第5.5話 2人だけの時間 ※修正済み
ゲームのログアウトからしばらくして、私は沸騰した片手鍋の前で考え事をしていた。
考え事というのは、ガイア/櫻井奏が言っていた言葉と、ルクス/巣籠陸の行動の違いについて。
視線を戻し鍋の中を見ると、レトルトカレーが2袋。そのうちの1つは兄の分だ。
――ピンポーン
玄関のインターホンが鳴った。
鍋のこともあるため、小走りで扉を開けると、脇に一冊の本を挟み、両手でおかずを持った兄・陸の姿。
陸は「お邪魔します」と声に出し部屋に入ると、こたつの上に、おかずを置く。
「お兄ちゃん、いつもサラダとかいろいろ持ってきてくれてありがとう」
私が料理できないので、同じアパートに別居という形で生活している兄が、毎日作ってもらっている。
兄は、こたつを囲うように敷かれた座布団の上で本を読みながら、ドヤ顔で応えた。
「何の本を読んでるの?」
私は兄が持つ本について聞くと、
「ファミリーファームの攻略本、森林の木は3回叩くと切れるって書いてあるんだけどさ」
聞きたくないことまで言ってくるのが、この人だ。
さっきの言葉の半分を聞かなかったことにして、カレー皿にご飯をよそり、ルーをかける。
一度陸の持って行って食卓に加えて、台所へ。引き出しからフォークをスプーン、戸棚から小皿を人数分用意して、自分も座布団に座った。
「ちょっと読んでもいい?」
ゲームは、攻略本等を見ないで遊ぶ派だが、気になったので問いかける。
すると陸は、
「いいよ」
と本を差し出した。読む場所はどこでもいいので、最初の部分を開く。
そこには、
〈ファミリーファームには、共通スキルが五つ存在する。木こり(同種として大工)、鉱夫、釣り人、設計士、農家。
全てにスキルポイントが+100000から-100000まであり、ポイントによって成功する確率が変化する〉
このように書かれていた。
「お兄ちゃん、食べ終わったら一緒に遊ぼ」
そう話したのは、確認のため。
カレーライスをスプーンに乗せ、大口で食べる兄は、リスのように頬を膨らませ、空いた左手でOKサインを作った。
◇◇◇◇それから数分後◇◇◇◇
兄が部屋に戻ると、2人はそれぞれのベットに横たわり、専用のヘッドギアをかぶる。
ソフトをチェックしてから、
「「ゲームログイン」」
その一声で、仮想空間へ移動した。
私は、2ヶ月前、ファミリーファームの運営に、お世話になったことがある。
それは、今からプレイする作品の開発に呼ばれたこと。
農業に興味はない。けれども、新作ゲームがVRで登場すると聞いて参加することになった。
ただ、まさか審査へ通さずにサービスを開始するとは思ってなかったのだ。
審査に出さないで開始すると、不正アクセスなどで、改造されやすい。
私は、そのことを噂で聞いて、ゲーム警察を始めた。
まず最初にプレイしたのは、ハンティングアクションゲーム。
据え置き型でテレビに接続して遊ぶものだった。
ハンティングアクションなので、モンスターを狩るという内容。だが、このゲームはとにかくバグが多かった。
攻撃が当たっているのにダメージ判定がなかったり、強化素材を集めて鍛冶屋に行っても強化できなかったり。
一番酷かったのは、集めて貯めておいたアイテムが、消費していないのに全損したこと。
でも、このゲームのおかげなのか、今のゲーム内キャラが生まれた。
狩猟系のゲームは、性格が荒れやすく、変化も激しい。
それも、使用武器によって口調も変わる。
ジャンル自体初見でのプレイだったが、私は他プレイヤーがやらないような組み合わせで戦った。
遠距離武器の重い銃を使い、至近距離で攻撃というスタイルで、いざ共闘しようとすると周りの人が、「危険だ」と言い、手伝ってくれなかった。
運営にバグの報告はしたが、いつになっても、修正版アップデートが来なかったので、今はやってない。
そうしている間に、分身のプレイアバターは、広い農場――まだ何も育ててないが――に、立っていた。