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暴走

『聞けば、心臓がもたない』とルーベンスは思った。

 魔物の総数を聞いた時から、ルーベンスがやれる事は決まっている。例え魔物最弱のゴブリンであっても五千体は相手にできない。領軍の総数を遥かに超えているのだ。対抗できる術が無かった。

そうなれば、ルーベンスが代官として取れる手段は一つしか無い。

「すぐにも領民を避難させましょう。もう、それしか方法がありません」

 そう言った後、ルーベンスは気づいた。


「レンヌさん。ひょっとして、スタンピードの発生時期を予測できますか?」

レンヌは、一つ頷いてから言う。

「早くて二日後、遅くて三日後と予想しています。だけど、情報が不足しているので、あくまでも予測でしかありません」

「遅くても三日! 無理だ。スタンピードの移動速度では逃げ切れない。たとえ十日の余裕が有っても、二十万人もの避難民を収容する場所が無い」

 ルーベンスは頭を抱え込んで膝から崩れ落ちた。


「代官殿、できる限りの事をするしかないでしょう。冒険者ギルドとしても全力で協力します」

「ギルドマスター、ありがとうございます。でも、冒険者ギルドと領軍だけで、五千体もの魔物に対抗できるでしょうか?」

「それなら、私も全力で戦います」

 レンヌの言葉を聞いて、ゴランの顔色が変わった。

「レンヌ。お前、正気なのか? 代官の前だぞ」


「えっ!」

 とルーベンスが気の抜けた声をだした。

「それは、どういう意味ですか?」

 ルーベンスの問いかけにゴランは頭を掻いた。

「こうなったら腹を括るしかねえな。代官殿、トリニスタン辺境伯爵がエルフの里に住むエルフ族を誘拐した事を知っているかね?」

 ゴランは一か八かの賭けに出た。ところが、返事はゴランの予想を覆すものだった。


「ええ。知っていますよ。その事件を貴方とレンヌさんが解決したこともね」

「えっ! なぜ、それを?」

レンヌは驚いた。

「一応、一族の本家が起こした事ですからね。人の口に戸は立てられません」

「じゃあ、あんたは本家と手が切れているのか?」

 驚きのあまりに、口調が素に戻ったゴランをレンヌが注意する。

「ギルマス、言葉使いが素になっています」


「あっ! これは、申し訳ありません。代官殿」

「構いませんよ。いつもの口調で話していただいても、レンヌさんもね」

 それから、ルーベンスは椅子に座り直してから言った。

「これからは、お互いの腹を割って話しませんか? スタンピードという絶望的な危機を前にしている状態で、隠し事をするのは得策ではないと考えます」

「わかった。ルーベンス殿を信じよう。レンヌもいいか?」

「俺も信じますよ。だけど、今から言う事は他言無用に願います」


「わかりました。お二人の事を信じるのは私も同じです。そうでなければ、この状況を乗り切る事は出来ないでしょう」

「なら、話します。ギルマスは一度見たことがあるんですが、別邸の中庭が爆発したのを覚えていますか?」

「二回爆発した、あれだな?」

「はい、あれは俺の魔道具なんです」


 耳にタコができるほど聞いたセリフなので、ゴランは驚かなかったがルーベンスは反応した。

「レンヌさん、それを見る事は可能ですか?」

 領主の別邸での出来事を思い出したゴランが答えた。

「代官殿、ものすごい爆発音と衝撃が起こるから無理だと思う」

「その通りです」レンヌも頷いた。


「その魔道具を使えば、スタンピードを止める事ができるのでしょうか?」

「はい。恐らくは大丈夫かと思います」

「どのみちレンヌの魔道具が通じないなら終わりなんだ。ここはレンヌに全てを託すしかないと思うぜ、代官殿」

「わかりました。レンヌさんに全てを託します」

「でも、もしかして上手く言っても五千体もの魔物死体が出るだろう? 後始末の人数が必要になるな」

ゴランは、よほどレンヌの事を信用しているのだろう。もう、後始末の事を考え始めた。

「そちらは領軍で請け負います。お任せください」

「よし、話は付いたな。なら俺は帰らせてもらうよ。ギルマスとサブマスが二人揃って留守にするとマズイんでね」


「そうですね。お食事でもと思ったのですが、スタンピードが片付いてから改めて招待させていただきます。アニエスさんとイネスさんにもご迷惑をおかけしました。本家の愚か者に代わって謝罪させてください。申し訳ありませんでした。全部の事が片付いた時に、賠償なども含めてお話させてください。今日は本当にありがとうございました」

 アニエスとイネスは顔を見合わせて頷いた。アニエスが代表して言う。

「謝罪は受け取りました。先ずはスタンピードの対策が急務です。その他の事は全てが片付いてからにすべきだと、私たちも考えています」

 その後、ゴランとグレイは代官の馬車で送ってもらい、レンヌたち三人は揚陸艦に乗り込みエルフの里に向かった。




 しかしながら、遅くとも三日と判断したアルテミス1の予測は外れた。

「あれから、十日か。いったいどうなってるんだ?」

 冒険者ギルドの執務室でゴランはレンヌの顔を見た。

「すみません」と謝るレンヌにゴランは慌てて言う。

「いや、お前を責めている訳じゃないんだ。ただ、嫌な予感がして不安なだけだ」

 アルテミス1の予測が外れた原因は判明している。スタンピードに対する情報が圧倒的に不足していたからだ。


 その時、アルテミス1から緊急連絡が来た。慌ててゴーグルをかけると画面が真っ赤になっていた。緊急警報の場合の警告色だ。

「艦長、スタンピードです」

「ギルマス、スタンピードが始まりました」

「嫌な予感だけは当たるもんだな」とゴランは、吐き捨てるように言って立ち上がった。


 レンヌが先に行き、ゴランとグレイが後から冒険者ギルドの裏口に回った。そこは広い訓練場になっていた。既に、アルテミス1の手配で揚陸艦が着艦していた。三人が乗り込むと急浮上して領主屋敷へと飛んでいく。レンヌは通信機をオープンチャンネルで送信する。

「スタンピード発生! 各自は打ち合わせ通りに行動せよ」


 途中でルーベンスを拾い、更にアニエスとイネスを乗せた揚陸艦は、ダンジョンの近くの崖の上に着艦した。全員が降りてダンジョンの方を見た時。スタンピードで溢れ出した魔物で、山脈の麓は埋まっていた。そして、先頭の魔物は早くも山脈の麓の森を抜けようとしていた。

「なんだ、あれは!」ルーベンスはレンヌに借りた双眼鏡を覗き大声を出した。

 多数のCランクの魔物だけじゃなく、数百体のBランクの魔物が見えたからだ。

「これほどとは思わなかった」

 ルーベンスは消え入りそうな声を漏らした。


 予想よりもスタンピードが起こるのが遅かった分だけ、魔物の数が増えていたのはレンヌたちも予測できなかった。

『それにしても予想の二倍になるとは。やはり、この惑星の予測は難しい』

 とレンヌは思った。


 これだけの数の魔物が広がって各地に散ってしまったなら、レンヌたちだけでは手が足りない。

「もうだめだ!」とグレイは言い、ゴランは悔しさを顔に滲ませた。

「レンヌ様!」とアニエスが悲痛な声で名前を呼ぶ。イネスはレンヌの腕を力強く掴んだが、その手は震えていた。


 レンヌは覚悟を決めた。アルテミス1が暴走する可能性は否定できなかったが、この状態ではもう切り札を切るしかないのだ。レンヌはインカムを使って叫んだ。


「アルテミス1! 武装大型ドローンの主砲使用を許可する!!」

「艦長! お任せください!!」

 アルテミス1が張りのある声で叫んだので、レンヌは急に不安になった。

『早まったか?』

 そのレンヌの不安は、的中する。

「『収束型光量子砲』全門、全出力開放!!」

「なっ!」アルテミス1の言葉を聞いたレンヌが驚きの声を上げるが、後の祭りだった。


 二機の武装大型ドローンから発射された『収束型光量子砲』の二条のレーザーは山脈の前面に展開していた魔物全部を消滅させ、勢い余って山脈の北端の山二つを吹き飛ばした。十連の山が八連になって、ダンジョンは山ごと消し飛んだ。


 崖の上から見ていたルーベンスとゴラン、それからグレイの三人は言葉を失って固まる。そして、それはエルフの里から援軍に来ていたエルフたちも同じだった。ほとんどのエルフ族も呆然と立ち尽くしていた。ただ、二人を除いては。


「流石はレンヌ様」とアニエスは誇らしい顔を見せ、イネスは潤んだ瞳で言う。

「やっぱり、レンヌ殿はお強い!」




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