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思惑


 約束の時刻に合わせてエイベルは王城に入った。係の者が宰相の部屋に急ぎエイベル侯爵の来訪を告げる。宰相の執務室で二人は会った。

「ブロッケン宰相閣下に申し上げます。急な申し入れにも拘らず、お受けいただき感謝いたします」

 エイベルは貴族の慣習に従った挨拶をした。

「エイベル侯爵、火急の要件とは何かな?」

 先ず、ブロッケンが牽制する。

 

 エイベルは意にも介せずに要件を切り出した。

「スタンピードを終息させた冒険者に、領地を下賜されるお考えがあるのかを伺いに来ました」

「うむ、国王陛下の指示で伯爵位の叙爵と領地を下賜する予定ではある」

「場所は、どの辺りになりましょうや?」

「冒険者が自ら切り開いた場所が妥当だと考えておるが。エイベル侯爵に何か関係が有るのかな?」

 お前は何の権限で口を挟むのだ、とブロッケンは暗に言っているのだ。王太子と組んで宮中を牛耳ろうとしているエイベル侯爵を嫌っていた。


「あの場所は防衛上、国の重要な拠点となります。昨日まで平民だった一介の冒険者風情には荷が重すぎると判断します。王国の一員として、国家の先行きを案じておるのです」

「ふむ、殊勝な心がけではある。しかし、防衛面から言うならば、あの者こそ相応しいと言えるのではないかな。侯爵も報告会で見たであろう?」

「しかし、この先にミュウレ帝国と交易をする事になれば、あの場所は通商の要所となるでしょう。貴族に成り立て者に他国との交易を任せるというのは問題ではないかと思われます」


「エイベル侯爵。確かに、あそこは通商の要所になる道だが、同時にミュウレ帝国が侵攻してくる最初の場所にもなるぞ」

 ブロッケンは宰相としてミュウレ帝国の侵攻も懸念する立場だ。

「あれほどの戦闘力を使わない手はないだろう?」

 エイベルには宰相を納得させる理由がもう見つからなかった。

「わかりました。宰相閣下のご意見を私も支持します。本日はお時間を頂きありがとうございました。失礼します」

 ブロッケン宰相は前国王の実弟で現国王の叔父に当たり、公爵位を前国王に賜っている。傲慢なエイベル侯爵であっても強く出られる相手ではなかった。




 後日、宰相と謁見したレンヌは、最初に伯爵位を賜ると聞かされた。

 叙爵の件はゴランやルーベンスから聞き及んでいて、その時に二人の予想を聞いていた。

「たぶん、男爵あたりだろう」とゴランは言い。

「いや、子爵も有り得ますよ」とルーベンスは言った。

 だから、伯爵位の提示はレンヌを驚かせた。

「伯爵ですか! いいのでしょうか?」


 ストラスブール星も王制だから貴族は存在する。レンヌの功績を盗んだストラスブール王立宇宙科学研究所の所長も貴族だった。この惑星の王制とストラスブール王国の王制は、アルテミス1の調べで同じだと分かっていた。伯爵は上位貴族に含まれる爵位だ。だからこそ、二人の予想は下位貴族に絞られた。


 レンヌを伯爵に叙爵する予定だと伝えた宰相は、次に領地の説明に入った。

「貴族は爵位に相応しい領地を国王陛下より下賜されている。とうぜん、君にも伯爵に相応しい領地が下賜される」

 王国の全土図を見せられて、下賜される予定の領地の場所の説明を受けた。


 地図に示された場所を見て、レンヌは思った。

『ひょっとしたら、あそこも貰えるかも』

 レンヌは駄目もとで言ってみた。

「領地を頂けるのは大変に光栄なのですが、ひとつだけお願いがあります」

「言ってみよ」

「白壁山脈の一部を領地に加えて頂けませんか?」


 レンヌは、鉱物資源を採掘中の川の上流と森を含む一帯、そして白壁山脈の南端の一部を指で示した。そこには、あるものが有った。スタンピードの討伐終了後に、山脈の状態を確認しに行って見つけたのだ。

「そこは、王国の中にはあるが王国の国土では無い。欲しければ開拓するといい。さすれば君の領地と認められる。しかし、そこには強力な魔物が多数生息しておるぞ」


「はい。それを承知した上で、お願いしています」そう言った後、深く頭を下げた。

 レンヌは以前、どの国にも所有していない土地があるとゴランから聞いていた。エルフの里のように侵入できない土地、強力な魔物のせいで開拓を諦めた土地がそれに当たる。


「白壁山脈とその周囲の森は自由に開拓していい。その代わりにミュウレ帝国からの侵攻は必ず防いでくれよ」

「ありがとうございます。ご期待に応えられるように、堅固な城と壁を築きたいと思いますが宜しいですか?」

「もちろんだ。城と壁が無くては領地は守れないからな」


『よし、言質は取った』とレンヌはは思ったが、それだけでは安心できない。

「では、その旨を書面で頂きますように、お願い申し上げます」

「うむ。後日、正式な書面にして渡そう」

 レンヌは伯爵を叙爵する事と領地を下賜される事の事前告知を受けた。そのうえに開拓の許可をもらい、築城と外壁建造のお墨付きまで貰った。




 レンヌはアイシス伯爵邸に戻り、夕食時に子供たちを含む全員に伯爵の叙爵と領地の下賜を伝えた。

 年長組のステラとアンジュは喜んでくれたが、年少組のミルフィーユたちは理解できないのか食事に専念しているようだった。


 夕食後にアイシス夫妻とルーベンスの三人で叙爵の祝杯を上げる事になった。 アイシス邸のメイドさんたちに子供達のお世話をお願いしてレンヌは、三人が待つ部屋に入った。

「お待たせしました」

「いえいえ、こちらに座ってください」

 アイリーンが示したソファーにレンヌは腰を下ろした。


 ワインが入ったグラスが全員に行き渡るとアイシスが音頭を取る。

「それでは、レンヌ殿の伯爵の授爵を祝して乾杯!」

「乾杯!」

「レンヌ、おめでとう。おっと伯爵になるんだから言葉に気をつけないと駄目か」

 ゴランの言葉を聞いたアイシスが、笑いながら言う。

「今更、お前が何を言ってるんだ」

「そうか! お前も伯爵だったな。ワハハハ」

 みんなで笑った。


「しかし、防衛と通商を兼ねた領都の建造となると多額の資金が必要よね」

 アイリーンが心配そうに言うと、ゴランも続ける。

「ウチ(トリニスタンギルド)の金庫が空になるほどの金を渡したが規模が違うよな」

「まあ、なんとかしますよ」とレンヌは明るく言った。 


 レンヌには資金作りの宛があったのだ。ただ、それを始めるには設備が必要になるので、すぐには現金化できない。先ずは領都を建造して領民を集め、街を運営しなけれならない。

『人集めが先か。難しい問題だな。そうだ、アイシス伯爵に聞いてみよう』

「アイシス伯爵、領民はどうやって集めればいいのですか?」


「そうだな、先ずは王都や他の貴族の領地から民を公募する方法が一般的だね。職人などの即戦力が欲しい場合は奴隷を購入するという方法もある」

「奴隷ですか?」

「税金が払えなくなって奴隷になった者や一時的に子供を身売りする場合もある。口減らしで殺されるよりは身売りしても生きている方がいいだろう?」

『言いたい事はあるが、それをアイシスに言うのは筋ではない』

 レンヌは話を続けた。

「奴隷はどこで買えば?」

「大きな街なら、どこでも奴隷商会があるが、奴隷市場が開催される時に買う方法もある」


『奴隷の存在は文明が遅れているせいだ。民の生活水準が上がり、福祉の考えが確立すれば改善される。だけど、この惑星には現実に奴隷になっている人がいるのだ』

 奴隷を購入して解放するのは容易い。だが、この惑星にいる全部の奴隷を解放するのは、資金の面から考えても現実的ではない。また、奴隷制度を廃止しなければ元を絶てない。


『奴隷の存在を作らないためには、奴隷制度を廃止できる立場になる必要がある。一介の貴族ではなくもっと上の立場にならなければ、そして、最終的には……』

 レンヌは、自分の進む道が見えたような気がした。  



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