第1話 人混みの原因 ※修正済み
VWDLにログインした私は、人々の群れの中でもまれ、前へ行くたび津波のように押し返される。
頭上で明滅する、プレイヤー名のとなりには、おなじみのレベル機能。1から7千近くの者もいるので、このゲームの自由度が幅広い。
両手で掻き分けながら歩を進めると、そこに現れたのは、一度入力して失敗した〈ルグア〉の文字。
「あいつが、私の名前を……、意外と有名だからなぁ〜」
目の前に立つその人物は、リアルの私の顔によく似ているが、一旦置いといて、レベルを見ると、1万1000という桁違いの数字だった。
武器を手にしていて、すぐ近くにゴブリンが鼻息荒く棍棒を構えている。
「敵のレベルは、3万? こっちもレベルが自由かよ。他にもいる、2万……1万5000…………6万!? ってことは6万のが親玉だな」
人間観察ならぬモンスター観察。やっぱり最初は情報収集。
野次馬からのスポットライトは、独り言のように喋る、私へ向けられる。
(こりゃ、まずいな。親玉との差は4万9千。ランダム付与のチート級ユニークスキルで、有利なやつがあったとしても、他のを相手している間に……)
様々なジャンルのゲームをしてきたが、この状況は危険。
でも……。
「もしや、君はあの6万のゴブリンを倒せると思っているのかい?」
ちょうど隣にいた中年男性に、声をかけられた。私は、
「なぜ、そう感じたんだよ?」
視線はそのままで質問を返す。
「別のゲームで、お会いしたことがあると思います。パーティも組んだじゃないですか」
見間違えだろうと、無言で対峙しているプレイヤーとモンスターの観察を行うが、それでも言葉は続き、
「ガイアですよ、今はグランでやっていますが。あなたは、本物のルグアさんですよね。覚えてますか?」
この発言でようやく思い出した。
「レーシングゲーのチーム戦で一緒になった、あのガイアか?」
レーシングゲームというのは、私が遊んだゲームの1つ。
「ええ、そのガイアです。あの時はお世話になりました。初プレイなのに、私の家族が観戦する中、自らドライバーを承諾して、プロレーサーに挑んだのはほんと驚きました」
一回途中で区切れよ、とツッコミたい気持ちを抑えて、
「まあな。レーシング系で他にもいろいろやってたし、操作方法に大きな差はないと思うから、半分は勘でやったんだけどさ」
軽く頷く。今の私にとっては、これが普通だった。他の野次馬は、どちらが本物なのか混乱状態真っ只中。
目の前で戦う偽ルグアは、HPギリギリ、今にもゲームオーバーするのではないか、という緊迫感がひしひしと伝わる。
(行くなら今だな)
握り拳で鼓舞し、ログイン直後のレベル1、初期所持武器は上乗せ値6千。
強化前なのに、意外と強い長剣を左手に装備し、地面を蹴った。