〜1章〜【異世界のギルド】
門をくぐると大きな広間があり、その中心に神であろう像が立っていた。おそらくこの都が信仰している神であろう。ノアは興味が無さそうにその像を見つめている。
神って事は知り合いかな?そう思ってると目の前からノアが消えてしまい静かになってしまった。どうしたのだろうか?
そんな事を気にしつつ広間を抜けるとそこには多くの店が立ち並び、多くの人が行き交っていた。
「おー!!これが風の都フィンネルかー!」
店にも目がいくが、よく整備されている道や小川、橋などがこの国のインフラ技術の高さを物語っている。そして、壁に囲まれている都というのにに心地よい風がなびいている。
「今は魔物の影響で行商人の交通が制限されており、この国も活気が無くなっておりますが、かつては風に音をのせて毎日がお祭りのように賑やかだったのですよ」
魔物がいるのか!森にいた時は何もいなかったけど。
「あぁ申し遅れましたが、私はこの国の南門の守護をしていますフィンネル騎士団のシラードと申します。あなた様のお名前は?」
シラードって言うのか異世界の名前っぽいな。年格好は俺に近い感じがするが何歳くらいなんだろう?とりあえずここは正直にいうよりも様子を伺うために記憶喪失の設定でいこう。
「あぁ俺はコウガミ クロって言います。名前は覚えているのですが、実はそれ以外の記憶を無くしていまして、あの森の中をさまよっていた所をこの神の使徒様に救っていただいたのです。」
「ニャーオ!」
「なんと、それは大変だったでしょう。今は記憶を消し去るスキルをもつ魔女がいますから、遭遇したかもしれませんよ。よく生きていましたね」
そんなスキルもあるのか、これはスキルについて広く知っておく必要がありそうだな。そんな話をしながら俺は中心地にある冒険者ギルドという所に連れてこられた。
「ここはナノ・カーフ中の猛者が集まるギルドでレギオンっていいます。うちの副団長はレギオンのギルドマスターも兼任しているんですよ」
ギルドマスターか、それなりに力がある人なんだろう。
副団長でギルドマスターなら団長って人はもっとすごいのだろうな。さっそく中に入ってみるか。
「ようこそレギオンへ!見慣れない顔ですねー、新人冒険者の方ですかー?」
中に入ると受付カウンターがあり、受付嬢であろう女性が声をかけてきた。よくみるとうさぎの耳の様な物が付いている。おそらく獣人だろうな、結構かわいい。
「ラビさんお疲れ様です!今日は副団長に用事があって伺いました!重要な用事なので取り急ぎお会いできないですか?」
「シラード君もお勤めご苦労様ですー!マスターですね。多分暇してると思うから大丈夫だと思うよ!聞いてみますね!」
そう言ってうさ耳の受付嬢は手を頭にあて目を閉じて、何か念じている格好をとっている。
「あー、記憶喪失なら分からないかもですよね?ラビさんはテレパシーのスキルを持っていて、知っている人物に対して連絡を取ることが出来るんですよ!獣人族の特権?らしいですけどね。」
なるほど、テレパシーのスキルか!そういえば電話とかこの世界には存在しないんだよな。情報伝達のスキルはサポートとしてはかなり役立ちそうだ。獣人族の遺伝的スキルなのかな?
「教えてくれてありがとうございます。シラードさんも何かスキルを持っているんですか?」
「あー、私はラビさんと比べたらたいしたこと無いスキルだよ。平凡すぎてつまらないやつなんだ」
なかなか教えてくれそうにない。スキルっていうのはあまり知られない方が良いのかもしれないな。俺も気をつけよう。
「はいはーい!マスター今すぐ会えるってー!そこの階段から行ってねー!シラード君は場所わかるよね?」
「ラビさんありがとうございます!そしたらクロさん、使徒様をお連れになってついてきて下さい」
そう言ってミルキーを抱きながらシラードの後について行くと、大きな部屋に通された。そしてその部屋の奥に副団長であろう人物が座っている。
「副団長!フィンネル騎士団第12師団、サウスゲートの門番をしております、チェイス・シラードです。急ぎの報告がございます」
「あぁシラードか。兄さんからは何か便りは無いか?何かあったら知らせてくれと言っていたがその件についてか?」
「いえ、、、兄についてはまだ何も。そうではなく、神の使徒様がお見えになりました!私ではどう対応すれば良いかわからず、副団長に判断を頂こうと参りました」
「なんと、そこにいる彼らがそうなのか?」
副団長という男が近づいてきた、近くで見ると身長は俺よりも大きく190㎝はあり、そして耳が尖っている。おそらくエルフだと思う。
「ふーむ、確かに白いケットシーか。神々の伝令者。つまり、何かを伝えに現れたと。そこの男は何者だ?見たところこの辺の者では無さそうだが?」
俺はと、話そうとした時にシラードが割り入り、
「この方は南の森から来たとの事で。名はコウガミ クロといい、他の記憶を森の魔女に消されてしまった様なのです」
シラード、嘘をついて申し訳ないけどナイスフォロー!
「なるほど、南の森の魔女か。コウガミとやら大変だったんだな。近くに神の使徒がいたから助かったのだろう?そんなに人間になつくのも珍しいが命拾いしたな」
とりあえず、頷いておこう。本当にこの異世界に来てからは、ミルキーには頭が上がらないよ。お前のおかげでうまく事が進んでる。
「ニャーオ!」
ミルキーは嬉しそうだ。副団長はミルキーをじっとみながら、話し始めた。
「私の名前はこのレギオンでギルドマスター、そしてフィンネル騎士団副団長のエル・デ・アランと申します。あなたを神の使徒としてお願い申し上げます。この国はいま、闇の加護を得ている魔物の出現によって安全な暮らしが脅かされています。」
「魔物がいるんですね!森の中では会わなかったけど」
「それも使徒のおかげであろう。我が騎士団も全力をあげて対抗しているのですが、徐々に魔物の数が増え、しまいには南の森の魔女という化け物が現れてしまいました。その魔女は記憶を消し去り、新たな記憶を植え付ける事ができ、奴隷のように扱う事ができるとの報告がありました。我が騎士団の団員も何名かやられています」
魔物が増えてきて、ボス的なキャラも出現してるって事は魔王みたいなやつが復活でもしたのかな?前にノアが言っていた闇属性をもつ何かが関わっているのかもしれない。
「どうか使徒様の神々の力をお貸し頂き、手助けをお願いしたい。この件はそこのコウガミとやらの記憶を取り戻す手助けになるかと、その点を考慮の上お頼み申し上げたい」
ミルキーは副団長エルの顔をジーっと見つめ返し、こう言い放った。
「ニャーオ!」
「助けてくれるのですね!使徒様のお助けが有ればこの状況も変えられるはず。まずは我らが王に謁見し、これからの作戦を考えねば!シラード!私は城に行けるよう手配する。お前は仕立て屋のトミーの所へこの者たちを連れて行き、王に謁見する服装を準備してもらえ。頼んだぞ!」
そういうと、さっそくと部屋を出ていった。
ミルキーの返事が助けると言ったのかは謎だが、この都を救う事が出来るのであれば何かしらの報酬はもらえるはずだし、ノアにとっても信者を増やす手立てになるのではないだろうか?それに記憶を操る魔女とやらをブラックボックスで収納できれば棚ぼただろう。
副団長エルは賢者みたいな顔だが、どこか憎めない感じがする。会ったばかりだがその点から、みんなから親しまれるやつなのかもしれないと思った。
「シラードさんよろしくお願いします!そういえば、団長っていないんですか?」
シラードは困った顔をしながら、団長についての話を始めたのであった。