なみだ
…痛みは来なかった。
かわりに、何か柔らかいものが体に抱き着いている。
「…ううん…」
いや訂正しよう。人だ。人がまるでアナコンダのように俺に抱き着いている。
しかも服装を見る限り女性、いや制服を着ているところを見ると女子高生か。
しかしおかしい。
電車に飛び込んだはずなのになぜか生きている。
しかもここは森の中。
俺と謎の女子高生は道に倒れこんでいる状況だ。
「…どういうことだ……?」
…理解が追いつかない。
ただひとつ分かるのは俺は死ねなかったという事。
冗談じゃない。
やっとこの世界から消えられると思ったのに。
やっとこの苦しみから解放されると思ったのに。
…やっと独りになれると思ったのに。
死ねなかった。
いつもそうだ。自分の願いが叶えられた時などありはしなかった。
死ぬことすら自分の好きにさせてくれはしないのか。
「…うううああああああああ………!!!っ」
悔しくて。
悲しくて。
涙が止まらない。
泣くことなんてとうの昔に止めたのに。
それでも、最期の自分の望みさえ叶えられない無力さに涙がこらえきれなかった。
「…大丈夫…です…か…?」
いつの間に目覚めていていたのだろう。謎の女子高生が心配そうに声を掛けてきた。
こんな大人が高校生の前で泣くなんてみっともない。わかってる。
けどもなぜだろう。涙が止まらなかった。
「…いいんですよ。辛いなら泣き止むまで側にいます。だから思いっきり泣きましょう?」
そう言いながら、彼女はまるで母のような優しい表情で僕を抱きしめてきた。
彼女の表情と眼差しは優しく僕を包んできて。
そうして僕は、差し出された手を縋るようにして掴み、彼女に抱きしめられながら泣き疲れて寝落ちるまで泣いたのだった。
泣けば、良いと思うよ。