第百三十二話 アメンボ・ロボット
港町を脱出すると、植物モンスター達は追って来なかった。どうやらあの町だけがテリトリーのようだ。
取り敢えず少し離れた場所にゴーレム要塞を出して一休みする。俺達が中に入った途端にゴーレムが警戒モードになった事から、この辺りもモンスターの巣窟ではあるらしい。
「さっきの港町には参ったな。しかしこの国にはあんな廃墟がいっぱいあるんだろ? 国自体が機能していないなら、モンスターも増える一方だろ? 」
「内乱が続いているこの国にはギルドも無いのよね。冒険者が居ないってのもモンスターが増える要因の一つよね」
俺は『ブエル・フォーム』で『エクスポーション』を作りながら比奈と話していた。ブルウッドにいる間に、薬師ギルドから大量に『フジスミ草』を貰ったので、作っておこうと思ったのだ。
それにしても、マクフマ王国ってのは問題が多すぎるな。町として滅びてると言っても港だ。あの港が使えないのは痛すぎるだろうに。
『フム、不思議な話だな』
「何がですか、ブエル先生」
『その港町のモンスターは植物系だったのだろう? 何故植物系のモンスターが塩水の近くにいるのだ? 』
「え? 」
「あっ! 言われてみればそうね! おかしいわ!! 」
「え? …………何が? 」
何がおかしいのか解っていないのは俺だけみたいだ。比奈が呆れ顔をしている。
「解らないの? うーん、じゃあ『塩害』って聞いた事ない? 」
「あっ、ある。塩害…………、そうか! 塩が駄目なのか」
「そう、植物に塩水を与えるとすぐに枯れちゃうのよ。海水なんて、一番ダメじゃないかしら」
『ウム。にも関わらず港町を棲みかにしていた。なぜそこだ? 町に棲むにしても、この国には廃墟が溢れているのだろう? 』
「…………なるほど。確かにおかしい」
あの港町から少し離れた所には森がある。植物系のモンスターなら、元々の棲みかは森なんじゃないだろうか? だとしたら、アイツらは森を追われてあの港町に行った事になる。
ちょうど調合も終わったので、俺は空いているテーブルにマジックバッグから取り出した地図を広げた。これは、トルホク王国の斥候兵から貰った資料の一部だ。
「えっと、トルホク王国のミズモ陛下が言っていたのは…………、これか、城塞都市『バシダ』。ここが、正体不明の巨大ロボットがいるって所だが。…………港町のモンスターとは流石に関係ないか? 」
『フム。そのロボットとやらが居たというだけなら、一概にそうとも言えんだろう。そこだけにいる訳でもないのだろう? 』
確かにブエルの言う通りだ。何が目的なのかは解らないが、その異世界人はロボットを造りまくっている様だしな。先ずはあの植物モンスター達が棲みかにしていたと思われる森の様子を見に行ってみるか。いや、それよりも。
「来い『ドライアド』! 」
『…………呼びましたか? ハヤト』
俺は今の状況をドライアドに説明し、近くの森を調べる様に頼んだ。樹木の精霊であるドライアドなら、俺達よりも遥かに詳しく調べられるだろうからな。
てな訳で、森の方はドライアドに任せて、俺達はこの辺りにいるモンスターを調べる事にした。ゴーレムが警戒している以上、確実にいるからだ。
ちなみに、俺の変身は何が出て来てもいいように『ソロモン・フォーム』に留めている。
「ゴーレム要塞を拠点として、取り敢えず一回りだな。ラルファは空から見てくれるか? で、空飛ぶモンスターに襲われたらゴーレム要塞に逃げる感じで」
『分かりましたわ』
俺達が今いるのは草原だ。普通にモンスターが出て来るなら、スライムだの獣だのだと思っていたのだが。
俺達の前に現れたのは、よく解らないロボットだった。何が解らないのか? それはこの現れたロボットの用途である。
なんと言うか、大きなアメンボみたいな形のヤツが、壊れた玩具の様な歪さでガシャンガシャンと歩いているのだ。…………なんだコレ?
胴体らしき部分は一応ある。そこにはカメラのレンズの様なモノもあるから、何らかの用途はあるハズなのだが。…………例えるなら、ゲームに出て来る雑魚敵だろうか?
「あ! 隼人さん! ヴァプラを呼んでみたらどうですか? 」
「なるほどな、さすがはメテオラだ。来い! 『ヴァプラ』! 」
『ゲーートオーープン! ヴァプラ・ゲーート!! 』
『ソロモン・フォーム』の胸の扉が開き、そこから出て来た『戦闘機』が飛び出し、形を変え俺と合体した。
『呼んだか、ハヤ…………ト……。おぉっ!? 』
アームの先にレンズがあるだけの姿にも関わらず、ヴァプラが眼を見開いたのが解った。ヴァプラの視線は、アメンボ・ロボットに注がれている。
『…………これは見た事の無いロボットだぞぉ? 自立型? いや、単純なプログラムで動いているだけか…………。しかし無駄が無いように見えて無駄だらけだな、何だコレ? 』
「興味持ったか? ヴァプラ。『勇者』なのか『魔王』なのかはまだ解らないが、異世界人の作品だぞ? 」
『なるほど、異世界の…………。良し解った! 俺が解体する! 』
言うが速いか、俺の体から伸びたアームがアメンボ・ロボットにさっとうし、あっと言う間にその機能を停止させる。
『さぁ! 持ち帰ろう! 』
「わかった。メテオラ、手伝ってくれ」
「はい! 」
俺達はそれをマジックバッグに押し込んで、ゴーレム要塞へと戻る事にした。