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狂戦士vs狂戦士

 エリネは、ナノマシン通信で、本宅であるマンションとは別の拠点にいる、ハッカー集団と連絡を取っていた。

 迷い学園は、複雑怪奇。

 マップを取っても、常に部屋が入れ替わるため、信用できない。

 そのためエリネは、マップの代わりに、とある場所の情報と、そこに転送石で繋がるよう、インプット用データのみを欲した。







 ブラッドラストは、ハンマーのジェット推進により、音速を超える速さで、独楽(こま)のように回転する。

 そのまま、乱陀へと横殴りでハンマーを放つ。

 神話級サイバネアームの右腕と、ラグナロクで付与された結界で、その一撃を受ける。

 凄まじく頑丈なはずの結界に、(ひび)が入る。

 発生する衝撃波が、体育館の窓ガラスを、粉々に砕いた。


 乱陀は、裏拳でブラッドラストを殴打しようとするも、ブラッドラストは俊敏にしゃがみ、乱陀の裏拳を(かわ)す。

 しゃがんだ姿勢のまま、後ろに大きくジャンプし、距離を取る。


 ブラッドラストが、驚いた顔を見せた。


「その結界、何なんですか?硬すぎませんか?」

「誉め言葉なら、エリネに言ってやれ。元はあいつのスキルだ」


 ブラッドラストのジョブ『バーサーカー』は、防御力を捨て、全てを攻撃力に注いだ変態的なジョブだ。

 ブラッドラストは、割れなかった結界の硬さに驚いていたようだが、逆に乱陀としては、ラグナロクの強固な結界に、一撃で(ひび)を入れた、ブラッドラストの攻撃に感嘆する。


 あらゆるステータスは、乱陀の方が圧倒的に上だ。

 普通に考えたら、乱陀の圧勝。

 しかしブラッドラストは、これまで戦ってきた強敵の中でも、特に危険な空気を感じる。

 ブラッドラストは、おそらく藍之介と同じく、ステータスをあまり頼りにはしていない。

 自分自身の技量で戦うタイプの人間だ。


 両者、身構える。


 ブラッドラストが、膝を曲げ、再び乱陀へと襲い掛かった。

 ハンマーのジェット推進で、その攻撃は音速を超える。

 普通の人間ならば、目視は絶対に不可能。

 レベル140の動体視力と反射神経を持つ乱陀のみが、対応できるのだ。


 乱陀は、ハンマーの横降りを、スウェーバックでよける。

 ブラッドラストは、ハンマーを振り切った、今が攻撃のチャンス。

 だが、ブラッドラストの背後から、斧を持ったポニーテールの少女が躍り出た。

 バーバリアンのクレアだ。


 鋭い斧を、真上から一直線に振り下ろすクレア。

 乱陀は、黄金竜の左手で、斧の側面を横に殴る。


 斧ごと、クレアの小柄な身体が真横に吹き飛ぶ。


 ブラッドラストが、クレアの片足を掴む。


 そのままの勢いで回転し、ブラッドラストは、再び乱陀へ攻撃する。

 片手にハンマー、もう片手にクレアの、二刀流だ。


「げっ!」


 上段と下段を、ハンマーと斧が、それぞれ振るわれる。

 どちらかを回避すれば、どちらかが当たる。


(だったら、これならどうだ!)


 乱陀は、回避はせずに、そのまま前進してブラッドラストにタックルをかます。

 乱陀と、ブラッドラストと、クレアが、絡まり合って体育館の床に転がった。


「げほっ……」


 バーサーカーのブラッドラストは、防御力がほとんど無いため、乱陀のタックルはかなり効いたようだ。

 三者三様、身悶える一瞬。

 そこに、エリネが跳んで来て、乱陀へとレイピアを突く。


「うおっ!」


 乱陀は床を転がり、レイピアを(かわ)す。

 その際に、右腕でエリネの足に触れる。

 痛覚遮断は、これで破壊できたはず。


 エリネは、美しいはずの顔を、鬼のような形相に変えて、乱陀を睨みつける。


「死ねぇ!」


 再びレイピアを構えるエリネ。

 その横顔に、カノンの両脚によるキックが入った。


「ぶっ!」

「乱陀さんに何してるんですか」


 カノンは、両脚をエリネの顔につけたまま、二丁拳銃で9mm結界破壊弾を顔面に撃ちまくる。

 銃口からマズルフラッシュが派手に散る。

 先ほどのラグナロクで付与された、強力な結界を、あっさりと砕いて貫いた。


「痛い!痛い!」


 叫ぶエリネ。

 高い防御力を誇るエリネも、顔面に高レベルのガンスリンガーの銃弾を撃たれれば、流石に少しは効くようだ。


 その隙に、エリネの胴体を、黄金の尾で殴り飛ばす乱陀。

 吹き飛ぶエリネの身体。


 ふわりと宙を舞い、着地するカノン。


 乱陀も、素早く起き上がる。


 乱陀とカノンは、背中合わせに立ち、互いの死角をカバーした。

 カノンが肩越しに乱陀を見る。


「やっぱり硬いですね、あの女」

「装備品がな。強いのを、これでもかってくらい、着けまくってるからな」


 藍之介やツバキチームも、バトルジャンキーズやエドワードたちを同時に相手取っていて、攻めきれない様子。

 華虎が、ロボットから降りて生身のまま、体育館へとやって来て、小型のガトリングガンで参戦する。

 バンシーが天井近くまで飛び上がり、体育館を横切る超音波を発する。

 その軌道上にいた、藍之介とツバキチームが、ゴーグルを予備ごと破壊された。

 迷い学園の中にいる限りは、新たな魅了ができない事が幸いだ。


 エリネが、誰かとナノマシン通信で会話をしているのが聞こえる。


「まだなの?あとちょっと?よし!」


 何かを企んでいるようだ。

 絶対にろくでもない事に違いない。

 藍之介とツバキが他の敵に対応している今、エリネにまともなダメージを与えられるのは、乱陀の右手のカース・ギフトだけだ。

 ヘル・ギフトは、MPの消費が膨大なため、かなりの多人数からMP・スティールでMPを奪わないと発動できない。

 ここにいるバトルジャンキーズたちからMPを奪っただけでは、到底足りないのだ。


 乱陀は、エリネに向かい、駆けようとする。

 だが、エリネの方から、素早く乱陀の横を抜けて、高速ですれ違った。

 エリネは、乱陀に目もくれない。

 その目は、カノンを狙っていた。


「お前!ふざけんな!」


 エリネの動きが速過ぎて、振り向いて対処する時間がない。

 再び、尾を振る乱陀。

 だが、エリネはくるりと回転して、乱陀の尾の一撃を受け流す。

 そのまま、エリネのレイピアは、カノンの腰のあたりを斬り裂いた。


「カノ……」


 倒れるカノン。

 乱陀の頭に血が昇る。


「カノン!」


 乱陀はエリネへと向き直り、歯をむき出しにして、疾走する。


 エリネは、右手にレイピアを、左手に丸い何かを持っていた。


 カノンが、勢いよく起き上がる。

 驚く乱陀。


「カノン!?大丈夫か!?」

「はい!でも、手榴弾、取られちゃいました!」


 カノンの腰のベルトにつけていた、スキルロックの手榴弾が無い。

 今、カノンを斬ったと思ったのは、カノンの腰の固定具を斬っただけのようだ。

 カノンが無事だと分かり、ほっとすると同時に、わざわざカノンを斬るチャンスを逃してまで、手榴弾を取ったことに、嫌な予感を覚える。


 エリネは、誰かとナノマシン通信をしている。


「はーい。了解」


 エリネは、レイピアを鞘に納めると、その右手で、ドレスの懐から、小さな四角い石を取り出す。

 あれは、転送石。

 どこかへ逃げる気だろうか。


 乱陀とカノンが、エリネへと向き直る。


 エリネが、転送石を掲げる。


 エリネの隣に開く、ワープホール。


 その向こうには、後ろを向いて椅子に座っているマモリがいた。


「え?」


 マモリは、エリネへと振り向く。

 だが、その時には既にエリネは、マモリの着物の(えり)を掴んで、ワープホール越しに体育館の床へと、マモリを放り投げる。


「ぎゃっ!」


 体育館の床に、頭をぶつけるマモリ。


 エリネが、レイピアを抜き、マモリに突きつける。


「やっと手に入ったよ。こいつの居場所。ハッキングするのに時間かかっちゃった」




 そして、エリネがマモリにレイピアを振り上げる。




 乱陀とカノンが、駆け出す。


 バトルジャンキーズに囲まれた、藍之介が、駆け出す。


 エドワードに阻まれていた、ファーフライヤーが、飛び出す。


 迅の炎に巻かれていた、華虎が、駆け出す。


 飛鳥にブロッキングされていた、ツバキチームが、駆け出す。


 だが、その誰もが、間に合わない。








 エリネが、マモリに向かってレイピアを振り下ろす。








 その時、何もない空間から、突如として姿を現したシグマが、マモリを抱いて、跳び退く。


 エリネのレイピアは、マモリの着物の裾を少しだけ斬り裂いて、体育館の床に突き刺さった。




「マモリさん、だいじょうぶ!?」

「ああ!すまぬ!」


 正面から戦えば弱いシグマは、何かあった時のために、ずっと姿を隠していたのだ。

 本当は、エリネに何かしらの一撃を加えるつもりだった。

 だが、マモリが死に直面していた今、それを見過ごせなかった。


 バトルジャンキーズを振り切った藍之介が、エリネに飛び掛かる。

 硬質の音を立てて、交差するレイピアとレイピア。


 藍之介が激怒した目で、エリネを睨む。


「お前、マモリンに何してくれてんの?」

「あら、こいつのファンなの?」

「お前には関係ない」

「そう。でも、もたもたしてていいのかなぁ?

 プランBは始まってるのよ」


 エリネは、ひらひらと左手を見せる。

 その指には、ピンがあった。

 手榴弾のピンが。


 ころころ転がる、スキルロックの手榴弾。

 それは、マモリとシグマの元へ。


 藍之介が、乱陀とカノンへと叫ぶ。


「来るな!」


 咄嗟に足を止め、跳び退く乱陀とカノン。


 光る手榴弾。


 その光を浴びた者に、スキルロックがかかった。

 シグマ。

 藍之介。

 マモリ。


 エリネはスキルロック耐性の指輪をしているため、スキルロックはかからない。


 迷い学園自体は、ダンジョンコアが機能している限りは、墜落はしない。

 だが、魅了の無効化は、マモリのスキル。

 それが今、封印された。


 魅了スキルが、通る。


 エリネと鍔迫り合いをしていた藍之介が、エリネの目を見てしまう。

 藍之介の目に浮かぶ、ハートマーク。

 藍之介は、剣を下ろす。


 エリネは、ぐるりと素早く、体育館全体を見回した。

 誰にも目を(つぶ)らせないように、素早く。


 ゴーグルを着けているのは、カノン、シグマ、ファーフライヤー、華虎の四名。

 それ以外は、ゴーグルが無い。


 スキルロックで高速移動が使えなくなった藍之介は、徒歩でシグマへと向かい、首筋にレイピアを突きつける。


 ファーフライヤーは、エドワードの結界と、迅の炎の壁で、動けない。

 華虎は、バトルジャンキーズ全員に、押さえつけられている。




 乱陀は突然、カノンの首を、黒銀の右手で掴んだ。


「げほっ!?」


 乱陀の目には、ハートマークが浮かんでいた。


「ら、乱陀さ……」


 呼吸がうまくできないカノンは、苦し気に乱陀に呼びかける。


 だが、乱陀は手を緩めない。


 エリネが、笑いながら、乱陀に命令する。


「そうだ、いいこと思いついちゃった。

 乱陀。そのゴブリン、そのまま絞め殺しなさい。

 愛しい愛しい、貴方の手で。

 その後で、魅了を解いてあげる。

 どんな顔して泣くのかなぁ?」








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[一言] こ…更新あ… 乱陀!信じてるぞぉぉぉ
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