第5話 初めての農業ライフ ※修正済み
ファミリーファームシリーズ。
あまり気にしたことはなかったし、遊んだこともないゲーム。
農業系のゲームは、今まで触れたこともないため、ジャンルも初見になる。
「お待たせしてすみません。ルグアさんとガイアさん、ログインするの速いですね」
遅れてやってきたルクスが、謝罪する。
「まあな、プレイヤー名はルグアで固定だし、入力項目が少なかったからさ」
相変わらずのゲーム内口調に戻った私に、男2人は苦笑した。
フィールドに広がるのは小屋と腐食した柵があるだけのさら地。
きっとここから、畑を作り、家畜を飼って発展させていくのだろう。
途方に暮れてしまいそうな、作業ゲーだ。
狩猟系のゲームでも、作業ゲーに変えて遊ぶことはよくあるが、ここまでめんどくさいのは初めてだった。
「さーて、ルグアさんとルクスさん、早速取り掛かりましょう!!」
急に張り切りだして、鍬を手にするガイア。彼は、農業高校卒で、農業についてはとても詳しい。
「周辺を確認したところ、小屋の裏側に森林があると思います。私は、ここで畑を作っておくので、2人は木材を取ってきてください」
迷いのない指示だった。この場所は、ガイアに任せることにして、斧を手に持ち森林へ向かって歩く。
『木を切る時は、少しずらして、くの字に刃を入れると上手く倒せます。持ってくる時は、いくつかに短く切るといいですよ』
わざわざ遠くから、ガイアが叫んだ。
「ガイアサンキュー、参考にするぜ」
私も負けじと、大声を出す。
しばらくして森林に到着すると、今度はルクスが準備運動を始めた。
「おいおい、ゲームなんだから必要ねぇだろ?」
実の兄でも、ゲーム内なら話し方は変わらない。ルクスは、
「あか……、じゃなくてルグア、俺は形から入りたいだけだからさ」
名前を間違えかけていた。
(今この場所にいるのは、私とルクス……、陸だけなんだから言い直さなくてもよくね)
そんなことは置いといて、太い針葉樹の前に立ち、両足を肩幅に広げた。
テレビで見たやり方を、見よう見まねで、やってみる。
柄を少し長めに持ち、体をひねってまっすぐ叩き込む。
だが、素人は素人の結末を迎えた。
すなわち、斧が抜けなくなったのだ。
それに気づいたルクスが駆け寄り抜くのを手伝う。深くまで刺さっていたので時間はかかったが、なんとか外すことに成功。
ルクスは、私が叩き込んだ場所と直角になるように斧を振ると、反対側に幹が倒れた。
「このゲームの林業を勉強してきて正解だったよ」
勉強熱心な兄が、汗が流れないのに、額を拭う。
倒れた幹をよく見ると、先がまるで三角錐の形になっていた。
どうやら、ルクスが別の場所にも切れ込みを入れてくれたようだ。
(こうなったら、裏技使うか……)
「ルクス、ありがとう。あとは1人でやるから、ニ手に分かれないか?」
もちろん、素人というのは変わらない。でも、効率はこっちの方がいい。
なぜなら、一度に2本倒せるからだ。
「了解。もし何かあったら、教えてください」
とルクス。
「ラジャー」
とルグア。それぞれ、別々の場所へ移動した。
再び、私は別の針葉樹の前に立ち、斧を構える。
今回は、少し別のゲームのスキルモーションを加えることにした。
切る位置を確認して、幹に背を向ける。斧の刃は左側に、柄は腰の右側に。左足を後ろに下げて、素早く逆時計回りに振り抜く。
すると、斧は幹を真っ二つに切断した。
このままでは倒れないので、軽く押して横倒しにする。
素人でも、ゲーマーならなんとかなったりするから、楽しいと感じることもある。
仮想の画面に表示された時刻は、17時、農場に戻ると畑が完成していた。
「ルグアさんもルクスさんも、お疲れ様です。今日はこれでお開きにしましょう」
ガイアが、そう言うと一斉にログアウト。私も、現実世界に帰還する。
「夕食のメイン、何にしようかな……」