第二十話 ダンジョンに行く準備
「ダメです」
Dランクに昇格する為の条件である『ダンジョンの踏破』。その為にはダンジョンを管理するギルドの許可証がいる。許可証が無ければダンジョンに入れないのだ。
しかし、その許可証を貰いに来た俺達は、許可証の発行をキータに断られていた。
「ええ!? な、何で!? 」
「ぼ、僕達、昨日Eランクに上がりましたよ? ダンジョンに入れますよね? 」
俺に続いて、メテオラも抗議の声を上げた。本来、ダンジョンにはFランクから入れるらしいので、昨日Eランクに上がった俺達には断られる理由は無い筈なのだ!
「…………貴方達がダンジョンに行く準備を何にも揃えていないからよ! 昨日Eランクに上がったばかりなのに、朝一で許可証を取りに来る人は、例外なく何の準備もしてないわ! 違うと言うなら、『携帯食と水』『ダンジョンマッピングの道具』『魔物避けの香』『夜営道具』『ランタンと燃料の魔石』少なくともこのくらいは出してみなさい!! 」
「……………………ウゥ…………」
「……………………出直して来ますね? ほら、隼人さん。行きましょう」
キータの言う物をほとんど持っていなかった俺達は、すごすごと冒険者ギルドを後にした。
「そっか、そうだよな。ダンジョンに行くには準備がいるよな。…………くそっ! 討伐依頼をこなして、やっとモンスターの解体に慣れたってのに、俺は未だにゲーム感覚だった! 」
「僕も考えていませんでした。討伐依頼を受けるだけなら十分な用意があるから大丈夫だと…………。気を引き締めないといけませんね」
そうなんだよな。森に行く分には日帰りだから夜営の用意なんか、マジックバッグにテント一式が入りっぱなしになっているだけだ。食料と水も、現地調達が出来たからあまり持っていない。
それに『ダンジョンマッピング』か、そうだよな。そういうの必要なんだよな。
「取り敢えず、ツーガさんのお店に行きませんか? 」
「…………そうだな、ツーガなら俺達よりも詳しいだろうからな」
と言う訳で、俺達はツーガの店にやって来た。
「なるほど、それで私を訪ねていらしたんですね。しかし、もうダンジョンに挑まれるのですか。お二人は優秀な冒険者なのですな」
店の奥の応接室で、対面のソファーに座る俺達を誉めるツーガ。しかし、準備不足を指摘されて、キータに追い払われた俺達は苦笑いしか出てこなかった。
「そうですな。ダンジョンに入る為の装備でしたら、すぐにでも揃えられますが、…………ダンジョンにはお二人だけで挑まれるのですか? 」
「そのつもりですけど、何かまずいですか? 」
「いえ、ダンジョンという場所には、様々な罠が仕掛けられているものです。それを発見できる斥候のようなスキルを持った人をパーティーに入れる事を、私は強くオススメします」
「…………斥候ですか」
なるほど、ツーガの言う事はもっともだ。しかし、この斥候については俺には心当たりがあった。
「大丈夫です。斥候については当てがあるので」
「そうでしたか、それは差し出がましい事を言いました。…………では在庫を調べて参りますので、少々お待ち下さい」
ツーガが出ていくと、メテオラが俺に向き直って質問してきた。
「心当たりって、もしかして新しい悪魔ですか? 」
「正確には魔獣だな。買い物が終わったら街の外に出よう。流石に街の中では騒ぎになりそうだからな」
「そうですね。わかりました」
ツーガからダンジョン攻略に必要な物を買った俺達は、その足で街の外へと向かった。ツーガの所で買った品物は大分嵩張る物が多かったのだが、今は全てマジックバッグの中だ。
大変に便利で助かる。しかしツーガには、マジックバッグとは大変に貴重な品物なので、あまり人目につく事は避けるようにと、忠告を受けた。
実は同じ様な忠告は、薬師ギルドでも受けていた。それは、エクスポーションについてである。
まあ、あれだけ万能の薬だし、ブエル曰く材料を揃えるのは難しくはないが、実際に作り出せる者はそうは居ないだろう。との事なので予想はしていたが、薬師ギルドの面々から、くれぐれも他言したり人前で作らない様にと念を押された。
最悪、永遠に薬を作らせる為に拉致監禁されるそうだ。冗談ではない。
「それで、どんな魔獣を呼ぶんですか? 」
街から少し離れたいつもの広野で、メテオラが聞いてきた。その顔を見るに、かなり楽しみにしているらしい。その期待には、おそらく答えられるだろう。
「ああ。メテオラも聞いた事くらいはあるかも知れないな。ま、実際に呼んでみよう。来い! 『ケット・シー』!! 」
手を前に出して叫ぶと一瞬の光が弾け、そこに黒色の鍵が現れた。
持ち手は三角形で、その三角形の部分には二足歩行の猫のシルエットが刻まれていた。
俺がその鍵を手に取ると、俺の足元に高さ50センチくらいの扉が現れる。俺は迷わずその扉の鍵穴に『ケット・シー』の鍵を差し込んで回した。
ゆっくりと開く扉の向こうから、上品で豪華な上着を着て、頭には金色の王冠を被った、灰色の毛並みが美しい猫が歩いて出て来た。大きさは一般的な猫と同じくらいで、その歩き方は二足歩行である。
『余は『ケット・シー』! 偉大なる猫の王様ニャ! 余を呼んだのは貴様らかニャ! 』
クリッとした青色の大きな目。その顔はまだ子猫の様に幼い感じがする。そして、こちらにビシッ! と突き付けられた猫の手には、ピンク色の肉球が見えた。
偉そうに喋るケット・シーだったが、その姿をまじまじと見た俺達の感想はただ一つ。
「「…………カワイイ」」
その一言である。




