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【勇斗ざまぁ有り】vs Dungeon Takers!

「か、囲め!こっちは多数だ!」


 散開し、コンクリートの道の上で、乱陀を囲む冒険者たち。

 それを、のんびりと眺める乱陀。

 冒険者たちに包囲され、なお不敵である。


「へえ。それで、俺に勝つつもりか?」


 周囲の冒険者を、じろりと眺めまわす乱陀。

 冒険者たちは、乱陀の謎の余裕に困惑するが、無理に冷静さを保つ。


「ど、どうせハッタリだ!」

「そうだ!俺たちは全員、レベル70超え!大半が痛覚遮断持ちだ!」

「ああ!しかも、この数!俺たちが負ける道理が無い!」


 剣や槍を構える、冒険者たち。

 乱陀は、ゆったりと黄金の尾を揺らし、サイバネの右手をマントから伸ばす。


「そうか。それじゃあ、(さわ)りっこタイムだな。ちなみに、今すぐ自殺したら楽に死ねるぞ?」


 乱陀の言葉を、あざ笑う冒険者。


「ははっ。何言ってんだ、こいつ」

「頭おかしくなったんじゃないのか?」


 乱陀は、黒銀の右手を、開いては握る。


「あ~あ。せっかくチャンスをやったのに。残念だ」


 途端、乱陀の足元が赤く光る。

 それは、ブーツの底から広がる、魔法陣。

 描かれる『日本魔導院・疾風ノ術』の文字。


 乱陀は、軽く膝を曲げる。


 その瞬間、乱陀の身体が掻き消えた。


「え?」


 間の抜けた声が出てしまう冒険者。

 その胸に、とん、と触れる指先。

 乱陀の右手の指先。

 高速移動のブーツに、レベル139の魔力を込めた、超高速移動だ。


「な、なんだ!?」

「くそっ!どこ行った!?」

「速すぎる!」


 真宵市のコンクリートの上に、黒い突風が吹き荒れる。

 次々に、冒険者たちに触れながら。


 そして、包囲陣の中央に、再び現れる乱陀。

 黒銀の右手で、軍帽の(つば)を抑えながら。


「もういいぞ。カノン」


 乱陀の言葉と同時に、赤い閃光が地面に走る。

 それは、高速移動の軌跡。

 白い二丁拳銃を抜いたカノンが、乱陀と背中合わせで登場していた。


 カノンの目に表示される『Bullet Time!』の文字。


 たった一発だけ鳴る、銃声。


 だが、その一発の銃声の間に発射された、幾つもの弾丸が、その場の全員の胴体を撃ち抜く。

 爆散する肉片。

 血と骨の欠片が、宙を舞う。


「ぎゃああっ!痛えっ!?」

「うあああっ!なんでだっ!痛覚は切ってるはず!」

「ぐああっ!どうなって、やがる!」


 乱陀のスキルブレイクにより破壊された痛覚遮断スキル。

 そこからの、カノンの必殺技バレットタイムによる、神速の銃撃。

 なお、長く苦しむよう、あえて急所は外してある。


「乱陀さん。MPが切れちゃいました」

「そうか。じゃあ、こいつらから補充するか」


 バレットタイムは強力なスキルだが、MPの消費が激しすぎて、一度しか使えない技であった。

 そう、本来ならば。

 だが、ここに来て支援系ジョブであるウォーロックの真価が発揮する。


 乱陀が頭上に右腕を掲げると、周囲の冒険者たちから、青い矢印が、乱陀に向かう。

 そして、黄金の左手を、カノンにかざす。

 乱陀を通じて、カノンに流れる青い矢印。

 MPを奪う『MP・スティール』と、MPを与える『MP・ギフト』の同時使用。

 これこそが、奪い、与えるという、ウォーロックのスキルの本来の使い道だ。

 (から)っぽになっていた、カノンのMPが最大まで回復する。


 そのまま左手でカノンの頭を撫でる乱陀。

 カノンも、八重歯のような牙を見せて、乱陀に笑いかける。


 乱陀の周囲の冒険者たちは、身体を撃ち抜かれた激痛に(まみ)れながらも、仲間のヒーラーに声をかける。


「か、回復を……」

「だ、だめです……。MPが、なぜか、(から)に……」

「……な、なに?」


 乱陀とカノンは、その言葉を(あと)に、歩き出す。

 倒れている冒険者を、素通りして。


 冒険者たちは、乱陀の脚を掴むことすらできずに、(うめ)くばかり。

 本当ならば、ひとりひとりがカノンを上回る実力のはずの、高レベルの冒険者たち。

 しかし、普段から痛覚遮断に頼っているためか、勇斗とその仲間たちは、人一倍、痛みに弱かった。


 大量に出血をしている冒険者たち。

 放っておいても、死にゆくだろう。

 もし生き延びる者がいても、また同じ目に合わせるだけだ。


 乱陀とカノンは、足を止める。


 乱陀とカノンの目の前にいるのは、(あご)の砕かれた勇斗。


 勇斗は、腰を抜かして、(わめ)いていた。


「あ、あがあああっ!」

「なに言ってるか、わかんねえよ」


 這いつくばって逃げようとする勇斗。

 乱陀は、その背中を踏みつける。


「ぐえええっ!」

「お前だけは、地獄の中の地獄を見せなきゃ、気が済まねえ」


 乱陀は、右手で勇斗の背中に触れる。

 与えられるカース・ギフト。

 勇斗に貼られる『針千本』の札。


 それが、十枚。


 どこからともなく現れた、一万本の長い針が、勇斗に突き刺さる。

 顔面にも。眼球にも。爪の間にも。睾丸にも。


「ふぎゃあああああっ!」


 全身に針だらけになり、勇斗の血によって、赤く染まるコンクリート。

 目玉にも何本も針が刺さり、何も見えなくなっていた。


「安心しろ。命に関わる場所には刺してねえ。こんなのは、まだまだ序の口だ」


 さらにカース・ギフトを上乗せしようとする乱陀。

 ふと、上空から影がかかる。

 おそらく、人の影。

 右手に、巨大な三角形の物を持った、人の影。


 乱陀は、本能で危険を察知し、咄嗟(とっさ)にカノンを抱き寄せ、()退()いた。


 それは、巨大なドリルを持った、ツインテールの美少女だった。

 一瞬前まで乱陀がいた場所のコンクリートを、巨大なドリルが削る。

 コンクリートが粉々になって、散って行く。

 勇斗の左脚も、ドリルに巻き込まれ、千切れ飛んでいた。


「あああああっ!」


 勇斗が叫ぶ。

 ドリルが(うな)る。

 ツインテールの美少女が、左手で乱陀とカノンを指差す。


「お前ら!その軍服!魔導院の奴らだな!真宵市はボクたちのものだ!渡すもんか!」


 そのドリルの少女の後には、次々と、エアボードに乗った美少女たちが現れる。

 それぞれの手には、チェンソー、杭打機(くいうちき)、パワーショベル、セメントガンなどが装備されていた。


 乱陀は、エアボードで空を飛んでいる美少女たちに、右手のグラビティ・ギフトをかける。

 乱陀にしか見えない、巨大な下向きの矢印が、上空に現れる。


「うわっ!」

「何だっ!?」


 超重力により、飛べなくなる少女たち。

 だが、飛べなくなっただけだった。

 エアボードが地面を擦り、火花が散る。

 少女たちの肉体は、潰れも砕けもしなかった。


 彼女たちは、純粋な戦闘系ジョブには見えない。

 防具が相当いいものなのだろう。

 しかも、全身に数多く装備している様子。

 魔法耐性が、とんでもなく高い。


 しかし、どんなに魔法耐性が高くとも、神話級装備から繰り出されるグラビティ・ギフトを受け、全く影響無しとはいかないようだ。

 少女たちは無事でも、乗っていたエアボードが、潰れる。

 故障したエアボードを脱ぎ捨て、地面に降り立つ少女たち。

 彼女らの動きは、ひどく鈍っている。


「か、身体が重い……!」

「君!一体何をしたんだ!」


 少女たちが一歩進むごとに、足が地面を割り、めり込んでいる。

 超重力は、きちんと作動はしているらしい。

 右手にセメントガンを装着した少女が、左手でポケットから、押しボタンの付いた銀の筒を取り出した。

 消費アイテム、アンチマジックだ。


「ああもう!これ高かったのにぃ!」


 セメントガンの少女は、涙目になりながら、高額な消費アイテムのボタンを押す。


 すると、銀色の光が周囲に渦巻き、かかっていた強化(バフ)弱体化(デバフ)の魔法効果を消し去る。

 少女たちに発生していた超重力も、霧散した。

 なお、冒険者たちの、破壊された痛覚遮断は元には戻らなかったようで、辺りに充満する苦痛の声は止まらない。


 少女たちは、乱陀とカノンへと走る。

 そして、それぞれの武器で、乱陀たちに襲いかかった。


 チェンソーが、乱陀を。

 杭打機が、カノンを。

 

 だが、高速移動のブーツでそれを(かわ)し、高層ビルの壁を蹴りながら、上空へと向けて駆け上がる乱陀とカノン。

 乱陀は叫ぶ。


「何なんだ、あいつらは!」


 急に現れ、急に攻撃してきた少女たち。

 動機も目的も不明だ。

 だが、これだけはハッキリしている。

 あいつらは、敵だ。


 乱陀とカノンは、高層ビルの屋上に着地する。

 屋上には、太陽光発電のパネルが、所狭しと並べられ、陽光を反射し、輝いていた。


 真宵学園の上空には、5隻の飛行船。

 きっと、あそこにはマモリやエドワードたちがいるはず。

 乱陀たちも、先程ネットに流れていた、マモリの真宵市に向けた退去勧告を聞いていた。


 耳を澄ませる乱陀。

 風の音に紛れて、ビルの下から近づいてくる、幾つもの甲高(かんだか)いモーター音。

 乱陀は、ビルの端から、真下を覗く。

 ダンジョンテイカーズが、いつの間にか新しいエアボードに乗って、ビルの壁を垂直に上昇していた。


「……しつこい奴らだ」


 ダンジョンテイカーズは、スピードを下げないまま、屋上を飛び越え、乱陀たちの上空に舞い上がる。


 各々(おのおの)の工具を構える少女たち。


 ダンジョンテイカーズの中に、大きなレンチを持った少女がいた。

 彼女のジョブは『エンジニア』。

 彼女のスキルにより、新たなエアボードが作成されたのだ。


 ドリルの少女が叫ぶ。


「魔導院の犬は全員殺せ!」


 セメントガンの少女が、乱陀とカノンに向け、液状のセメントを放射する。

 乱陀はグラビティ・ギフトで、飛来した液状のセメントを()し潰す。

 太陽光パネルが砕け、その上に広がる液状のセメント。

 液状のセメントは、落ちて広がった瞬間に、パネルの破片を巻き込んで凝固した。


 だが、間髪入れず、乱陀の背後から襲い掛かる、ドリルと杭打機。

 乱陀は、まだセメントの少女に身体を向けたままのため、背後に対応できない。


 しかし、カノンが走る。

 太陽光パネルを踏み割り、赤い軌跡を残し、乱陀の背後へと。

 ダンジョンテイカーズの少女へと、9mmパラベラム弾を撃ち込むカノン。


 ドリルの少女、月瀬☆ライムが、ビルの屋上のコンクリートへと左手をかざす。

 そこから突然に生えてくる、鉄筋コンクリートの壁。

 カノンの9mmパラベラム弾は、鉄筋コンクリートにより、遮られてしまった。


 そして、(ひび)割れる鉄筋コンクリートの壁。

 巨大なドリルが、壁を突き破って、そのまま乱陀とカノンに襲い掛かる。

 乱陀は、慌てて長大な尾で太陽光パネルを巻き取り、ドリルの少女、ライムに投げる。

 鋭いパネルの破片が、ライムに降り注ぐ。

 ドリルで身を(かば)うライム。


 そこに、岩石の奔流が、ライムを保護するように、溢れ出てきた。

 杭打機の少女のスキルだ。

 太陽光パネルの尖った破片は、岩石に弾かれ、ライムには届かなかった。


 再び、エアボードで空に飛び上がり、体勢を立て直すダンジョンテイカーズ。


 乱陀は、(うな)る。


「あいつら、戦い慣れてるぞ」


 レベルだけで言えば、先ほど潰した、勇斗の取り巻きの冒険者の方が高いはずだった。

 この真宵市では、光の翼よりも上のレベルのクランはいない。

 だが、レベルも低く、戦闘系のジョブですらない、ダンジョンテイカーズの方が、手強(てごわ)かった。


 強力な装備を全身に幾つも身に付けていることもあるのだろうが、スキルやアイテムの使い方が、上手い。

 今も、エアボードを巧みに操り、カノンの銃の照準に合わせられないようなランダムな動きで、上空を旋回している。


 そして、ライムがドリルを乱陀に向ける。

 宙を旋回していたダンジョンテイカーズが、一斉に乱陀とカノンに襲い掛かって来た。

 しかも、ひとりひとりが、微妙にタイミングをずらしていて、一撃で全員を一掃することができない。

 誰かを倒したら、その隙に別の少女から、攻撃を食らう。

 そういう連携の仕方だ。


 カノンが、バレットタイムを使おうとした、その時。

 乱陀とカノンだけに、ツバキから通信が入った。


「伏せて!」


 その声を聞き、乱陀とカノンは、太陽光パネルの破片が散らばる、コンクリートの屋上へと、身を伏せる。

 カノンにパネルの破片が刺さらないよう、乱陀は自分のマントでカノンを包んでいた。


 次の瞬間、ビルの上空を、ファイアーストームが吹きすさぶ。

 炎からは離れているはずなのに、あまりの熱で、乱陀の肌が焼ける。


 渦巻くファイアーストームを見上げる乱陀。

 これこそ、灼熱地獄そのもの。


 だがそこには、炎に巻かれているというのに、エアボードに乗りながら、平然としているダンジョンテイカーズの面々。

 エアボードすら、耐熱処理を施されている様だ。


 ツバキが、ナノマシン通信を通じて、驚愕の声を上げる。


「ファイアーストームが効いてない!水雲(みずくも)!あいつら、何者なの!?」

「知るかよ!俺たちにだって、いきなり襲い掛かって来たんだ!」


 少女たちの魔法耐性が、尋常ではない高さなのは分かっていたが、ツバキのファイアーストームをまともに受けても、全く効かないほどとは思わなかった。

 カノンの銃弾や、太陽光パネルの破片は、しっかりと防御したため、魔法系スキル以外の攻撃は有効なようだが。


(ん?何だ?)


 乱陀は、ダンジョンテイカーズの面々が、何かを懐から出したのを見る。

 手榴弾のような、ボール。

 そして、乱陀とカノンに、一斉にボールを投げつけた。


 爆発物の類だろうか。

 カノンに、覆いかぶさる乱陀。

 ボールが、次々と発光する。

 目を瞑り、やってくるであろう爆発に備える乱陀。


 だが、ボールはただ発光しただけであった。

 ダメージは全くない。


 しかし、乱陀の網膜に、ワーニングメッセージが出ていた。


『ステータス異常:スキルロック』


(……しまった!)


 どうやら今のボールは、スキルを封印する効果の消費アイテムのようだった。


「カノン!スキルを封じられた!」

「私もです!銃弾の生成も、バレットタイムも使えません!」


 常時起動(パッシブ)スキルである、痛覚遮断などには影響は無かったが、任意使用(アクティブ)スキル全般が使えなくなっている。


 グラビティ・ギフトもカース・ギフトも使えない。

 使えるのは、この肉体のみ。


 ツバキたちが、強固な結界を張り、こちらに飛来してくるのが見えたが、だいぶ遠い。

 ツバキたちの援護は、期待できない。


 乱陀とカノンに襲い掛かって来る、ダンジョンテイカーズ。


 先陣を切ったのは、ドリルの少女、月瀬☆ライムだった。

 ドリルを構えて、乱陀に突進するライム。


 乱陀は、ドリルを黒銀の右腕で、思い切り殴った。

 発生する衝撃波とともに、ドリルが曲がり、吹き飛ぶライム。

 スキルが使えなくともレベル139の筋力は健在であった。


 次に、パワーショベルを右腕に装着した少女が、その鉄塊を乱陀に振り下ろす。

 振り抜いていた右腕でそのまま裏拳でパワーショベルを殴る。

 パワーショベルがネジやボルトを撒き散らし、砕け散る。


(イケる!俺は、スキルが無くても戦える!)


 乱陀は、カノンを見る。

 弾丸の生成すらできなくなり、戦えなくなったカノン。

 カノンの身の安全の確保が、第一優先だ。


 乱陀は、カノンを左腕で抱く。

 ちょうどカノンを狙って来ていた、杭打機を右手で破砕しながら。


 だが、その杭打機と全く同時に、チェンソーがカノンを襲う。


(……カノン!)


 カノンを抱きかかえていた黄金の左腕を離し、裏拳でチェンソーを殴ろうとする乱陀。

 しかし、チェンソーの少女は、そのまま急激に軌道を変え、乱陀の左腕を叩き斬った。


 くるくると回りながら、宙を飛ぶ、黄金の左腕。


「……っ!」


 乱陀は痛みは感じない。

 だが、カノンを守れる腕が、無くなってしまった。

 チェンソーは、またもや軌道を変え、今度はカノンの胴体を切断しにかかる。


「やらせるかよっ!」


 乱陀は、チェンソーとカノンの間に、無理矢理、黄金の尾を()()む。

 しかし、チェンソーの少女が、左手を振り上げると、木製の柱がいきなり生え、乱陀の身体を突き飛ばす。


 吹き飛ぶ、乱陀。


 乱陀は、カノンに尾を巻き付ける。

 乱陀の尾に引っ張られ、チェンソーの軌道から、外れるカノン。


 何もない空間を通り過ぎる、チェンソー。


 またもや少女は、チェンソーの軌道を自在に変える。


 もう一度、チェンソーを振り抜く少女。

 チェンソーの刃は、カノンの胴体には、届かなかった。


 胴体には。




 チェンソーは、カノンの左腕を斬り飛ばしていた。




 軍服の(そで)と共に、ビルの屋上の地面に転がるカノンの左腕。

 斬られた左腕の断面からは、(おびただ)しい量の出血。


 痛覚遮断スキルは、まだ会得できていないカノン。

 あまりの激痛に、カノンは泣き叫ぶ。


「ああっ!あああああっ!」


 カノンの血と涙が、太陽光パネルへと、零れ落ちる。


 そして、チェンソーの少女は、コンクリートの地面を踏み、カノンへと跳ぶ。

 今度こそ、カノンの胴体を両断するつもりだろう。


 宙を舞っている、乱陀とカノン。

 乱陀は、カノンに巻き付けていた尾を(ほど)き、ビル屋上の太陽光パネルに尾を巻き付かせる。

 カノンのマントを、右腕で掴む乱陀。


 乱陀は、太陽光パネルに巻き付けた尾に全力を込め、カノンのマントを思い切り引っ張り、何とかチェンソーの刃から逃そうとする。


 だが、チェンソーがカノンへ届く方が、早い。


 乱陀は、心の中で絶叫する。


(やめろ!やめてくれ!殺すなら俺を殺せ!)


 カノンの胴へと迫るチェンソー。




 そして、チェンソーの刃が。








 黄と黒の縞模様の『KEEP OUT』のテープの結界に、(さえぎ)られた。




 屋上へ降り立つ、ひとりの人影。

 それは、まさしく人の影だった。


 影のように、真っ黒な姿。

 顔の中央には大きな一つ目。

 その身に羽織(はお)るのは、レジェンド級の金縁(きんぶち)の白衣『エンジェルブレス』。


 乱陀と、カノンの、パーティメンバー。


 エドワード・鳳凰院・十三世。


 エドワードは、一つ目で、乱陀を見る。


「すみません。遅れました」


 乱陀へ、HP回復のポーションを二つ、投げ渡すエドワード。

 一つは乱陀の分。もう一つはカノンの分。

 カノンに飲ませれば、斬り落とされた左腕が再び結合するはずだ。


 そして、エドワードは少女たちを見る。

 その目には、かつてないほどの怒りを(たた)え。


「……久しぶりですね。ダンジョンテイカーズ。

 よくもまあ、ダンジョン乗っ取りなどという行為を、恥も無く出来るものだ。

 (まよ)()を取られた時は、僕も、あなた方を普通の冒険者だと思って、油断してました。

 それに、僕のパーティメンバーを、散々痛めつけてくれましたねぇ。

 まさか、無事に帰れるとは思っていないでしょう?」


 レジェンド級の白衣が、ビル風に(あお)られ、音を鳴らして、たなびく。


「それでは……」


 エドワードは、ダンジョンテイカーズに左手を突きつける。

 そこに(はま)っていたのは、砕けたエンジェルゼリーの結晶の一欠片(ひとかけら)を使用した、新型の魔法道具の腕輪。




派手に行きましょう(ロック&ロール)!」








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[良い点] ●勇斗に針万本!  そして足ぶった切り! ●エドワードにこれ以上ない魅せ場 [気になる点] 太陽光発電パネルの描写が さり気なく多い 何らかの伏線と見た [一言] 更新ありがとうござい…
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