第70話 受注クエスト:大量昆虫駆除②
「もしかして、ぼくに合わせているんですか?」
基本の動き、縦・横・斜めの攻撃を繰り返す私に、ルナが尋ねる。
「そうに決まってるだろ!! ”けん”は”けん”でも、拳撃しかできないお前の剣術は、半人前それ以下だ。
長期戦で拳を使うと微量の反動ダメージを受けるし、単体と戦うわけではないから、その分的にされやすい。
加えて攻撃範囲が狭いから、ダッシュで攻撃しても一方向、多くて二方向が限界。対して、剣は横にスライドさえすれば、複数の敵に攻撃できる。
まあ、私の場合は、どちらでも問題ないんだが…………。状況に合わせて対応できる、マルチスタイルが一番ってことだな」
「ちょ、長文…………お疲れ様です……。大変勉強になりました……」
ルナが、引いている。ちょっと熱が入りすぎてしまった。これだけ、ゲーム好きになってしまったから、なのだろう。
小学5年の時に友人の誘われ、半分イヤイヤでプレイして、攻略本と勘で操作しただけで、すぐにクリア。
ハンティングゲームではなかったが、最速に近いタイムを出せば、周りから人が消えていく。
当時はゲームの知識は0だった。その後、簡単すぎるゲームが嫌いになり、知識を得ようとしないまま、遊ぶのをやめた。
しばらくして、高校退学後に引っ張り出したゲーム〈ゾンビハント〉がきっかけで、再びゲームを始めた。
デバイスの種類も変化を続け、操作方法も複雑に。攻略本を読んで攻略したが、不具合の関係で断念。
別のゲームも同じだったが、気付かないうちに、攻略本を読まなくなった。
つまり、勘だけでプレイするようになったわけだ。
ゲーム内では口調を変えて、至近距離のスリリング感を気に入り、適正武器以外での近接戦闘をするようにもなった。
そして、知らぬ間に有名人となり、審査会社からも依頼が来て、ゲームにのめり込む生活。
当たり前になっていた。嫌いなゲームを自ら難易度を上げて、縛りプレイをしては、最速タイムをたたき出す。
一度離れた人は、なかなか戻って来ない。でも今は、兄や努、親友といった新しい仲間がいる。
思い返せば、そのおかげで少しゲームが好きになれた。友は類を呼ぶ。類を呼べば福も来る。
だが、全て上手くいくとは…………、限らない。
「アンゲーマー、大丈夫ですか? 顔色が、あまり優れてないように見えますが…………」
「すまん、ちぃと考え事をだな。さ、ビシバシすっから着いてこい!!」
「……は、はい!!」
不安な気持ちを押し殺して、剣技をレクチャーする。できるだけルナのペースに合わせて、一撃一撃を的確に。




