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第十七話 早朝の客

「なんですか、これ? 」


  俺達が提出した薬草の束を見て、キータはそんな疑問の声を上げた。俺の隣にいるメテオラはそんなキータを不思議そうに見ている。


「薬草ですけど…………」

「そんな事は解っているんですよ。私が聞きたいのは、何で薬草採取の初心者だったお二人の、採取した薬草の処理が完璧なのかって事ですよ! 」


  まあ、言われるよね。でもしょうがないのだ。何せあの授業とテスト(合格点が95点の鬼仕様。取れるまで追試)の後、当然の如く『ブエル』の鍵を使ってみたのだが、その結果、ブエル先生が俺の左肩に張り付く結果になったのだ。


  そんな状況なので、そりゃあ薬草の採取も完璧になりますよ。下処理も完璧ですよ。だってもう俺、ポーション作れるもの。そんだけの知識があるもの。


  ちなみにブエル先生は戦闘でも有能だった。近くに自生している薬草やらキノコやら虫やらを勝手に採取して組み合わせ、麻痺毒を作ってモンスターを麻痺させたり、不意打ちしてきた奴なんかは、俺の背中から急に生えてきたヤギの足が蹴り飛ばしていた。


「…………新鮮さから考えて買ってきた物ではないですね。何があったんですか? 」

「……………………森で偶然会った薬学の先生が、とてつもなく厳しい人だったんです」

「……………………ま、まあいいでしょう。こちらは報酬になります。お疲れ様でした」


  俺の疲れきった精神状態に気づいたのか、キータは少々引きつった笑顔で報酬を渡してくれた。


「楽しかったですね。また薬草採取受けて、ブエル先生に色々教えて貰いましょうね! 」


  初めての授業は、学校に行った事が無いであろうメテオラに、新しい楽しみを教えたらしい。…………でも、俺はもう嫌だなぁ。


  と、思っていたのだが、…………次の日の早朝。


「ぜ、ぜひともフジスミ草の採取をお願いします! 」


  …………寝起きの俺達に、指名依頼が飛び込んだ。


  朝早く、どころか日の出の前に俺達を訪ねて来たのは、キリタンと言う名前の青年であり、薬師ギルドで修業中なのだと言う。


  一階の様子が騒がしくて起こされた俺達は、その騒ぎの中に俺達の名前が出てきたのが気になって顔を出した。すると、回りの様子から俺達に気づいた青年は女将さんを振りきって俺達の前で土下座をしたのだ。


  何事かと思ったよ、本当に。


  しょうがないので話を聞いてみると、冒険者ギルドに薬草採取の依頼を出したのは薬師ギルドで、俺達の採取した薬草は、昨日の内に薬師ギルドへと届けられたらしい。


  何故そんなに急いで届けたのか、それはフジスミ草という薬草が関係していた。


  フジスミ草は紫色の小さな花をいくつも鈴なりにつける薬草で、珍しい物ではない。そして、その薬効もとても高い良い薬草なのだが、その処理は時間との勝負なのだと言う。


「フジスミ草の薬効は時間の経過と共にどんどん失われていきます。薬にするには採取してから一日が限度、それを過ぎると薬効は無くなってしまうのです」


  うん、確かにブエル先生もそう言っていた。フジスミ草は、今回採取した薬草の中で、一番手間が掛かった薬草である。


「しかし、お二人の採取したフジスミ草は、信じられない程に薬効が高く、一晩たった今でも、薬効が衰えていないのです! どうか、もう一度依頼を受けて下さい! そして、その時は俺も連れて行って下さい! 」

「あーー、なるほど。そういう事でしたか」


  つまり、俺達の採取方法を勉強したい訳だ。…………勉強か、みんな勉強好きだなぁ。


「まあ、教えるのは構いませんけど、後日に…………」

「で、ではすぐにお願いします!! 」


  …………グイグイくるな、この人。


  俺がイラッとしたのが分かったのか、それまで黙って見ていたメテオラが俺達の間に割って入った。


「どうしてそんなに焦っているんですか? 僕達は結構な量を取って来たと思うんですけど。それに、そんなに急いでいるのなら、冒険者ギルドの依頼をもっと増やせば…………」

「…………それでは駄目なのです。お二人のフジスミ草と他の方のフジスミ草は明確に違うのです。実は、他の方のフジスミ草だと、その薬効で作れるポーションは、一株で三本です。ところが、お二人のフジスミ草ですとポーションどころか、ハイポーションが二十本作れるのです。ハイポーションは十倍に薄めるとポーションになるので、ポーション二百本分が一株から取れるのです」


  …………そんなに違うのか。流石は薬効の悪魔ブエルだ。その名前は伊達じゃ無い。


「今、この一帯の領地では、戦争の準備が進んでいます。その為、薬師ギルドには領主様から『ポーション十万本、もしくはハイポーション一万本を一月以内に納めるように』という無茶な命令が下ったのです」

「戦争!? 戦争が起きるのか!? 」

「…………ご存知ありませんか? 西の砦の幾つかを『魔王』を名乗る者とモンスターに占拠され、それを取り返す為に攻め込むという話です」

「…………『魔王』!! 」


  もう現れた! てっきり、魔王もこの世界に来たばかりだろうから、出てくるまでにもっと時間があると思っていた。


「ええ。魔王の相手は勇者様がするのですが、モンスターも倒す必要があると言われ、我々は兵士が使うポーションを作るのです」


  ……………………『勇者』?

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