第百七十二話 悪魔の沙汰も金しだい
「来い! 『アモン』!! 」
時間が止まり、割れる空間。その先に広がる悪魔『アモン』の世界は、一言で言えば金と銀の世界だった。
「うっわ! マジかよ。凄ぇ」
「…………豪華すぎませんか? 」
「『ゴージャス』ってヤツだ『ゴージャス』!! 」
床も壁も天井も。金や銀で装飾されて無い所が無い。人間界でどれだけ金持ちがいても、ここまで突き抜ける事は無いだろう。そう思われた。
ここはエントランスホールの様だが、何もかもが豪華に過ぎる。あのシャンデリア、宝石で出来てるだろ? 様々な色が混ざりあって虹色に輝いている。
床もなんだこれ? 金色だけど金ではない? これにも金と銀で彫刻がなされている。 …………ヤバイなこれは、思った以上に欲の塊だ。
『ハッハッハッ! 我輩の城へようこそ。人間の客人は久し振りだな。そして、そこの彼か彼女かは『龍種』かな? 我輩の知らぬ龍種がまだいたとは驚きだ! 』
現れたのはきらびやかな衣装に身を包んだ偉丈夫と、その一歩後ろに控える若き執事だった。二人とも目眩がする程のオーラを放っている。戦ったら一撃どころか風圧で死にそうだ。それほどの力の差を感じた。
「…………隼人さん」
「ああ、あれが『アモン』だな。って言うか、後ろの奴も相当ヤバイぞ……! 」
「…………あの後の人は『龍』です。僕と同じ波動を感じます」
「…………マジかよ」
『んー? 構える必要はないぞ。君達は我輩との契約に訪れたのだろう? ならば客人だ。契約が完了すれば友となる者だ! 』
構えるなっても、無理だろ。気を張っていないと気絶しそうだ。俺はさっきから耳鳴りが鳴りっぱなしなのだ。しかも、そんな俺の状態が影響したのか、『変身』もいつの間にか解けてしまっていた。
「…………はじめまして、私は本郷隼人と言います。こちらはメテオラです」
『これは御丁寧に。だが、もっと楽にして良いぞ? 我輩は気にせぬ。…………おお、そうだ自己紹介をせねばな。知っているだろうが我輩が『アモン』である。こやつは我が配下の『ヨルガド』だ』
『執事長の『ヨルガド』でございます』
アモンに紹介された若い執事が一礼した。この若い人が執事長なのかと思ったが、年齢なんか解らないとすぐに気付いた。確実に何千年何万年と生きてるからな。
『さて、では契約だが、我輩の値段を知っているかな? 』
「いえ、教えて貰えますか? 」
『うむ。素直は美徳だな。契約だけなら君達のいた世界の基準では白金貨百枚だ。ただしこれは契約だけだがな』
…………契約するだけで白金貨百枚か。日本円にしたら約一億円だ。
『そして我輩を呼び出したら白金貨一枚。その後はワンアクション毎に小金貨を一枚頂く』
鍵を使って呼び出すのに百万円。その後は動く度に一万円か。解ってはいたがキツイな。持ってる金でギリギリだ。
だが、強いのだ。たとえ何が相手でも勝てるであろう程に強いのだ。この『アモン』という悪魔は。
『そうそう。我輩を使うにあたって欠かせないアイテムがあるのだが、お買い上げならば白金貨十枚で…………』
「あ、大丈夫です。持ってます」
『…………何? 持ってるだと? 』
テレビの『変身ライダー・ソロモン』の中で『アモン』に金を渡す方法は、悪魔を型どった特別なアイテムに金を入れる事だった。その名も『アモンバンク』だ。
そしてそのアイテムは後に、キャラグッズの貯金箱として販売されたのだ。ならば俺が持っていない訳が無い。
俺がその貯金箱をイメージすると、やはりというか貯金箱は『本物』となって出て来た。
『ほう? …………ちょっと貸して貰って良いかね? 』
「どうぞ」
俺が『アモンバンク』を渡すと、アモンは色々な角度から調べて頷いた。
『確かにこれは『アモンバンク』だな。しかし、中に何かが大量に入っているな。…………これは貨幣か? 』
「俺の元いた世界で、それは貯金箱だったんです。だから貯金として、中に五百円玉をパンパンに入れてあります」
…………パンパンにする為に、祖父母の家で良くお手伝いをしたものだ。そして、貰った小遣いを全て五百円玉にしては貯金していた。祖父母も、俺の目的が貯金と知っていたから協力してくれたな。懐かしい思い出だ。
『『貯金』であるか。それは素晴らしい事だ。…………フム、気に入ったぞ。ハヤトよ、この五百円玉とやらを我輩にくれ。もちろんタダではないぞ? 』
「…………む」
…………思い入れのある貯金なんだけどな。…………しかし、こっちの世界で日本円が使える訳ではないし、対価があるのなら、そちらの方が良いか。
使わないままにしておくよりは、使った方がな。いざという時の為の貯金だし、祖父母も許してくれるだろう。
よし、あげよう。