第百三十三話 失敗作
雪! 私の今の敵は雪です!
通勤に時間かかるわ雪かきに時間かかるわ!
太陽が恋しい!
『へぇ、じゃあ他にも種類があるんだな? このロボット』
「ああ。確認されているのは巨大なヤツとこの絵のヤツだな。このアメンボ型は初めてのヤツだ」
トルホク王から貰ったロボットの絵を差し出すと、ヴァプラはカメラを伸ばしてその絵をマジマジと見た。
『ふーん。これも欲しいな。取りに行こう』
「城塞都市バシダの近郊で見たらしいからな、取りに行ったら異世界人に発見されるだろうが。こんなロボット造るヤツだぞ? 」
『大丈夫じゃないか? コレ失敗作だし』
「失敗作? 」
ヴァプラがアームで叩いたアメンボ・ロボットを見てみるが、何を指して失敗作なのか俺には解らなかった。
『コレな、本当は空飛んでるハズなんだよ。この四つ足の部分にプロペラがついて、空から監視と攻撃を行うタイプのロボットだ』
「…………攻撃用の『ドローン』って事か」
『ところがだ、その飛行装置が滅茶苦茶だ。位置もバランスもプログラムも悪い。これじゃあ飛んだとしてすぐ落ちる。だからコイツは地上にいたし、体の下についてる銃も下向いてるもんだから、攻撃も出来なかった訳だ』
「欠陥品じゃないか」
『その通りだ。形だけ知っていてろくな知識がない。そのくせ滅茶苦茶でも完成させる力がある。ついでに言えば、このロボットは生物を殺す気満々で造られている』
「…………『魔王』確定か」
『確定とまではどうだろう? 狂った『勇者』かも知れない』
「敵である事は変わらないな、ならこっちとしては『エンブレム』を持つ魔王の方がありがたいな」
ともかく、敵で決まったなら情報収集は必要だな。もっとロボットを手に入れるべきかな。
『そう言えば『ビフロンス』から聞いたんだけど、ハヤトは敵や仲間を連れてコチラに来る事が出来るんだって? 』
…………『ヴァプラ』と『ビフロンス』に繋がりがあるのか。一度悪魔達の交遊関係を聞いてみたい気がするな。
「まぁ、そういうアイテムはあるな」
『なら、動いているロボットをコチラに持ち込む事も出来るんじゃないか? 』
「…………出来るけど、それはどうしてもか? 」
『ん? 何か問題があるのか? 』
「…………うん。実は『デビルキー・ワンド』には回数制限があるんだよ。…………まぁといっても、魔力で回復するみたいなんだが、いかんせん俺の魔力が少な過ぎる」
俺の魔力は、ドライアドから貰った『魔力の種』を食べてから少しずつ増えているのだが、本当に少しずつなのだ。魔法はまだ使った事がないが、おそらく使ったとして一日一発が限界だろう。それも、初歩的なヤツで一発だ。
なので、『デビルキー・ワンド』の方も中々回復しない。魔力残量が体感で解るのだが、減り具合から考えてマックスから三回で空になる感じだ。
今のところ二回使ったから後一回なら使えるのだが、『デビルキー・ワンド』は切り札になり得る。使わなくて済むなら使いたく無いのだ。少なくとも、後一回分くらい魔力が溜まるまでは。
「逆にこっちから聞くけど、時間が止まっている中に持ち込む事は出来ないか? マジックバッグに入れとけばいけるだろ? 」
『まあ、ハヤトが鍵を持って念じれば呼べるけどな。時間が止まっていると分解とかしても結果が残らないんだよ。例えば時間が止まっている中でどれだけモンスターと戦っても、レベルは上がらない。戦闘経験は積めるけど経験値にはならないって言うか…………』
それは俺も解っている。ケルベロスと戦った時から知っている事実だ。『デビルキー・ワンド』なら時間は止まらないからな、『エルドオーガ』と戦った後はかなりレベルが上がっていた。
しかし、やはり時間が止まった中でロボットを調べるのは不可能な様だ。
「悪いけど、『シルキー』に頼んでもうちょい機材の揃った部屋を造って貰うから、それで我慢してくれ」
『ま、しょうがないか。ただサンプル集めは頼んだぞ? 』
「ああ。わかってる。サンプルが集まったらまた呼ぶよ。そうそう、サンプルって、壊れてても大丈夫だよな? 」
『…………手を抜いて死んだら意味無いからな、しょうがない。気にせずやってくれ』
「わかった」
◇
俺は変身を解いて『シルキー』に皆を集めるように頼んで食堂へと移動した。そして皆が集まるのを待ってから、ドライアドを呼び出した。出てきたドライアドは、何やら難しい顔をしている。
「それで、森の様子はどうだった? ドライアド」
『はい。まず、これを見て下さい。気づかれない様に一匹だけ捕まえて来ました』
ドライアドが差し出した手の中には、小さな虫が乗っていた。妙に光沢のある虫だ。
一瞬、日本の田舎ではお馴染みのカメムシかと思い身構えたが、あの独特な嫌な匂いがしないので、違うと解った。
「何だこの虫? 」
「…………ちょっと隼人! これ、機械で出来てるわ! 」
「何!? 」
ドライアドから虫を受け取って良く見てみると、確かに機械で出来ていると解った。虫型ロボットだ。それも、えらく精巧な。
「いやちょっと待ってくれ。あのアメンボ型ロボットも虫型だけど、ヴァプラはアレを失敗作だと言ったんだぞ? これはどう見ても失敗作じゃないだろ? これを同じ奴が造ったってのか? 」
『それは解りませんが、森にはこの様な虫が多数いました。それも、数種類です』
「植物系モンスターを森から追い出したのは、この虫型ロボットって事ですか? 」
『おそらくは。それに、この虫の中には、巣を作っている虫もいました』
森を支配する虫型ロボット? どうなっているんだ。