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【最終話】ウォーロック&ゴブリンガール!

 眠る乱陀とカノンの枕元で、目覚ましが鳴る。


「ぎゃあああああっ!」

「ひぎいいいいいっ!」


 勇斗とエリネの苦痛の悲鳴が響き渡る。


 これは、凝縮したヘル・ギフトを内蔵させた、目覚まし時計。

 普段は音を(さえぎ)っているが、定刻が来た時だけ、音の遮断を無くすように作られていた。


 乱陀は、目覚ましを止める。

 二人の悲鳴が聞こえなくなった。

 もちろん、音を遮断しただけで、地獄の中では今も悪夢の刑罰が繰り広げられている。

 二十四時間、三百六十五日、休みなく激痛が続くのだ。


 暗黒町の朝は暗い。

 カーテンの隙間から外を覗いても、LEDとネオンサインの明かりが、真夜中と同じように灯っているだけだ。


 乱陀の隣では、裸のカノンが目を覚ましていた。

 美しい緑色の肌。

 乱陀は、カノンの首筋にキスをする。


「あんっ。おはようございます、乱陀さん」

「おはよう、カノン」


 乱陀とカノンは、何度か唇を重ね合わせ、脱ぎ捨てられた下着を取る。


「今日、進路相談らしいぞ」

「あ、そうなんですか。でも、乱陀さん、このまま魔導院所属じゃないんですか?」

「俺はそのつもり。でも、魔導院側から拒否される可能性もあるだろ」

「紅蓮市の英雄を、追い出すなんて事はしないと思いますが……」

「わからんぞ。他人の気持ちなんて、知ることは不可能だからな」


 乱陀は、何か月経っても、人間不信は治らなかった。


 カノンが、下着姿のまま、乱陀に絡みつく。


「私の気持ちも知らないんですかぁ?」

「カノンは他人じゃないから」


 顔を見合わせ、笑う乱陀とカノン。

 そしてまた、キスを交わす。







 乱陀とカノンは、制服のブレザー姿で、エアライダーに二人乗りをして、登校する。

 飛行場にエアライダーを停めると、その隣を竜次と霞が、エアボードに乗って過ぎ去っていった。

 乱陀とカノンに、手を振る竜次と霞。

 暗黒町からは分からなかったが、今日は雲ひとつない晴天だ。




 廊下を歩いていると、向こうから男女が歩いて来た。

 エドワードと飛鳥だ。

 エドワードは、スーツの上にレジェンド級の白衣を羽織っていた。

 飛鳥は、レディース用のスーツを着て、エドワードの腕にしがみついている。

 飛鳥は、教育実習生として、迷い学園に配属になった。


 乱陀は、エドワードに手を上げる。


「よう、エドワード」

「おはようございます、乱陀さん」


 すると、エドワードの腕に絡みついていた飛鳥が、乱陀を指差す。


「逆!逆だから!エドワードさんが先生なんだから、お前が敬語を話すんだよ!」


 エドワードは、飛鳥を(なだ)める。


「いいんですよ。何か、今さら先生ぶっても、変な感じしかしないから」

「んもう。エドワードさん、甘いぞ」


 そう言って、エドワードにしだれかかる、飛鳥。

 この二人は、つい先日、飛鳥の猛アプローチの結果、付き合いだした。


 そして、それを聞いたファーフライヤーは、その日の夜、藍之介とヤケ酒を飲みまくり、勢いで藍之介と寝てしまったそうだ。

 今では、藍之介とファーフライヤーは、超ラブラブカップルになっている。

 藍之介的には、マモリについては、ただのファンに過ぎないとのこと。

 ファーフライヤー曰く、藍之介は「実はかっこいい」らしい。

 何のことか、さっぱり分からないが。


 エドワードは、迷い学園の教師兼、研究員となった。

 元々、日本トップの大学に通っていたエドワードは、テストで選抜された進学クラスの担任教師をしている。

 なんと、その進学クラスにはツバキがいる。

 ツバキは、妙な方向に頑張らなければ、頭は優秀なのだ。




 迷い学園の広大な廊下を歩く、乱陀とカノン。

 二人は、二年二十八組。

 もうすぐ三年生となる二人は、朝から進路面談がある。


 ノックもせずに面談室へと入る乱陀。

 カノンの面談は、乱陀の後らしい。


 そこには、乱陀の担任の女教師が座っていた。


「水雲君。まずは、部屋に入る時はノックしなさい」

「ああ、悪い」

「あと、敬語!目上の人には敬語を使う!」

「ああ、悪い」


 こめかみに血管を浮かせる、女教師。


「あなた、魔導院の軍人志望なんですって?

 そんなんじゃ、やっていけないわよ」

「いや、やってこれてるんだが……」


 現在進行形で、学生と同時に、魔導院の軍人も兼ねている乱陀。


 あと、そもそも将来も、軍人を志望している訳でもない。

 魔導院側から、是非にと勧誘されているだけなのだ。


 女教師が、ヒステリックに叫ぶ。


「口答えしない!そもそも、教師にタメ口をきかない!」

「はあ?なんでだよ」

「目上だからです!」

「俺は、あんたの事、目上だと思ったことはないぞ」


 拳を握り、ぷるぷると震わす女教師。


「私は、あなたを魔導院に推薦することはできません!」

「魔導院側から誘われてるんだが」

「嘘おっしゃい!」


 なお、この女教師は、乱陀が英雄と呼ばれていることすら知らない。


「とにかく!このままじゃ、卒業はおろか、学生として認められません!」

「そうか。じゃあ、退学するわ」


 長大な黄金の尾を振って、立ち上がる乱陀。


「ま、待ちなさい!あなた、どこ行ってもやっていけないわよ!」

「いいよ。元々、他人の力はアテにしてないし」


 面談室のドアを開け、外に出る乱陀。

 ドアのすぐそばで座って待っていたカノンは、目を丸くした。


「あれ?乱陀さん、もう終わったんですか?」

「学生として認められないってさ。だから、退学することにしたわ」

「あ、それじゃ、私も退学します。学園生活は、満喫しました!」


 広大な廊下を並んで歩く、乱陀とカノン。

 後ろからは、女教師が呼び止める声がするが、耳に入らない。


「カノン、これから何しようか?」

「そりゃあ、冒険者ですよ!

 乱陀さんの力を一番活かせます!」

「お、いいねえ」


 乱陀とカノンは、階段を上がり、飛行場へと出る。


 何隻もの飛行船に、もの凄い数のエアドライバーやエアライダーが停泊している。


 上を見れば、青い空。


 他人が信じられなくても、自分さえ信じられれば、未来は、いつだって明るいのだ。


 そこに、可愛いパートナーもいれば、文句なし!


「カノン。そういえば、太平洋の真ん中に、ランク6のダンジョンがあったよな?」

「はい!入り口すら、誰も入れないくらい、強いモンスターだらけらしいです!」

「行ってみるか?」

「行きましょう!でも、また変なお宝が発掘されないといいんですけど」


 カノンが言っているのは、数か月前の魅了スキルブック事件のことだ。


「まあ、何か出たら出たで、対処すればいい」

「そうですね!」


 乱陀とカノンは、エアライダーに乗り込む。


 全校放送で、マモリの慌てた声が響き渡る。


「待て!乱陀!待つのじゃ!

 そなたに魔導院を抜けられたら困る!

 戻って来るのじゃ!」


 乱陀は、カノンをエアライダーの後ろに乗せると、静脈認証でキーロックを解除する。


 浮かび上がる、エアライダー。


 今日は晴天。

 新たな一歩を踏み出すには、最高の日だ。


 校舎の窓からは、エドワードが手を振っていた。

 一つ目で、ギザギザの歯で、にっこりと笑って。


 乱陀とカノンも、エドワードに笑い返す。




 乱陀は、エアライダーのアクセルを捻る。


「ウォーロック、水雲(みずくも)乱陀(らんだ)!発進!」


 カノンが、背後から乱陀に(つか)まり、叫んだ。


「ガンスリンガー、『ゴブリン』沖村(おきむら)花音(カノン)!どこへだって付いて行きます!」


 飛行場の廊下からは、教師陣がぞろぞろと走って来て、乱陀とカノンに、戻るように(うなが)している。

 しかし、もう乱陀とカノンの耳には、そんな雑音は入らない。




 いつだって、新しい世界は、目の前に広がっているのだ。




「カノン!飛ばすぞ!(つか)まれ!」

「はい!もう絶対離しません!」




 カノンは、青空の下、思い切りの笑顔を見せた。

 明るい緑色の肌で。

 八重歯のような牙を覗かせて。




 乱陀は、腹の底から、叫んだ。




「ウォーロック&ゴブリンガール!派手に行くぜ(ロック&ロール)!」








【完】








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― 新着の感想 ―
[良い点] ●永遠に続くヘル・ギフト ●カノンの小さな喘ぎ声 ●ファーフライヤーと藍之介がくっついた  しかもラブラブ [気になる点] ●乱陀の担任は何ゆえ担当生徒のことを知らないのか  知らない…
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