プロローグ5
「あ、熱い。部屋も暑いし、常に武器精錬していたからか、炉の温度はレベルが違いすぎる」
「モードレさん、本当に大丈夫なんですか?」
「…………はぁ、まーた心配されちまった。私としたことが…………。事実と言えば事実なんだけどさ」
燃え盛る小部屋――精錬かまどの中――で寝転がり、ルグアは背筋をピンと伸ばす。
触れる身体の面積分、約1万度の高温が肌や衣服を、漆黒に焦がした。
彼女にとっては、天国であり地獄でもある、精錬かまどの炉の中。
外気温とは9986度差だ。炉の外に出た途端、悪寒がよぎる。まあ、ここで耐えているのも、ありえない状況なのだが……。
通常なら、HP全損。リアルなら骨の髄まで灰にして、その灰すらも消えてしまう。
けれども、ルグアはなぜか例外のようで、HPも数ドットしか減っておらず、いまだ健在。
この件に関して、頼りになる人といえば…………。
「おーい、ゼアンいるか?」
「これはこれは、お呼びのようで。はて、何用ですか? モードレ様」
この人しかいない。
「例のあれ、もっと詳しく教えてくれないか? というか、特異点専用スペルの技名、先決めようぜ!!
そんな使ってねぇけど、毎回術式詠唱すんの、めいどいからさぁ……。わりと長ぇし、言うの恥ずいし」
「そうですか。わたくしは気にはしていませんが…………」
ルグアの唐突な切り出しと切り替えに、ゼアンは首を傾げる。
「実はだな。一応ネーミング候補は決まっているんだ」
「それは、どのようなお名前で?」
「まず、ゼアンのやつ。あれ、見た感じアンデットだよな? 効果範囲は狭くて、すぐに道が塞がる。突破口を開けば、多少変わるだろうが、一種の壁だった」
確かに、一瞬で終わらせたが、度々ブレーキをかけていた。かけざるを得なかった。なので、
「〈アンデットラビリンス〉。ルクスにも協力してもらって決めた。アンデットは死者の亡霊…………」
「続くラビリンスは、迷宮……でしょうか?」
「ああ。んで、私はそれに合わせて、〈ジャッジメントラビリンス〉だ」
「”審判の迷宮”…………」
これだけではない。クリムに聞いたところ、ルグアの特異点には、個々に災害を発生させることができる。
「だから、津波を〈オーシャン〉。台風を〈フロル〉。雷撃を〈レイ〉。溶岩流を〈サージ〉。そして、私のオリジナル〈ヒール〉にした」
「なるほど。ですが、溶岩流がサージというのは、接点が想像できませんねぇ…………」
「……だろうな。ルクス!! ちょっと説明頼む!!」
部屋の掃除をする兄に、声をかけると、そそくさとゴミを端に寄せ、かまどの近くにやってきた。
「俺が、サージを選んだ理由ですね。ゼアンさんは、火砕サージを知っていますか?」
火砕サージ。昔、ポンペイという都市を襲った火砕流で、近くにそびえる、ヴェスヴィオ山の噴火で起こった自然災害。
これは、日本でも同じことがあり、群馬県と長野県にまたがる浅間山が、日本のヴェスヴィオ山、嬬恋村等近辺の村が、日本のポンペイだとか…………。
「という理由で、サージにしました」
「なかなかのネーミングセンス。意味があると納得できる」
「だろ?」
ルクスの説明にゼアンは頷き、ルグアは自慢げに、にやりと笑う。
「あくまでも、俺が決めたので、ルグアは関係ないんだけどね」
「ルクスに、一票入れさせてもらおう」
目の前の2人は意気投合、弾かれたガロンは、ルクスの代わりに箒を持ち、ルグアはぼんやり眺める。
彼女を狙う人が、訪ねるとも知らずに…………。
「りんり〜ん!! 漫才やろうよ〜」
ただ一人を除いて…………。
◇◇◇一方リアルでは◇◇◇
「キャップ、ターゲットの部屋に侵入成功しました。今から改造を開始します」
『了解した。素体に危害を与えぬよう、作業してくれ』
「そんくらい、わかってます。じゃあ、切りますよ。キャップ」
『うむ!!』
――プチン…………トゥー……トゥー……トゥー……。
とある部屋に潜り込んだ、一人の男性。その近くに横たわるのは、巣籠明理だった。




