゴーン………
日はすでに沈んでいる。
「帰らないとまずいな……」
俺は急いで家へと帰ろうとした。
だが…
プシュー…ガコン…ガコン…ガコン…
蒸気の音があちこちから鳴り始める。
「なんだよこれ!!」
次の瞬間、目の前の風景が変わった。
辺りは昼のように明るく照らされる。
さっきまでいたはずの場所は消え去り、代わりに現れたのは見慣れぬ街並み。
「なんだここ……さっきまでの場所じゃないぞ…いや…」
よくよく見てみれば、配管の配置や、鐘を鳴らしていた時計は同じ位置だった。
(ここは…過去?)
辺りを見ると、人々が慌ただしく動いている様子が見えた。
人々が向かっていく先を見ると、その真上には空を飛ぶ巨大な構造物があった。
飛行船と呼ばれるそれは、ゆっくりと降下し、停留所へと停まった。人々は、荷物の出し入れをしているようだ。
やがて全ての作業が終わると、船体は大きく揺れ動き、再び浮上し始めた。
「これが…この時代の技術か…」
俺は呆然としながらそれを眺めるしかなかった。
「おいあんた大丈夫かい?」
「えっ?」
突然後ろから声をかけられ振り向くと、そこには老人がいた。片眼には細かい歯車がたくさんついたレンズをつけている。どうやら時計技師のようだ。
彼は心配そうな目で俺のことを見ながら言った。
「ずいぶんとうろついていたが迷子かね?」
「あぁいえそういうわけでは……」
「まあいいか。それよりこっちへ来なさい。泊まるところがないならうちに来るといい」
「いいんですか?」
「もちろんだとも」
案内された家は小さな工房が併設されていて、そこで彼は様々な道具を作っていたようだった。
「はいお茶だよ」
出された飲み物を口に含む。
苦味の強いハーブティーのような味だ。
「ありがとうございます」
「それ飲んだら早く寝ることだね」
「わかりました」
「あともうひとつ忠告しておくことがある」
「なんですか?」
「早く帰った方がいい…戻れなくなる前にね」
「それってどういう……――――――
目が覚めると、夕方だった。
時を刻んでいたはずの時計は完全に止まっており、
ボロボロになった遺跡だけが、静かにそこに佇んでいた。
「夢……なのか?」
俺はまだ少しぼーっとする頭を振りつつ、帰路についた。