暗躍
翌日、レンヌは山にいた。
鉱物資源を調べていた探査機から、鉱物発見の連絡がアルテミス1を経由して送られてきたからだ。
「艦長、白壁山脈を源流とする川の上流から鉄鉱石を採取しました」
連絡を受けたレンヌは、揚陸艦で調査現場の山に向かった。
光量子エンジンの最高速度は光速に匹敵する。しかし、空気抵抗の関係で惑星の大気中をその速さで進むことはできない。音速の数倍程度で飛ぶ。それでも衝撃波が発生するので低い高度では飛べない。衝撃波の影響が出ない高高度を時速5000キロほどで飛ぶと速いが、移動するよりも高度の上げ下げの方に時間がかかる。なので、通常は時速2000キロほどで移動する。
レンヌは採掘場所や川の現況を視察した。
今回、鉱物が発見された川は山脈の中央だ。広大な森が広がる麓から比較的近い場所だった。川は森を南北に分けて東の海へと向かっているようだ。全長数百キロにおよぶ山脈の麓には幾つもの広大な森が点在していた。そのうちの一つ、南の森にエルフの里がある。
白壁山脈は大陸の南から中央にかけて南北に走っている。標高一万メートルの山が十も連なる山脈だから山の上部は雪と氷で覆われていた。当然ながら、雪解け水を水源とする大河がいくつも流れている。春に溶ける大量の雪解け水は中流域でたびたび氾濫を起こしていた。
その山脈の中央付近から流れる大河で鉄鉱石が発見された。その大河の上流の同じ場所で、露出した鉄鉱石の鉱床も確認されている。
「アルテミス1。採掘車と運搬車、それに大型輸送艦の製造状況はどうだ?」
「現時点で採掘車と運搬車は必要台数を製造済みです。輸送艦は大型なので資材が不足しています」
「山脈の麓に製鉄所や精錬関係の施設を建設してはどうか?」
「効率を重視するなら施設を建設すべきだと判断します」
「これだけ広範囲の山脈なら各種の鉱物資源が期待できるだろう。鉱物に応じた各種の製造施設を建設してくれ。同時に各種の工作ロボットの製造も許可する」
「了解しました。艦長、建築場所の選定はどうしますか?」
「採掘場所と水源の場所を考慮して最も効率の良い場所を選定してくれ。それから、川の汚染だけは注意してくれよ。生態系を壊したくない」
「わかりました。環境に配慮して建設します」
未知の惑星に各種の施設を建設することは躊躇われたが、レンヌは戦艦アルテミスの修理を早急に進めたいと考えていた。そのためには関連施設の建設が必要だとレンヌは判断した。
レンヌは施設建造の早期実現のために、アルテミス1に鉱物資源の採掘と金属加工に関する全ての許可を与えた。これは全ての判断においてアルテミス1の自己判断を許可するものだった。そして、この方法はストラスブール王国では国内法で禁止されていた。
「ここはストラスブール王国ではないので王国の国内法は適用外です」と、今のアルテミス1の疑似人格なら言いそうである。だが、レンヌは戦艦アルテミスの修理を急いでいたので、その事に気づけなかった。
そのあとレンヌは、子供たちの部屋を確保する必要から、新たな拠点場所の選定をアルテミス1に指示した。現在の場所は辺境伯爵の土地なので、後に揉める事は必至だった。子供たちが安全に遊べる自然豊かな場所に、新しい拠点を建築したいとレンヌは考えた。
その頃、ロワール王国の貴族地区にある広大な屋敷では、秘密の部屋で三人の男たちが話し合っていた。一人はこの屋敷の持ち主であるエイベル侯爵、もう一人はエイベル侯爵の外孫でこの国の第一皇子でもある王太子、そして最後の一人はトリニスタン辺境伯爵である。
娘が王妃になり、しかも孫が王太子になったことでエイベル侯爵の権力は、動かし難いほど権威を有した。現王妃の父親で、いずれ王となる王太子の祖父である。甘い汁を求める者が大勢すり寄ってきた。エイベル侯爵は国の中枢に派閥の有力貴族を送り込み、現在の国王が亡き後、ロワール王国を自分の一族で牛耳ろうと画策していた。実質的な『国の乗っ取り』である。
ゴダールが集めたエルフや子供たちは従属魔法を掛けたあと、トリニスタン辺境伯爵を介して各地の有力貴族に送り込まれていた。ある者は弄ぶために美しいエルフを求める姦賊であり、ある者は子供を慰みものにしては喜んでいる極悪人だった。
しかし、エルフを捕まえることは容易ではない。なぜならば、エルフは滅多に迷いの森から出て来ないからだ。ゴダールは傭兵を使い四六時中迷いの森を見張らせていた。前回エルフを捕まえたのは十年も前である。もっともエルフは長寿の上に老化が遅いので十年くらいでは、その美しさは損なわれない。
それに反して、子供は集めやすかった。この国は賄賂やコネが横行しているので権力者や金持ちほど富が集まる。代わりに平民や弱者は財産を奪われ、酷いときは家族や命まで奪われる。スラムの住民は増え続け、スラムに住む子供も多かった。
ゴダールは謂わば『金の成る木』だった。その木をレンヌが伐採したのだ。エイベル侯爵の怒りは凄まじいものだった。金の成る木を失ったことより、自分に逆らう者が居るという事実が許せなかった。
今日、三人が集まったのは、レンヌとゴランに報復するための協議をしていたのだ。
冒険者ギルドのトリニスタン支部のマスターをしているゴランとそこに所属しているレンヌだから、冒険者ギルドに圧力を掛けられれば簡単に済む話だった。
しかし、冒険者ギルドはロワール王国と協力関係にあっても独立した組織なので、例えエイベル侯爵と雖も介入する手段が無かった。とすれば、何かの罠にかけて二人を捕縛するしか方法が無いのが実情だ。その罠の相談を三人はしているのだ。
エイベル侯爵は王妃と王太子の権威、それに自分の権力を使って強引にトリニスタンの罪を揉み消した。そして、トリニスタンを、民間人を取り締まる警務院の審議官に押し込んだ。強引に空きを作るために、一人の審議官の家を冤罪で取り潰したほどだ。
とうぜん、罠にかかって冤罪を被せられた貴族は黙っていない。一族総出で法務院に訴えた。法務院の門前には投獄されたスコット男爵の一族が大勢集まって本家の無実を訴えた。 これ以上、騒ぎが大きくなるのを懸念したエイベル侯爵は、門前に集まったスコット一族に騒乱罪を適用して捕縛した。何人かは逃げのびたが、大半の者は投獄された上に従属魔法を掛けられて奴隷にされた。
トリニスタンを警務院の審議官にしたエイベル侯爵の狙いは明らかだった。警務院の力を使ってレンヌに冤罪を被せて逮捕するつもりなのだ。ゴランの力を持ってしても国の役人に楯突く事はできない、とエイベル侯爵たちは思っていた。国を牛耳っている三人にすれば一掴みの反逆者など蟻にも等しい存在だった。権力を使えばどうとでもなる存在でしかない、と思っていた。
だが、この悪巧みは、すぐ後でレンヌに知られる事になる。
トリニスタン辺境伯爵の無罪放免とエルフの里に謝罪も賠償もしない国をレンヌは信用できなかった。不信感でいっぱいだったレンヌは、王都に来たついでに小型ドローン二十機を使って情報収集をさせた。キーワードには『レンヌ』と『ゴラン』の他に『トリニスタン』と『辺境伯爵』を使った。
ステルス状態で透明化した小型ドローンが超高感度集音マイクと超小型カメラを駆使して、情報を集めるために昼夜を分かたず飛び回っている。機械だから休みも休憩も必要ない。情報を求めて、休み無く動き回っていた。
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