第百八十七話 『ヘビーアーマー・タートル』
『おう、戻ったのか? 』
現実に戻るなり倒れ込んだ俺達を見て、ジンマは軽く言った。
『どうやら大変だった様だな? ワシから見れば一瞬も無い程の出来事なのだかな』
「…………まあ、時間が止まっているからな」
俺は『変身』を解いて座り直し、ジンマが差し出す湯飲みを受け取った。俺の隣では、メテオラが『改変の鏡』を見て首を傾げている。
「ん? どうしたメテオラ」
「隼人さん、鏡が曇ってしまって映らないんですよ」
「どれ? 」
メテオラから『改変の鏡』を受け取って見てみると、確かに曇っていた。だが俺は、何となくその理由を察する事が出来た。
「…………これはアレだな。連続使用が出来ないタイプだ。多分、この曇っている状態がインターバルなんじゃないか? 」
『おお、良く解ったな。ご名答だ』
俺の考えをジンマが肯定した。やっぱりな、こんなに強い能力が連続で使えるなんて旨い話がある訳が無いからな。
「インターバルはどの位なんでしょうね? 」
『使った状況と相手によるな。その時に使った魔力を補充している間は使えないって物だからな』
「…………後払い制なのか……」
まあとにかく、『改変の鏡』のおかげで『シトリー』と契約は出来た。これで戦いが楽になる筈だ。
「『変身』! 来い、『シトリー』!! 」
『ゲーートセーーット!! 』
『ゲーートオーープン! シトリー・ゲーート!! 』
『ソロモン・ドライバー』からの声と共に『ソロモン・フォーム』の胸の扉が開き、そこから一頭の豹が飛び出した。
豹は俺の周りを大きく一回りした後に、正面からぶつかって来た。その瞬間に俺は光に包まれ、『シトリー・フォーム』へと『変身』する。
頭部が豹の頭のマスクに代わり、体は黄色を基調として黒い斑点と赤い紋様が刻まれ、胸にはハート型のピンクの宝石が埋め込まれている。
そして両腕には短く収納も出来る三本爪が装備され、足にも同様の爪があった。…………そして、何故か尻尾も生えていた。
「わぁ! 猫ッぽいです! 猫耳もありますよ! 胸のハートもカワイイですね!! 」
『ハッハッハッ! いいな、面白い変化だ』
「一応言っとくと猫じゃなくて豹だからな。あと猫耳にも意味はあるんだぞ? ちゃんと五感が強化されているしな」
メテオラ達が言うように『シトリー・フォーム』は少々カワイイが、ガッツリ戦闘向けの変身なのだ。
そして、俺達の快進撃が始まる。
「ハアッ! セイヤァッ!! 」
『ギィピ!? 』
『ギイィッ!? 』
俺はシトリーのスピードで『ニードルフィッシュ』や『スピアフィッシュ』の突撃をかわしながら、すれ違いざまにシトリーの爪で斬り捨てていった。
俺を避けて、離れた所にいるメテオラやジンマを狙ったヤツには飛ぶ斬撃を放って両断する。
もはやこの階層では、シトリーの力を手に入れた俺の敵はいなかった。
俺達は勢いに乗って進み続け、五階層の八割方を制したところで休憩に入った。ジンマの結界があれば、モンスターの少ない所なら何時でも休憩できるから便利だ。
いや、別にモンスターが多いと結界が破られる訳では無いが、あまり囲まれると結界を解いてからが大変なのだ。
「凄いですね! 強いですよ隼人さん!! 」
『おおー、こんなに変わるのか。隼人の能力は多様性が凄いな。これなら、ここのボスもいけるかも知れんな』
「…………ああ、そう言えばボスが居るって話だったな。どんなヤツなんだ? 」
『ここのボスは『ヘビーアーマー・タートル』だ。その名の通り堅固な鎧を着込んだ巨大な亀でな、防御力はもちろん攻撃力も相当高いぞ』
「え? なんか凄い固そうなんだけど。魔法とかで倒すヤツか? 」
『いや、魔法を弾く鎧も着ているからな。方法としては鎧の継ぎ目を攻撃して壊して、少しずつ脱がしていく感じだな。あまりモタモタしていると子供を産んで増やしていくから気をつけろよ』
「子供!? 戦闘中にですか? 」
ジンマの説明によると、『ヘビーアーマー・タートル』はつがいの亀型モンスターで、一塊の巨大な鎧の中に夫婦で潜んでいるらしい。
基本的に敵となるのは巨大なメスで、オスはメスに比べると十分の一程度の大きさだと言う。
メスは膨大な魔力をもって鎧を動かし、オスは鎧の外側にある二本の腕を動かして攻撃してくる。
ちなみにメスが産んだ子供は、オスがこの腕を使って投げて来るらしい。メチャクチャなモンスターである。
『何とかメスさえ倒してしまえば、オスは鎧の重さに潰されて勝手に死ぬ。そのシトリーのスピードがあれば、腕をかい潜って鎧の継ぎ目を攻撃出来るだろう? 』
「まあ、それは出来る。…………出来るんだけど、もっと簡単に倒せるな、ソイツ」
シトリーの能力は、何もスピードだけでは無いのだ。