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第四話 フィリア湖観光鉄道

1.

 どうしようもなく赤い空にぽっかり浮かぶ紫の雲。そんな、金切り声で叫びたくなりそうな空の下、若い稲が並ぶ水田の中を列車が白い煙をたなびかせながら走っている。飾り気のない素朴な車体に並ぶ大きな正方形の窓から見える車内は、大勢の人々でごった返していた。身なりの良さそうな紳士、おめかしした夫婦、窓辺の席に座りながら節くれだった皺だらけの手で蜜柑を割いているほっかむりを被った老女の向かいでは眼鏡の気難しそうな老人が土瓶に入ったお茶を美味しそうに飲んでいる。空が赤から黄、青みがかった緑へと移ろい、上から、ちりちり藍に染まりはじめると、天井の魔灯(アルナラーム)が、チッカチカと、灯った。

「……あーあ、クロウが()()した所為でもうこんな時間だよ、」

 イヅナは窓の外を眺めながらそう言った。

「……ったく、」

 クロウが顔を顰めながら不満そうに呟くと、リーゼロッテは、

「本当のことじゃない。……予定通りに出ていれば、少なくともパルザールには明るい時間に着いていたはずよ?」

 と、言った。

 クロウは不貞腐れ気味にぶすっとした表情を浮かべたあと、

「……それにしてもよ、やっぱアルテメスの奴、なんだかんだでルシに甘いよな。……こういう事前調査って本来ならルシ達、警邏隊の仕事だろ?」

 と、言った。

「だから、特例って言っていたのよ。……貴方、イヅナの話をちゃんと聞いていたのかしら?」

 クロウの目の前に座るリーゼロッテはそう言うと、軽くため息をついた。

「……へ? そうだっけか?」

「……まったく、」

 リーゼロッテがそう言うと、フェリは、

「本当だよね」

 と、頷きながらそう言った。

「……はいはい、そりゃ悪うございましたね、」

 クロウがそう言うと、リーゼロッテは、

「何よ、その態度、」

 と、言った。

「……そりゃ、ルシから渡された資料の山を一人で持たされてっからな。……不満も貯まるっての、」

 クロウは不満げに顔を顰めると、腰に付けた黒地に精緻な金刺繍が施された小物入れを叩きながら、

「まっ、全部、こん中に入ってるけど、な」

 と、言った。

「ならいいじゃない」

「よかねえよ、結構、重いんだからよ」

 クロウがそう言うと、フェリは、

「まあ、魔法袋は物を持ち運びやすくするだけで、質量自体は変わらないからね」

 と、言った。

「ったく、なんで、俺にばっかり持たせるんだよ……」

「罰よ、罰。……寝坊した貴方が悪いのよ、」

 リーゼロッテがそう言うと、クロウは彼女を睨みながら吐き捨てるように、

「……ケッ、よく言うよ。」

 と、言った。

「なによ、本当のことでしょう?」

「言っとくけどな、俺が寝坊したのはお前の所為でもあるんだからな? あの――」

 クロウがそう言い掛けると、リーゼロッテはクロウを睨みながら、

「だから、こんなとこで言わないでって言ってるでしょッ⁉︎」

 と、言った。

「なになに?」

 フェリが興味津々といった様子で聞くと、リーゼロッテは、

「なんでもないわよッ」

 と、言った。

「……ったく、これで単なる勘違いです、とか言いやがったら手紙を寄越したラトウィルって奴をしばき倒してやる」

 クロウは吐き捨てるようにそう言った。

「でも、あの手紙の書き方だと本当に事件が起きているって、教区長も言っていたからね。それはないんじゃないかな?」

「……だと、いいけどよ」

 クロウはそう呟くと、奥の方から物売りの声が聞こえてきた。

 クロウが、ひょこっと顔を出す。ヲサンク特有の猫に似た獣の耳が、ひくり、と動く。目線の先には青地に白い波の紋様が染め抜かれた上着を羽織り、濃い緑色のズボンを履いた若い男。彼の押す台車には《フィリア湖観光鉄道》と書かれていた。

「……車内(しゃないー、)販売(はんばいー)、車内販売です。何かー、ご入(よー)の物わー、ございますか〜? ご入(よー)の物が……。あ、はい、お弁当でございますね? ……えっと、いくつか種類がございますが……、あ、こちらのエルシェ焼きですか? ……えっと、二ギルスですね。……はい、では、ちょうどお預かりいたします。こちらお品物になります。はい、ありがとうございました。……えー、しゃないー……」

 クロウは、しばらく男を見つめたあとスッと顔を引っ込めるとリーゼロッテ達に向かって、

「なあ、折角だしさ、弁当でも買ってかねぇ?」

 と、提案した。

「……もうすぐ、パルザールに着くのよ。我慢したら?」

 クロウの向かいに座るリーゼロッテがそう言った。

「だけどよ、リーゼロッテ、」

 クロウはそう言うと、ずいっと、顔を近づけ、小さな声で、

「……凶悪な殺人鬼が彷徨いてんだぜ? ……普通に考えりゃ、店なんか閉まってんだろ」

 と、言った。

「まだ、そう決まったわけじゃないでしょ?」

 リーゼロッテが訝しげに目を細めながらそう言うと、クロウは、

「でもよ、ルシんとこに来た手紙には、フェンゲによる殺人事件が起きているから卯下の猟犬の派遣を要請します、って、書いてあったんだぜ? それに加えてアルテメスが俺達に無記名の討伐状を渡してきたんだ。……もう、決まったみてぇなモンだろ?」

 と、言った。 

「まあ、確かに、そうよね……。教区長が私達に無記名の討伐状を渡すくらいだから、そう考えられなくもないけど……、」

 リーゼロッテがそう呟くと、クロウの隣に座るフェリが悪戯っぽく目を細めながら弾むような声で、

「とか言ってさ、本当はクロウが食べたいだけじゃないの?」

 と、言ってきた。

「……そ、そんなこと……、ね、ねぇよ、俺はただ、情報が不足していることを考慮してだなぁ……」

 クロウが、しどろもどろになりながらそう言うと、フェリは、

「まっ、こういう所で買うお弁当って、美味しいからさ。わからなくもないけどね、」

 と、言った。

 途端にクロウの表情が、パッと華やぐ。

「やっぱ、フェリもそう思うよなっ?」

 嬉しそうに声を弾ませながらそう言うクロウの腹が、グゥっと鳴る。

「……やっぱり、貴方が食べたいだけなんじゃない、」

 リーゼロッテはそう言ったあと、深いため息をつき、両肩を軽くすくめながら、

「……まあ、いいわ。好きにしなさい」

 と、言った。

「やったッ」「よっしゃッ」

 クロウとフェリが声を揃えながらそう言った。

「……それで、何を頼むんだい? 」

 イヅナがそう言った。

「何って……、おいおい、フィリア湖観光鉄道に乗ったんだったらさ、頼むモンは一つに決まってんだろ?」

 クロウがそう言うと、フェリが、

「だよね、」

 と、言いながら悪戯っぽく目を細める。そのあと、二人は声を揃えて、

「「ナウールベルトツッ!」」

 と、言った。

「はいはい。ナウールベルトツね。……でも、あれは結構人気だから、もし、売り切れてたら他のにするけど、良いわね?」

「おう、かまわねぇぜ」

「それで、イヅナ。貴方は何にするのかしら?」

 リーゼロッテがそう言うと、イヅナは、

「じゃあ、僕も同じのにしようかな?」

 と、言った。

「わかったわ。……あっ、ちょっといいかしら?」

 リーゼロッテは、そう言うと手を上げながら前を通り過ぎようとする車内販売の男を呼び止めた。

「はい、何でございましょうか?」

「ナウールベルトツって、まだ残っているかしら?」

「はい、まだ残ってますよ」

「……おっ、今日はツイてんな」

 クロウがそう言うと、フェリが嬉しそうに声を弾ませながら、

「だよね。名物なのに残ってるなんてさ。しかも、この時間に、だよ? ……ほんと、奇跡ってカンジだよね」

 と、言うと、イヅナが男に向かって、

「……珍しいですね。ナウールベルトツは、フィリア湖観光鉄道の名物って聞きましたけど?」

 と、言った。

「はは……、まあ、たしかに名物ではあるんですけど、咎人病が出始めてからはこっちに来る観光客もめっきり減ってしまいましたからね。……今はあんまり売れないんですよ」

 男が苦笑しながらそう言うと、クロウが首を傾げながら、

「……そうか? 結構、混んでいるように見えっけどな?」

 と、言った。

「いや、ほとんどが沿線住民ですよ。この鉄道は地域住民の足でもありますからね。この時間はこんな感じですが、昼間はもう、ガラッガラでしてね。……車内販売もからっきしですよ。せいぜい、お茶が二本、ってとこですかね、」

 男がそう言うと、イヅナが、

「……でも、この辺りは十数年ほど凶悪事件が起きていないと聞きますけど?」

 と、聞いた。

「ええ、そうなんですけどもね……、」

 男は歯切れ悪くそう言ったあと、辺りを見回しながら小さな声で、

「――実はこの先のパルザールで神隠し事件ってのが多発してましてね。……その所為で、客足が遠のいているってのもあるんですよ、」

 と、言った。

「神隠し事件、ですか、」

 イヅナがそう言うと、男は、

「ええ。若い女性が何人か、ね……」

 と、言ったあと、続けて、

「……ええっと、それで、どうします?」

 と、言った。

「あ、それじゃあ、ナウールベルトツと蜜柑を四つづつと……、そうねぇ、脂っぽいでしょうからカミル茶があったらそれも頂けるかしら?」

 リーゼロッテがそう言うと、男は、

「ええ、さっき淹れたてのがありますよ。……それも四つで良いですかね?」

 と、言った。

「ええ、それでお願い」

 リーゼロッテがそう言うと、男は嬉しそうに声を弾ませながら、

「えっと、ナウールベルトツに蜜柑、それにカミル茶でございますね? あっりがとうございますっ!」

 と、言って、注文の品を台車の中から取り出し始めた。

「……えっと、カミル茶は土瓶とテルイ杉と竹がございますが、どれにいたしましょうか?」

「そうね、竹でお願いしようかしら?」

「かしこまりました」

 男は、そう言って軽く頭を下げると、台車の中から弁当の包みと蜜柑、竹筒に入った茶を四つづつ取り出した。

「えっと……、全部で一フルビルスト七二ギルスになりますね」

「じゃあ、六カラトルグレイシルストでお願い出来るかしら? ……今、手持ちがそれしかないのよ」

「グレイシルストですか? 構いませんよ。……えっと、相場表は……、ああ、あった、あった」

 男はそう言いながら台車から為替相場表を取り出した。「……しかし、グレイシルストってことは、お客さん達、エラローリアからいらしたんですか?」

「……いいえ、私達、ギルスから来たんです」

「……へえ、そうなんですか」

 男は相場表を見ながら、パチパチと計算機を弾いていき、

「……えっと、グレイシルストなら六カラトル銀貨六枚になりますね」

 と、言った。

「あら、そうなの? 随分と少ないわね?」

「ええ、この前、改鋳が発表されましたからね。その影響ですよ」

「そう。……ギルスじゃそう言った話が出てなかったから……」

 リーゼロッテはそう言って、財布から銀貨を六枚取り出して男に手渡した。

「……まあ、あそこは交易都市で、いろんな国の通貨を扱ってますからね。……噂じゃ、フルビルストよりも外国の通貨の方が信用されてるとか……。いや、王都なのに嘆かわしいですよ、本当、」

 男はそう言いながら銀貨を数えると、にこやかな笑みを浮かべながら、

「丁度ですね、ありがとうございます」

 と、言うと、銀貨を仕舞いながらクロウ達に、

「……えっと、皆さんはフィリア湖観光にいらしたんですか?」

 と、聞いた。

「ちげぇよ……。仕事だよ、仕事。この先のパルザールにちょっとした用があんだよ、」

「仕事ですか。いや、こんなご時世に大変ですね。……えっと、では、一カラトル銀貨二枚のお釣りですね、」

 男はそう言って、リーゼロッテに釣り銭を手渡した。

「ありがとう。……ああそれと、商品は、そこのヲサンクの彼にお願いできるかしら?」

 リーゼロッテが銀貨を財布に仕舞いながらそう言うと、男は軽く笑いながら、

「はい、かしこまりました」

 と、言ってクロウに弁当を渡した。

「……っと、ありがとな」

 クロウは弁当を受け取ると、フェリとイヅナに配っていき、最後にリーゼロッテに手渡した。

 その後、クロウが男から受け取ったカミル茶の入った竹製の水筒をリーゼロッテ達に渡し終えると男は、

「……えっと、これで、全部ですかね?」

 と、言ったあと、

「それじゃ、ありがとうございました。……お仕事、頑張ってくださいね、」

 と、言って軽く頭を下げ、三号車に続く扉を開けてその奥に消えていった。物売りの男が去ったあと、クロウは、

「さ、早えとこ食べちまおうぜ?」

 と、ウキウキと声を弾ませながら言った。

「……だから、もう少しで着くのよ? 少しは我慢なさい」 

「大丈夫だって、早く食っちまえば問題ねぇんだからさ。……そんじゃ――」

 クロウがそう言いながらナウールベルトツの包みに手を掛けた――その瞬間、天井の声送機から、

『次わ、パルザール、パルザール。お降りの際はお忘れ物にご注意下さい……』

 と、目的地に到着したことを知らせる運転士の声が流れた。よく通る、溌剌とした声だった。

「……あら、残念ね。どうやら着いたみたいよ?」

 リーゼロッテがそう言うと、クロウは、

「……ちぇ、」

 と、残念そうに呟いた。

 キィッ、というブレーキ音を響かせながら列車が緩やかに減速していき、ゴウン、と、いう大きな音と共に車体が大きく揺れて、止まった。

 車掌がバタバタと降車口まで走っていき、扉を開けると、

『パルザール、パルザールです』

 と、運転士の声が車内に響いた。クロウ達も立ち上がると、網棚から荷物が入ったポルナックを下ろして中にお茶と蜜柑、それにナウールベルトツを入れると、肩に掛けたあと切符を持って降車口に向かっていった。

 降車口には、ひょろっと背の高い車掌が立っていた。年齢は三〇代くらいで、白い手袋をはめた手には改札鋏が握られていた。

「切符を拝見します」

 車掌がにこやかな笑みを浮かべながらそう言うと、クロウは切符をサッと取り出して、手渡した。車掌はそれに、ばちん、と、改札鋏で切り込みを入れ、

「どうぞ」

 と、言って返した。

「ありがとな、」

 クロウは、切符を受け取りながらそう言うと列車から降りた。

「……なーんもねぇな」

 クロウは辺り身を見回しながらそう言った。

 パルザール駅のホームは、王立フルビルタス縦断鉄道のような豪華さはなく、覆いもない吹きっ晒しの簡素な造りで、線路を挟んだ反対側のホームには赤い三角屋根が印象的な木造駅舎が建っていた。

「……地方の駅、それも民間のなんですもの。当然でしょ?」

 リーゼロッテはそう言った。列車から降りたのはクロウ達四人だけだった。

「まぁ、そうだけどよ……。華が足りねえっていうか、なんつーか、」

 クロウがそう言うと、イヅナは、

「でも、観光客には人気らしいよ? 郷愁を誘うっていうか、そんな感じみたいだね。……まあ、今は咎人病の影響で客足が遠退いているみたいだけど……」

 と、言った。

 警笛が鳴り、列車が動き出す。

 クロウ達は過ぎ去っていく列車を見送ると、線路を渡って無人の改札を抜け、魔灯の明かりが煌々と灯る駅舎の中に入っていった。

 中は装飾の無い簡素な造りで、天井に至っては骨組みが丸見えだった。辺りに人気はなく、右奥にある《切符売り場》と書かれた部屋の中では年配の駅員が、うつらうつらと首を小刻みに動かしながら居眠りをしていた。

「……郷愁、ねぇ……。哀愁の間違いじゃねえのか?」

 クロウがそう言うと、イヅナは、

「……それじゃ、パルザールに到着したって教区長に連絡してくるから、」

 と、言って切符売り場の中に入っていき、駅員と何やら話し始めた。

「とりあえず、座りましょうか?」

 リーゼロッテがそう言うと、クロウとフェリは声を揃えながら、

「そうだね」「そうだな」

 と、返して近くにある長椅子に腰を下ろした。

「……しっかし、今回の任務はめんどくさそうだよなぁ……」

 クロウがぼんやりとした口調でそう言うと、リーゼロッテは、

「……まあ、確かにそうね。私達でフェンゲを見つけ出さなきゃいけないんだから」

 と、言った。

「でもさ、なんでルシレールさんや教区長はボク達を選んだんだろ?」

「……あー? たまたま近くにいたから、とかじゃねぇのか?」

「……流石にそれはないんじゃないかしら?」

 リーゼロッテがそう言うと、クロウは、

「いや、ルシの奴ならあり得るぜ? アイツ、適当だからよ、」

 と、言った。

「……あー、それはあるかも」

 フェリがそう言うと、

「――新人だから研修も兼ねて、みたいだよ? 表向きの話しだけどね?」

 と、イヅナの声が聞こえてきた。

「おっ、連絡ついたのか?」

 クロウがそう言うと、イヅナは、

「うん。……とりあえず、明日の朝、王立警邏隊員パルザール支部に連絡を入れてくれるってさ、」

 と、言った。

「でも、表向きって、どういうこと?」

 フェリがそう言うと、イヅナは頷きながら、

「うん。……まあ、後付けかもしれないけど、ルシレールさん曰く、僕達が動きやすいようにお膳立てをしてくれたらしいよ?」

 と、言った。

「……いや、動きやすくはなってねぇだろ? フェンゲについて調査しなくちゃなんねえんだからよ」

「そういう意味じゃなくてさ、僕達が目的を達しやすいようにしてくれたって、意味だよ。……まあ、その分、いつもより気をつけなきゃいけないけど、ね?」

 イヅナがそう言うと、リーゼロッテは、

「ああ、そういうこと」

 と、納得したように頷いた。

「……あと、もう一つ。今回の任務次第では今後もこういった調査を僕達に回す予定だから頑張れってさ、」

 イヅナがそう言うと、クロウは、

「……ふぅん。……なーんか、踊らされてるような気がするけどよ、」

 と、呟いた。

「さ、早く行こうか?」

「たしか、今日は拝言所に泊まるって言ったよな?」

 クロウは確認するようにそう言った。

「うん、パルザールの拝言所は繁華街の真ん中あたりにあるみたいだね」

 イヅナがそう言うと、クロウ達は駅舎から外に出ていった。

 駅舎の前には、自動馬車がすれ違えるくらいの幅のある薄茶色の土が剥き出しになった道が正面奥から左側に抜けるように通っており、その道に沿うようにして商店や民家が密着するようにして並んでいた。

「……殆どの店が閉まっちまってんな、」

 クロウはそう言うと、後ろを振り向きながら、

「な? 弁当、買っておいてよかっただろ?」

 と、言いながら得意げに笑った。

「なによ、偉そうに」

 リーゼロッテはそう言うと、続けて、

「……そもそも周りにある店が飲食店とは限らないじゃない。パルザールの繁華街はまだ先よ」

 と、言った。

「……あー、本当だ。どの店も飲食店じゃないね」

 イヅナがそう言うと、リーゼロッテは眉間に皺を寄せ、少し険しい顔をしながら、

「……ほら、見なさい」

 と、言った。

「……なんだよ、まだ、店がやってるとは限んねえだろ?」

 クロウがそう言うと、不毛な言い争いになると思ったのか、フェリが二人の間に割って入りながら、

「……とりあえずッ! 拝言所に行こうよ? 教区長に連絡しないといけないしさ、」

 と、言った。

「……確かにそうね」

「……だな、」

 クロウとリーゼロッテはバツの悪そうな顔しながらそう言った。

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