工業都市襲撃
幅10キロ、長さ100キロの更地の内、白壁山脈の尾根から西はミュウレ帝国の国土になる。 ミュウレ帝国からすれば、タダで広大な更地が手に入ったのだから笑いが止まらないだろう。
国王と宰相に更地の状況を見せたあと、飛空艇で白壁山脈の上空まで上がった。標高一万メートルを越える白壁山脈を上から見下ろす。国王たちは興奮が止まらないようだった。白壁山脈の頂上にある氷と雪を見て、歓声を上げていた。
山脈の頂上に近づくと、飛空艇の窓の外が吹雪で白くなって何も見えない。
「そろそろ王都に帰還します」
と断って、レンヌは王都に向かって飛空艇を飛ばした。 僅か二十分ほどで王都に着いたので、レンヌは降ろす場所を宰相に尋ねた。 国王と話した宰相は王城の庭を指定した。レンヌは言われた場所の上空に飛空艇を停泊させた。そして、下方の安全を確認してからゆっくりと降下を始めた。
異様な物が突如として空に現れたので、王城内は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。それが城の中庭に降下してきたので、城中の兵士が集まってきた。兵士が着陸した飛空艇を幾重にも取り囲む。
飛空艇の壁が開き、ゆっくりと地面に倒れ込む。階段を降りて来た人が大きな声で命令した。
「慌てるな! 御前であるぞ。控えよ 」
姿を現したのは宰相だった。宰相の横をすり抜けて護衛騎士が先に降りて並ぶ。道を譲った宰相の横を通り、国王が降りてくる。兵士たちは慌てて平伏した。
「道を開けよ!」
兵士たちが立ち上がり、人垣の中央が割れて道を作る。護衛騎士が露払いをして国王と宰相が続く。その後をレンヌと調査官が歩いた。
国王は自室に向かい、宰相とレンヌたちは会議室に向かった。
会議室の大きな机の上に、調査官が王国の地図を広げる。
「宰相閣下、この赤い線で囲んだ所がレンヌ伯爵の領地です」
と彼は報告した。
レンヌが作った更地の七割と、その南側の土地が囲われていた。
「こちらの飛び地については、後日にレンヌ卿のご協力を仰ぎまして詳細を決定致します」
調査官の説明を聞いた宰相が言う。
「うむ、飛び地については任せるので、後で報告だけしてくれ」
「はっ! 畏まりました」
「ご苦労であった。下がってよいぞ」
調査官たちが部屋を出た後、ブロッケンはレンヌたちを手招きした。
「レンヌ卿、領地は決まったから、すぐにでも領都の建設を始めるといい」
「御意にございます」
「建設資金として白金貨一万枚を与える。残りは卿が捻出するのだ」
「畏まりました」
「建設資金は用意でき次第、アイシス伯爵に連絡するので例の乗り物で運ぶが良かろう」
「お願い致します」
とレンヌは言い、続けてアイシスが言う。
「畏まりました」
「二人とも、本日はご苦労だった。下がってよいぞ」
「はっ!」
レンヌたちは飛空艇がある中庭まで従者に案内してもらった。そして、アイシス伯爵の屋敷に向かう。
飛空艇に乗り込んだレンヌは、盛んに首を回して言う。
「本当に、今日は疲れた」
「だが、レンヌ。本番はこれからだぞ」
「そうだな、やることは多い」
レンヌとアイシスは先日の戦い以来、自然とタメ口になっていた。
「ところで、レンヌ。大工や石工などの手配はできるのか?」
「ああ! それなら心配は要らない。ウチには優秀な建築家がいるから」
「そうか、なら良いが。困った事が有ればいつでも相談してくれ。俺もアイリーンも力になる」
「ああ! 困った事が出来たら遠慮なく相談させてもらう」
「夕食を一緒どうだ?」
「いや、せっかくだが、子供たちと食べることになっているから帰るよ」
「そうか、ならまたの機会にでも」
「ありがとう! それじゃあ、失礼する」
アイシスに見送られてレンヌはトリニスタンの拠点に戻った。拠点の食堂でレンヌはお茶を飲んでいた。
今回の襲撃事件みたいな事が起きれば、また身近な者を巻き込むかも知れない。レンヌはアルテミス1に問いかけた。
「アルテミス1、今回の様に周りの人たちを巻き込むことが無いようにしたい」
「艦長、方法は二つです。アストロンのようなガードロボットを付けるか。安全な場所で生活をするかです」
『俺の知り合い全員にガードロボットを付けることは無理だ。だとすると、答えは一つか』
「アルテミス1、工業都市をそっくり移転できるか?」
「反重力装置を使えば可能です」
「大至急、準備を頼む」
「了解しました」
これから、領都の建設に着手すれば時間がかかる。一刻も早く安全な場所を確保するなら既存の施設を使うのが手っ取り早い。子供たちを安全な場所で育てたい、とレンヌは強く思った。
翌日の昼食時にレンヌは子供たちと一緒だった。十人の子供たちは、みんな仲が良い。それがレンヌの心を癒してくれた。この惑星に漂着した時、レンヌは一人ぼっちだった。偶然知り合ったとはいえ、レンヌにとって子供たちは家族同然だ。それだけに、レンヌは子供たちに対する思いが深い。
「艦長、緊急事態です」
穏やかな時間をアルテミス1の声がかき消す。
「どうした?」
「工業都市が魔物に襲撃されています」
たかが魔物の襲撃くらいで、アルテミス1が連絡する訳が無い。何か想定外の事が起きたのだろう。
「わかった、すぐに向かう」
飛空艇が工業都市に着陸し、レンヌは中央塔に急いだ。600メートルの高さにある中央塔の最上階までは高速エレベーターで僅か一分だ。更に、その上にある司令室に入る。司令室の巨大モニターに魔物の姿が映し出されている。
「何だ、あれは?」
白壁山脈の麓に大きな洞穴が幾つも空いていた。そこから、モグラ叩きのように魔物が飛び出しては、何かを吐き出して穴に戻っていた。強化セラミックの壁が侵食され、白い煙を上げている。
「強酸を吐いているのか?」
「いえ、この壁はどんなに強い酸でも影響を受けません。何か未知の物質と推測されます」
「これだから、この惑星は怖い。未知の物質が多すぎる」
「分析は可能か?」
「現在、分析中ですが判明していません」
「魔物に対処する方法は?」
「防護壁に備え付けた対物レーザーを照射しましたが、空間を捻じ曲げられて命中しません」
「亜空間を発生させているのか?」
「似たような方法を用いていると推測します」
「ミサイルはどうだった?」
「口から吐く何かが、ミサイルを腐食させるので届きません」
「アルテミス1。ゴランとアイシス、それからルーベンスに小型ドローンを急行させろ」
「了解しました」
「艦長、防護壁の腐食が止まりません。このままでは、十分後に破られます」
しかし、レンヌには打つ手が無かった。
「艦長、小型ドローンが到着しました」
「ドローンに魔物の映像を投射させろ」
レンヌは通信機のチャンネルをオープンにした。
「ゴラン、アイシス、ルーベンス。そこに映っている魔物を知っているか?」
レンヌの問いかけにゴランとアイシスは知らないと答えたが、ルーベンスは魔物の名前を言った。
「それは邪竜『ヴァリトラ』です」
「弱点を教えてくれ」
「雷撃が弱点ですが、殺すことは出来ません。追い払うのが精一杯だと思います」
『それは、この惑星の雷撃の威力の話だろう』とレンヌは思った。
「わかった。三人とも、ありがとう」
「アルテミス1、超電磁界砲を使え。ただし、そのまま攻撃するな。亜空間バリアが使えない様に、洞穴の上部を光量子砲で破壊して埋めてしまえ」
「了解しました。収束型光量子砲、発射」
前回みたいにエネルギーを全開放すると貫通して山脈に多大な影響を出すので、アルテミス1は出力を抑えていた。
洞穴上部に光量子砲が命中し、ヴァリトラは洞穴の中に頭を引っ込めた。洞穴が崩落して埋まったのを確認したレンヌが叫ぶ。
「今だ! アルテミス1」
「超電磁界レールキャノン、発射」
五つあった洞穴全てにスーパーレールキャノンが命中する。衝撃で崩落が広がり山脈の麓に巨大な穴が空いた。
お読み頂きありがとうございます。
下にある☆☆☆☆☆から評価を頂けると嬉しいです。つまらなかったら☆一つ、面白かったら☆五つを頂けると作者の執筆の参考になります。もちろん、正直な感想で大丈夫です。良ければ『いいね』もお願いします。
そして、この作品を『ブックマークに追加』してもらえると作者が物凄く喜びます。今後とも宜しくお願いします。




