第10話 不死身のレイドボスとバグオーバーキル
「じゃ、ノアン。私はソロで攻略すっから出てくれ!!」
薄暗い石畳の通路で、ギルド加入手続きを終えたルグアは、10m先に立つ少年へ言い放つ。
「その前に、君は違うことを知りたいんじゃなかったっけ? モンスターの最高レベルを」
確かに、忘れていた。せっかく教えてくれるというのに、ギルドに意識を集中していた。
「説明するよ。僕も最近団長・二つ名【アーサー】のセレスから聞いた話なんだけど。このゲームは、Lv1000垓まであるらしいよ」
(1000垓!?)
「って、0いくつだ?」
計算できない私が、全エリアを複雑な空気にさせた。
「そこからでしたか。噂で知りましたが本当だったみたいですね。1000垓は23個です」
23個もあるのかと関心を持つものの、今度はレイドボスを片隅に封印するところだったので、走ってその場から離れる。
『ちなみに、ここのボスは1000兆!! 0は15個ですからね!! 健闘を祈ります!!』
手を振るノアンに背を向けて、私は第2ゲートに足を踏み入れた。
◇◇◇◇◇◇
――グルワァーウ!!
文字に起こしても言葉にならない雄叫びが、円形の闘技場全体を震わせる。
仁王立ちで行く手を阻む敵は、ドラゴン系のモンスター。名前は設定されておらず、ただ、ドラゴンと書かれているだけだ。
「えーと、0の数は……。一、ニ、三、四、五……」
目を凝らしながら指折り数えていると、
――グウォウ!!
小さく吠えて尻尾を滑らせた。勘のおかげで回避すると、数えるのを諦めて間合いを詰める。
「死角に行けば多分……」
口から漏れた声を悟ったのか、ふところに入らせてくれない。それでも、なんとか近づくと、
――ザシュッ!!
と、一振り浴びさせる。
だが、モンスターの近くで横に伸びる、10本のHPゲージは、びくともしなかった。
「こりゃ、難敵だな。私のレベルが原因なんだろうが……」
ドラゴンは巨体を右へ左へ回転させて、挑戦者を探す。私も、四肢を攻撃しながら狭い死角エリアを移動を繰り返し、なんとか1本削った。
ドレインのおかげで被ダメージは最小に抑えているが、通らなければ、いつまで耐えられるかわからない。
「レイドポイントは……。今5万か。単位が漢字表記で助かるぜ。あと20万」
呟きつつ細かいステップでダメージを与えると、ドラゴンが毒を受け始めた。
毒は、じわじわとゲージを減らし2本目、3本目と消していく。
そして5本目を削り、残り半分になった時。
――グルグワァーオォォォ!!!!
今までで1番大きな雄叫びが、私の体力を減らし、ドラゴンは全回復した。
「やっぱりな、こいつは一撃必殺でぶっ倒すしかないか」
一撃必殺、多くはオーバーキルで仕留めることだろう。昨日のバトルで使ったのもその1つだ。
意識を剣に集中させて、左手を右腰に構える。
今更だが、私は左利きで、食事は右手でも可能。普段は右で食べている。
高めた力は赤いエフェクトを生み、体全体を包み込むと、前回同様プレイヤーゲージに”攻撃力上昇”バフが付与された。
(まだまだ!!)
さらに剣に力を込めると、赤いエフェクトはオレンジに、オレンジから紫へと変化する。
そして、黒いエフェクトになった瞬間、意識が途切れオーラと纏った剣閃は勢いよく放たれた。
――ウゥゥゥ……
断末魔というよりは、眠りにつくような可愛らしい声。オーバーキルの表示とクリア報酬が同時に浮かぶ。
――パチパチパチ…………。
手を叩く音がこだました。入り口を見るとノアンが微笑んでいる。
『最初から観戦させていただきました。バグを使いましたね。まとめると、〈バグオーバーキル〉ってところでしょうか』
「……まあ、……そうなるな」
集中力が限界を超え、フラフラと立ち上がる少女は、疲れきった表情で応える。
レイドポイントを確認すると、5000万と書かれ、私は「よく頑張った」と言って肩を荷を下ろし、その場に倒れた。




