第十三話 魔獣の鍵
街から森へ向かう途中の広野。
今回受けた依頼は薬草の採取だが、別に急ぐ事でも無い。薬草の知識は貰ったし、見つけやすい場所も聞いた。そして、そこに出るモンスターの話もだ。
なにより、この依頼の期限は明後日だ。まだ二日あるのだ。
なので薬草を探す前に、新しい鍵を使える様にしておこうと思う。何せケルベロスの時はいきなり戦うはめになってしまった。
「……………………」
「なんですか? 僕の顔をじっと見て」
「…………何でもない」
あの時、あの『ケルベロス』との戦いは俺にとって痛恨だった。俺の覚悟の無さと、俺の弱さのせいで、相棒だと言ったメテオラに身代わりの様な事をさせてしまった。
メテオラは気にしていないかも知れないが、あの戦いが終わった時に、「怖かった」と涙目で言ったメテオラを俺は忘れられない。あんなのは、二度と御免だ。
「…………『変身』! 」
『ゲーートセーーット!! 』
ソロモン・フォーム。まずはこの状態のステータスを見てみる。と、何となく予想していたが、オール『F』だ。全体的に一段階アップだ。
「さて、本題だな。『魔獣キー』を使うぞ」
「本当に戦闘にはならないんですか? 」
「『変身ライダー・ソロモン』でなって無かったからな。大丈夫なはずだ」
メテオラにそう答えて、俺は正面に手を広げてから呼び出したい魔獣の名前を呼んだ。
「来い『オルトロス』」
すると、俺が突き出した手の前で光が弾け、そこに一本の鍵が浮いていた。持ち手の部分は三角形で、そこに頭が二つある犬の姿が彫られている。
「…………本当に戦闘にはならないんですね」
「そう言ったろ」
まあ、俺も戦いになった時の為に『変身』しといたんだけどな。
「はい。所でその鍵は、『変身』する鍵とは違うんですか? 」
「ああ、コイツはな『変身ライダー』には欠かせないアレの鍵だ」
『オルトロス』の鍵を持ってニヤリと笑う俺の前、その空中に、突然鍵穴が現れた。俺は、その鍵穴に魔獣キーを差し込んで90度回した。すると鍵と鍵穴は消えて、代わりに大きな扉が出現し、その扉が開き、そこから一台の大型バイクが飛び出した。
「おおーー! 」
「うわぁ! バイクだ! 」
紫を地色に、金と銀が入ったその姿は俺がテレビで良く見ていたド派手な姿だ。バイクのハンドルの部分には金色と銀色の犬の頭がそれぞれ付いている。うん、カッコイイ。
「でっかいですねー。隼人さん乗れるんですか? 」
「多分な。一応、いつか免許取ろうと思って友達と予習はしてあるんだよ。…………乗ってみるか」
「…………僕は乗るとしたら後ろですか? 」
「いや? コイツには、こんな機能もある。…………確かこれだな」
俺は目の前にあるソロモンのバイク、その名も『オルトストライカー』の計器の下にあるかタッチパネルを操作した。すると、オルトロスの頭が移動し、ハンドルの真ん中に金の頭が配置され、銀はバイクの横まで移動し、そこにサイドカーが現れた。
「わあっ! カッコイイ! 何ですかこれ!? 」
「サイドカーって言うんだよ。メテオラの席はそこな」
俺がそう言うと、メテオラは早速とばかりに乗り込んだ。
「早く! 早く走らせましょう!! 」
「分かったから落ち着け」
そうは言っても、俺もかなりワクワクだ。
んー。初めて乗るバイクが『オルトストライカー』だとは想像もしてなかった。おおっ! 重量感。すげぇ!
『オルトストライカー』には、さっき消えた『オルトロス』の鍵が差してあったので、それを回してエンジンをかけた。
さて、まずはギアを入れないとな。えっとクラッチレバー、チェンジペダル、そしてアクセル。おお、動いた!
「動いた! 動きましたよ! 」
「よしよし! いける! 運転できるぞ!! 」
徐々にギアを上げて、俺達は広野を走り回った。
「速いです! 凄いですね、馬車とは全然違う! 」
「そうだろう、そうだろう! 」
メテオラもはしゃいでいるが、俺だって凄く楽しい! 俺達は普通に走ったり丘を登ったり下がったり、止まってみたりぐるぐる回ってみたりと思うさまバイクを楽しんだ。
そして、結構な時間が過ぎた頃。
「あれ? …………隼人さん! あそこ! 」
「ん? …………冒険者か? 何かこっちに…………追われてる? 」
「猪です! でかい猪が後ろにいます! 」
「!! 助けるぞ! 」
「はい!! 」
俺はバイクの向きを変えて、冒険者達に向かって走り出した。
「あの猪、本当にでっかいですよ!? どうするんですか!? 」
「任せとけ! オルトロス! 運転頼むぞ! 」
『ガウッ!! 』
俺は『オルトストライカー』自体に運転を任せて体を起こした。今、流行りの『自動運転』だ!
そして『デビルキー・ブレード』を出して、その持ち手の近くの、刃の反対側の一部をリボルバーの弾倉の様に引き上げる。すると、そこには鍵穴が現れた。
「『ケルベロス』! 」
俺は『ケルベロス』の鍵を呼び出し、剣の鍵穴に差し込んで90度回し、収納した。
『デビルズチャーージ!! 』
その声と共に、剣に貫かれる様な形で、三つの炎の輪が現れた!
「皆さん! そのまま走って下さい! 」
「す、すまねぇ!! 」
メテオラが冒険者達に声をかけて、俺達はその横を抜けた。そして、目の前に迫るのは、バイクに乗った俺達よりもでかい猪だ!
「喰らえ! せいやああぁぁーーーー!! 」
気合いと共に剣を振り抜くと、三つの炎で出来た犬の頭が飛び出して、大猪の首や腹に牙を突き立てた!!
「ブギイイィィーーーー!!?? 」
断末魔の叫びと共に、大猪は俺達の横を転がり抜けて、…………倒れたまま、動かなくなった。