第2-18話 新しい呼び名
「一度このゲームから離れたいけど……。ログアウトのボタンがないんじゃ何も出来ない。運営は一応フィードバックの項目を作ってくれてるけど、出してくれるかもわからないし。レースどうしよ……」
{ん? 急に暗い顔してどうしたんだよ?}
「えとね。レースの約束あったでしょ。でも、それをするには一度このゲームを出る必要があるから」
ボスであろう敵を倒すことでゲームクリアなんだろうけど、見失っちゃったし。勘で探そうにもここは真っ暗なので方向感覚がわからない。
私にとってはかなりの難敵ゲーム。ただ酸素その表示とかがないだけマシに思えた。こんなゲームを一体誰がどういう思いで作っただろうか?
ネタはいいにしろ、難易度が高すぎる。女だからあまりクソとかは言いたくないけど、これはクソゲー界の中ぐらいだろう。
{んで、明理どうするんだ?}
「うーん。一度引き返そうかな? 道は大体だけど覚えてる」
{そうか}
「ところで、寝るって言ってたのに起きてるみたいだけど、ルグア大丈夫なの?」
{まあな……。オレの記憶がしっかり戻っていればなぁ。故郷に帰るしかないのかなぁ}
故郷というのは、少し前に楓さんが見せてくれた画面の中の世界。ゲーム世界としてゲートを開くみたいだけど、それでルグアの記憶は戻るのだろうか?
{なあ、明理}
「何?」
{オレの名前とお前のプレイヤーネーム。一緒だろ? そろそろオレのこと別の呼び方んいしてくれないか?}
「例えば?」
{フォルテとか?}
フォルテ……。たしかにそっちの方が区別付きやすいし、呼びやすい。私は今度からそう呼ぶことにしようと思った。ルグアの本名は'ルグア・レミリス・フォルテ'。フォルテという名前は、過去にお世話になった拠り所の青年の名前から取ったもの。
フォルテは少し恥ずかしそうな声を、モールス信号でも打ってるのかと言うくらい私の脳内で垂れ流しにする。
「フォルテ。本当はそう呼ばれるの慣れてないから恥ずかしいんでしょ?」
{ち、ちげぇって明理}
「ほら照れ隠しーーー。でもそのうち慣れるよ。改めてよろしくね。フォルテ」
{……}
フォルテが黙り込む。彼は記憶を無くしているのに、頑張り屋でお喋り好きで寂しがり屋。だが……こんなフォルテは久しぶりに感じた。
まあ、私が集中してる時はしっかり黙ってくれるけど。そういう時以外では珍しい。
「フォルテ?」
{いや、なんでもない。さて、どうすっか……}
「だねぇ……」
{オレと交代してダンス練習で暇つぶしするか?}
「それは却下」
{んじゃ、ゲーム内でビール?}
「私は未成年なので飲めません」
{オレは未成年じゃないぜ?}
「年齢不詳でしょ?」
{まあな}
兄の陸が言うにはフォルテは主導権握ってる時に、ビールテイストの飲料アイテムを購入して飲んでいるらしい。
私はアルコールのパッチテストをした時すぐに赤くなったので、アルコールは飲めないが、フォルテはお酒に興味があるようで。
大幅に脱線した私たちは、ボスを探すために一度スタート地点を目指すことにした




