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【紅蓮町編・最終話】Mission Complete!

 空飛ぶ車『エアドライバー』には、二人の男性のモンスターが乗っていた。

 一人は、オーク。

 もう一人は、エルフ。


 廃墟となった高層ビルの合間を、宙に浮かんだ車が通り抜ける。


 運転しているオークに、エルフが提案する。


「なあ、沖村の事なんだけどさぁ、先に俺たちでヤっちゃわない?」

「え~。俺、ゴブリンとか気味悪くて無理」


 オークの男性は、ゴブリンであるカノンの事は生理的に受け付けないようだ。

 エルフの男性がニヤニヤと笑う。


「ならさ!俺にくれよ!たぶんアレ処女だぞ。他の奴らにやるの、勿体(もったい)ねえ!」

「お前、よくアレに()つな……」

「な?いいだろ?」

「あー、分かった分かった。さっさと済ませろよ」


 オークの男性は、うんざりとした表情で、エアドライバーを廃ビルの十二階へと、割れた窓から、部屋の中に車を侵入させる。


 そこは、元々はオフィスだったのだろう。

 幾つものデスクが、乱雑に置かれていた。


 (さら)ってきた沖村(おきむら)花音(カノン)は車のトランクに閉じ込めてある。

 騒がないように、布を咥えさせて。


 エルフの男性が、うきうき顔でトランクを開ける。


 だが、そこには、カノンの代わりにマネキンが有るだけだった。

 マネキンの首には、マモリのドヤ顔の印刷された、お守り。


「……は?なんだこれ」


 すると、突然、エルフの首を後ろから掴む腕があった。


 それは、黄金の鱗の左腕。

 掌には『Good Luck!』のホログラム。

 エルフの首には『針千本』の札が貼られた。


 途端、数えきれないほどの鋭い針がエルフの全身に突き刺さる。

 それは、眼球も鼻も舌も貫通させ。

 胴体にも、隙間なく刺さる。

 勃起していた性器までもが串刺しだ。


「ぎいいあああっ!」


 あまりの激痛に、身もだえするエルフ。

 だが、身を動かす度に、針が深くめり込み、鋭い痛みが全身を襲う。


「何だ?どうした?」


 運転席にいたオークが、剣を掴んで降りてきた。


 だが、オークの手足には、響く銃声と共に、9mmパラベラム弾によって、大きな穴が空く。


「ぐああああっ!」


 細かなガラスの破片が散らばる床に、転がるオーク。

 そこに、マントを(なび)かせて降り立つ、カノン。

 両手には二丁の拳銃が、硝煙を上げていた。


 カノンのジョブ『ガンスリンガー』は、銃を扱う専門家。


 レベルとステータスが低いため、カノンは弱いと思われている。

 しかし、筋力が最弱の代わりに、素早さと器用さが高いゴブリン。

 筋力が不要の高火力のガンスリンガー。

 この二つは、最高の組み合わせなのだ。


 手足から血を流すオーク。

 カノンを見て、声を上げる。


「お、沖村ぁ!?トランクに詰め込んだはず……」

「あれは私の偽物ですよ」


 痛みと驚きで、口ごもるオーク。


 そこに、フラフラと歩み寄る、人影。

 オークは人影を見上げる。


 千の針を突き刺され、瀕死のエルフだった。


「た、たしゅけ……」


 その後ろの暗闇からは、黄金の尾が迫ってくる







「あいつら、遅いわねぇ。ナニしてんのかねぇ」


 元魔導院所属の兵士たちが集う、ナイトクラブの廃墟のVIPルームには、隊長格であった、ラミアの剣士が、刀を鞘から出し入れして、暇をつぶしていた。

 ラミアは、下半身が蛇の種族。

 ジャンプができない代わりに、地上を素早く走れるのが特徴だ。


「沖村とマモリをヤってんのかしら。まあ、それならそれでいいけど。

 ……ん?」


 何やら、(にわ)かに外が騒がしくなる。

 悲鳴が聞こえる。


 ラミアの剣士は、VIPルームのカーテンを上げ、外を覗き込む。


 そこには、ナイトクラブに突っ込んでくる、空飛ぶ車、エアドライバー。


「ふぁっ!?」


 入り口のガラスを粉砕し、バーカウンターを吹き飛ばし、兵士たちを轢き殺し、回転しながら店の中央のコンクリートの柱の衝突する。


 ぐしゃぐしゃになった、エアドライバーのボンネット。

 車体のカバーがひしゃげ、潰れたエンジンが煙を上げている。


 車の中には、身体中に針が刺さったエルフと、全身を切り刻まれたオークの死体。

 明らかに、拷問された形跡があった。


 ナイトクラブ中の兵士が、集まって来る。

 それぞれの武装をしながら。


 これは一体、誰の仕業だろうか。

 いや、心当たりは、一つしかない。

 あの黄金の尾の……。




 その時。


 ナイトクラブの外の駐車場から、硬い靴音がした。


 こつ、こつ、と。




 全ての兵士が、駐車場方面へと、警戒を向ける。


 矢をつがえる者。

 サブマシンガンを構える者。

 魔法の杖を突きだす者。

 ラミアの剣士も、刀の鯉口(こいくち)を切り、居合の構え。




 こつ、こつ。


 真夜中の、暗闇の駐車場。

 ナイトクラブの明かりが漏れた場所に、黒いブーツが見えた。


 ブーツから上は、暗くて見えない。

 だが、ちょうど左頬にあたる部分であろう所には、赤い文字が光っていた。


 『Six Feet Under』




「奴だ!殺せ!」


 ラミアの剣士が叫ぶ。

 その場の全兵士から、矢や銃弾や魔法が放たれる。

 しかし、その黒いブーツの手前で、全ての攻撃が、直角に地面に落ちる。

 まるで、もの凄い重力で潰されたかのように。


 炎の魔法が、地面にくすぶり、煙を上げる。

 その明かりで、暗闇に浮かぶ乱陀の姿。

 黒いブーツの底からは、赤い魔法陣が広がる。

 魔法陣の外周に浮かぶ『日本魔導院・疾風ノ術』の文字。


「高速移動が来るぞ!気を付け……」


 その瞬間。

 ナイトクラブの中に、黒い突風が吹き荒れる。

 床を、壁を、天井を跳ねながら。

 そして、兵士たちには不幸が舞い降りる。


 頭が爆散する者。

 胴体が真っ二つに斬り裂かれる者。

 首が、何回転も捻られて絶命する者。


 黒い突風に触れた者から、奇怪な死を遂げる。


 あまりにも速すぎて、残像すら映らない。

 魔導院の高速移動のブーツは、魔力のステータスが高いほど、速度が上がる。

 今、乱陀は、誰も見たことすら無いほどの速度で、ナイトクラブの中を縦横無尽に駆け巡っていた。


「ぎゃあっ!」

「ぐへっ!」

「あがっ!」


 七十人は居たはずの兵士たちが、みるみるうちに減っていく。


 ラミアの剣士の隣にいた、青鬼の隊長が、金棒を持って出陣する。


「野郎!好き勝手しやが……」


 青鬼の頭が、9mmパラベラム弾で砕け散る。


 ナイトクラブを跳ね回っているのは、乱陀だけではない。

 カノンも、乱陀ほどの速度ではなかったが、ブーツに編み込まれた高速移動の術式で、天井や壁を跳ね回りながら、銃弾で兵士を撃ち殺していた。




 カノンは、本気で戦ったことが無かった。

 いや、正確には、本気で戦う機会が訪れたことが無かったのだ。

 誰もが、ゴブリンの戦闘力など(たか)()れていると思い込んで、戦う機会を与えなかったのだ。


 だが、ここに来て、初めて思い知ることになる。


 ゴブリンのガンスリンガーの強さを。




 ナイトクラブの中を、呪いと弾丸の嵐が巻き起こる。




 ラミアの剣士は、近くにあったテーブルの下に潜り込み、困惑していた。

 乱陀とカノンの、あまりの強さに。

 特に、乱陀は異常だ。


 勝てるビジョンが浮かばない。

 せめて、逃げなければ。


 ラミアの剣士は、持ち前の素早さで、ガラスの砕けたナイトクラブの入り口に疾走する。


(このまま、あそこまで……!)


 ラミアの剣士は、入り口を通り過ぎた。


 そして、見えない壁に、思い切りぶつかった。


(いったぁ!なにっ!?壁!?)


 見えない壁との衝突により、額から血を流すラミア。


(これ……、壁じゃない!結界だ!)




 ナイトクラブの駐車場で、エアドライバーのボンネットに腰かけている、影のような男が一人。

 一つしかない目で、ナイトクラブの中を見つめていた。

 その腕には、大きなナノマシン結晶で作られた、結界発生装置の腕輪。


「僕も、怒ってるんですよ。

 沖村さんも、マモリさんも、大切な友人なんです。

 よくもまあ、好き放題やってくれましたね。

 ここからは、一人も、一歩たりとも、出しません」




 ラミアは、結界の壁に斬りつける。

 だが、刀の方が刃こぼれをして終わりだった。


(なに……、なにこれ……)


 そこに、背後に降り立つ気配。

 ラミアの剣士が振り向くと、少し離れた場所に、銃を構えたカノンが立っていた。


「ぐ……。沖村ぁ!」


 ラミアの剣士は刀を構え、蛇の下半身を滑らせ、カノンに迫る。


 だが、突然に圧し掛かる、二百キログラムの重力。


「ぐべぇっ!」


 床に手を突き、潰れそうになる内臓を何とか保護する。

 だが、身体が重すぎて動けない。


 ラミアの目の前には、カノンの黒いブーツ。

 今、カノンは9mmセミオートピストルの銃口を、ラミアの頭に向けていた。


 涙目で、がたがた震えるラミア。


「ま、まって……。

 たすけてよ。

 みんな、ただの悪ふざけだったんだって。

 本気でやる訳ないでしょ?

 ね?」


 カノンは、躊躇(ちゅうちょ)無くトリガーを引いた。

 脳を撒き散らし、砕け散るラミアの頭蓋。


 このラミアが最後の一人だった。

 これにて、敵全員を殲滅。


 ミッションコンプリートだ。




 カノンの網膜には、レベルアップの表示が、先ほどから連続して映し出されていた。

 この戦いで、レベルが10上がり、30となったのだ。


 ここに来る前、乱陀とカノンとエドワードは、パーティ申請を行っていた。

 体内のナノマシンによる、パーティの認証。

 これにより、戦いの経験値も、三人共通で得ることができたのだ。


 エドワードもレベル41から46へと上がっていた。




 カノンの後ろから、やってくる足音。

 誰の足音か、もう聞くだけで分かる。

 カノンは、思い切りの笑顔で、振り向いた。

 八重歯のような牙を覗かせて。


 そして、カノンはその人物に抱き着く。


 黄金の鱗の左手が、カノンを受け止めた。








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― 新着の感想 ―
[良い点] カノンちゃん=ゴブリンの良さを作者が解っているところ、ゴブリンって気持ち悪いと世見で言われていますが元々妖精なだけあり、可愛い容姿をしているんですよね、作者頑張れƪ(‾.‾“)┐(^∇^)…
[良い点] とにかくストーリーのテンポが良い 疾走感ハンパない [気になる点] 途中途中で効果的に暗示される 「Six Feet Under」とは一体 [一言] 更新ありがとうございます まずはザコ…
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