エルフと奴隷商人
『カクヨム様』3万PV達成記念に『小説家になろう様』にでも投稿する事にしました。宜しくお願いします。
その時にアルテミス1から通信が入った。
「艦長、録画再生の準備ができました」
レンヌは前もって録画をしていた事を思い出した。
ここからレンヌの逆襲が始まる。
「ゴダール、お前は俺が法を犯したと言ったな。それは何を指して言っているのだ?」
「もちろん、レンヌ様が私達を傷つけたことです。あっ! まさか、治療して傷が消えたから、やっていないと言われるんじゃないでしょうね」
「そんな嘘はつかない。お前とお前の雇った者たちを傷つけた事は認める。だから、お前も嘘をつくなよ」
「もちろんでございます。商人は信用第一ですから」
「お前はロワール王国の法を犯していないと言ったな?」
「はい、言いました」
「それじゃあ、聞くが。他人に武器を向ける行為は適法なのか? 俺はお前が雇った者たちに襲われたから自分の身を守るために戦ったのだ。それはロワール王国の法では違法となるのか?」
ゴダールは顔を歪めて押し黙った。
「どうした返事をしろ。さっきまでの勢いはどこに行った」
「自分の身を守る行為は適法でございます。ですが、私にはレンヌ様が先に攻撃されたように見えました」
ゴダールは傭兵たちを見た。途端に傭兵たちが騒ぎ出す。
「そうだ、俺はあんたに攻撃されたから剣を向けたんだ」
「そうだそうだ、俺も攻撃されたから仕方なしに武器を取ったんだ」
「俺もそうだ。あんたが先に攻撃したと証言するぞ」
『こいつら、証拠が無いと思って虚言を押し通す気だな』
レンヌはゴダールたちを睨みつけた。ところが、いつまでも続く悪党どもの戯言にアルテミス1が先にキレた。
「艦長、いっそ全員を始末してしまいましょう。死人に口無し、です」
『アルテミス1が過激だ。こんな事を言うなんて。やっぱり疑似人格の形成に問題を生じたように思える。グレたのか? アルテミス1』
レンヌはアルテミス1の人格形成に疑問を持ったが、今はゴダールの事が先だと考えを切り替えた。
「ごたごた五月蝿えんだよ。おう! 証拠が無いだと。これを見てから言いやがれ」
「アルテミス1、録画した動画を空中投影してくれ」
「了解しました。艦長の後方に投影します」
「ゴダール、白を切っても無駄だ。俺の後ろを見ろ」
全員の目がレンヌの後方に注がれる。
そこに現れたのはホログラムのような映像だった。何もない空中に浮かぶ立体映像に皆が驚きの声を上げた。
音声こそ無いが、森から出てきたレンヌに武器を持った傭兵たちが襲いかかる場面が映っていた。
「すごい魔法だ」
エルフのアスカが思わず声を出した。
「魔法? これは魔法なのか」とラトゥがアスカに問うた。
「魔法で無くて、これをどう説明するのだ」
「そ、そうか。そうだな」
「レンヌ殿は魔法使いでしたか? しかも、かなり高位の魔法使いと見受けました」
アスカの思い違いにレンヌは乗った。
「確かに、これは過去を見通す魔法だ。時間を遡って過去を見る事ができるのだ」
エルフと傭兵たちが驚嘆の声を出し、ゴダールは顔を伏せて地面に両手を着いた。
「これでも白を切るつもりか!」
「申し訳ありませんでした」
とゴダールを含めた男たち全員が土下座をした。
「ゴダール、この始末どうつけるつもりだ?」
「参りました、レンヌ様。この魔法と言い、先程の光魔法と言い。私どもが太刀打ちできる相手ではありませんでした。謹んでお詫び申し上げます」
「言葉だけじゃ、足りねえぜ」
『言葉が戻らなくなってしまった』とレンヌは焦りながらもゴダールの様子を伺った。
「今後はエルフの皆様に対して無礼な事は致さぬと誓います。そして、レンヌ様に虚言を使って無礼を働いたお詫びとして金貨200枚をお支払いさせていただきます」
「金貨200枚」そう言ったあと、ラトゥは慌てて手で口を押さえた。
「よし! それなら手打ちにしてやらあ。金の受け渡しはどうする?」
「領都に戻り次第お支払いしますので、ご足労ですが私の商会に来ていただけないでしょうか?」
「わかった。商会の場所はどこだ? そして何時行けばいいのだ?」
「場所は冒険者ギルドの者なら知っております。明日のお昼の鐘がなる頃にお願いします」
「わかった。もう行っていいぞ。俺たちも帰るからな」
ゴダールと傭兵たちは馬車まで走って行き、我先にと乗り込んだ。そして、大急ぎで馬車を走らせた。
「ありがとうございました」
アスカとラトゥが頭を下げて礼を言う。
「いえいえ、お怪我が無くて良かったです」
「助けていただいた事をエルフの里の族長に話してから改めてお礼をさせて頂きたいと思います」
レンヌはお礼は不要です、と言ったが、そういう訳ににはいかないと押し切られてしまった。しかし、エルフは街に入れないから連絡する術が無いと言うので、レンヌは小型通信機を渡して使い方を説明した。二人のエルフが去ったあと、レンヌはゴブリン討伐の依頼をする事にした。
移動するために探査車に戻る。
「アルテミス1、ゴブリンが生息する場所を調べてくれ。なるべく数が多い方がいい」
「了解しました」
「それから、エルフの事が知りたい。あと、エルフの里についても調査しておいてくれ」
「艦長が使用している小型ドローン5号機を使ってもよろしいでしょうか?」
「許可する。それと静止衛星の使用も許可する」
「了解しました、調査を開始します」
レンヌはアルテミス1から連絡があった場所へと移動を開始した。
「今度は川沿いの森か」
「さっきの森に比べると小さいですが、多くの生命反応が有ります」
「わかった、すぐに探索を開始する」
目的地の 森の外縁に探索車を駐車する。アストロンを伴って降りたレンヌは、すぐにシールドを展開した。
既に、上空には武装した大型ドローンが待機している。小型ドローン五機に先導させて森の中に入った。
ドローンのサーモグラフィシステムを起動させて、周囲の生命反応を探る。五機のドローンの情報は一旦メインコンピューターのデータベースに集められて瞬時に整理される。それからレンヌのゴーグルにデータが送信されて地図が表示された。それは、ほとんどリアルタイムと言っていい僅かな時間だった。高度な文明を持つストラスブール王国の送受信システムにはタイムラグなど存在しないのだ。
「静止衛星のサーモグラフィシステムでは、もう少し先に多数の反応があるけど、この辺は反応が少ないな」
森の奥に進むと赤い点が一つ出たので、レンヌはそこに向かって移動する。 先行させた小型ドローン6号機からの映像が送られてきた。
「今度こそ、間違いない。ゴブリンだ。ギルドの資料室で見たゴブリンの特徴に一致する」
レンヌは周囲をゴーグルで確認しながらゴブリンを目指した。
小型ドローンのサーモグラフィシステムでゴブリンが一体しかいないのは確認済みだ。
レンヌは躊躇なく近寄り、アストロンで攻撃した。
『依頼完了には体内にある魔石が必要だから取り出さないと』
レンヌはそう思ったが、体内を切り開いて魔石を取り出す様を想像して憂鬱になった。
「アルテミス1、小型ドローンで魔石の採取は可能か?」
「マニピュレーターを使えば簡単に採取できます」
小型ドローン6号機のマニピュレータの三本爪が、ドリルみたいに回転して体内に入り魔石を抜き出した。
「アルテミス1、もっとゴブリンの魔石が必要だ。探索して回収してくれ」
「お任せください、艦長。それでは静止衛星のサーモグラフィシステムをアストロンと小型ドローンにリンクしてゴブリン討伐を進めます」
「了解、アルテミス1」
「アストロンは艦長の護衛を兼ねているので、艦長は生命反応がある場所に移動願います」
「わかった。それじゃあ、行動開始だ」