第十四話 始めての解体
「……………………しかし、でかい猪だな」
「…………どうしましょう、コレ? 」
メテオラの質問に、俺は首を傾げた。漫画なんかではこういう場合は解体するのだが、当然そんな経験は無い訳だ。取り敢えずやってみようにもハードルが高すぎる。
俺の住んでいたのは田舎だが、狩りをしてそれを食べる何て事はしない。肉はスーパーで買うものだ。
どうしたものかと考えていると、先程逃げていった冒険者達が
戻って来た。
「凄いな君達『グレイトボア』を倒したのか」
「ありがとうございました。助かりました」
「…………もう、駄目かと思ってた」
駆け寄って来たのは三人で、いかにも剣士な男と、杖を持った魔法使いな女性、それと軽装で武器を持っていない男という組み合わせだった。パーティーってヤツだろう。
「し、しかし、何か凄い格好だな? 異国の鎧か? 」
「その、凄い速さで動いていたのも、何ですかそれ? 」
「おっと、変身したままだったな」
変身を解除し、エンジンを切ってあったバイクから鍵を抜くと、バイクも鍵も両方消えた。
「…………ええっ!? 消えた!? 鎧もさっきのも、何で消えるんだ!? 」
「…………両方とも、魔道具なので」
大騒ぎする三人を、あれは魔道具。と言って落ち着かせようと試みたが、三人とも落ち着きはしたが納得はしてくれなかった。
「ま、魔道具? ええっ? 魔道具ってそんなんだっけ? 」
「魔道具って、『グレイトボア』を倒せるくらい凄い物だったかな? 」
「…………俺は知らない」
まあ、この三人は放っておいて、今はこの『グレイトボア』とか呼ばれた猪だ。やっぱりこれってギルドに持って行った方が良いんだろうか?
「な、なあ。それ、血抜きしないのか? 」
「血抜き…………ですか? 」
そうか、そういや漫画とかでも血抜きは大事だと書いてあった気がするな。
「どうやるんですか? 血抜きって」
「ち、血抜きを知らないのか? 冒険者だろ、君達は」
「あー、まだ俺達は新人なので、コレどうしようかって話してた所なんですよ」
「し、新人なのにグレイトボアを? 凄いな君達…………」
「…………なら、助けて貰った礼に、俺達で解体してやろう」
「おおっ! 是非お願いします! 」
マジックバッグに最初から入っていた物や、ツーガの店で購入していた物のおかげで道具だけは揃っていたので、俺とメテオラも一緒にやる事にした。
…………と言っても、木の下に穴を掘るだけだが。初心者の俺達が最初から出来る作業なんて、そう無いのだ。
俺達が掘った穴の上になるように、三人が木の太い枝にロープをかけて猪を吊るし始めた。
そんなデカイの上がらないだろう。と思っていたのだが、魔法使いの女性が仲間と吊るす木に魔法をかけると、見事に猪が持ち上がった。…………何の魔法だろう? 身体強化とかだろうか?
ちなみに、この三人。剣士の男がリーダーのサルバ、もう一人の男が狩人のシーガン、魔法使いの女性がミナという名前だった。
「いいか、まずは血抜きだ。こうして吊るしたら首を切って血抜きする。これは出来るだけ早くやった方が良い。その方が肉が旨いからな。で、内臓を抜く。傷つけない様に気をつけろ」
「…………血の匂いは他のモンスターを呼ぶ事があるから気をつけろ。モンスターの中には内臓の方が高く売れるヤツもいるが、その場合は鮮度が命だ。腐らせずに持ち帰れる道具が無ければ諦めて埋めろ。今回もそうする」
血の溜まった穴に内臓が落とされた。その後は猪を木から下ろして、皮を剥いだり骨を外して枝肉にしたりといった作業がある。
その間、俺達は穴を埋めていた。
「グレイトボアの場合、討伐証明は牙だ。このデカイのを持って行け、素材にもなるから結構金になる。それと、どのモンスターでもそうだが心臓付近には必ず魔石があるから回収しておけ」
「…………はい」
「はい! 」
メテオラは元気いっぱいだが、俺は初めて見る解体にもう限界である。スプラッタに耐性など無いのだ。
それからしばらくして、猪の解体は終わった。メテオラはサルバ達に解体の事を詳しく聞いているが、俺は少し離れた木陰でグッタリしていた。
「さてと、それじゃあ俺達は行くぞ。助けてくれてありがとうな! 」
「…………肉は自分達で食べてもいいし、売ってもいい。グレイトボアなら、ギルドよりも肉屋に持ち込んだ方が高く売れる」
「ごめんね、解体くらいしかお返し出来なくて。助けてくれた事は忘れないからね」
「いえ、こちらこそ色々教えてくれて、ありがとうございました」
サルバ達がいなくなった後、メテオラは毛皮や肉をマジックバッグに回収して、俺の隣に座った。
「…………俺、解体出来る気しないんだけど」
「大丈夫ですよ。サルバさん達は解体作業は慣れだと言ってましたから」
「…………そうか。……………………慣れかぁ」
俺達は、今日はもう帰る事にした。俺がもう限界なのだ。今日はもう、ギルドにも行かずに帰ってしまおう。
宿に帰った俺達は、旦那さんにグレイトボアの肉を渡した。
「き、今日はグレイトボアを狩って来たのか? 君達は、どうなっているんだ。 ま、また貴重な食材を…………」
旦那さんが何か言っていたが、俺の耳には入らなかった。とにかく休もうとベッドに向かった。
その日の夕食は、グレイトボアのステーキだった。折角なので頑張って食べたが、まだショックを引きずっていたので味がよく分からなかった。
……………………慣れかぁ。