表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/716

第百十七話 クーデター

  クリング伯爵が、少数の精鋭部隊を連れて出撃するのを見届けた俺達は、仲間達の所に戻り、王都を目指して出発した。


「王都にいる騎士達には、確か師匠の手紙を送ってあるんですよね? 」

「ウム。信頼に足る者のみに送っておいた。こちらの情報が漏れては本末転倒だからの、気を使ったわい」

「ぶっちゃけ、どのくらいが味方になりそうですか? 」

「…………フム。…………皆、王族には嫌気もさしておろうが、騎士じゃからな。三割が味方になり、三割が敵となる。残りの四割は様子見に回るかの」

「七割もの騎士達と戦わずに済むなら十分じゃないですか! イハルさんは人望があるんですね! 」


  メテオラに誉められ、イハルはそっぽを向きながら顎を掻いた。直球で誉められて照れた様だ。


「ま、まあワシの人望と言うよりは王族の嫌われっぷりがのう。正直ワシも、先代に義理立てしておっただけであるしな」


  騎士団長であるイハルですら忠誠心が薄いのか。これは俺達が動かなくても、いずれ国は滅んだのかもな。…………いや、それより先に『魔王』に滅ぼされていたか。


 ◇


  王都の騎士の内、味方になるのは三割。それがイハルの予想だったのだが、それは大きく外れる事となった。


「…………それは本当か? 」

「ハッ! 騎士団に所属するほとんどの騎士が、イハル団長に従うと申しております。伝えられていないのは、王族との関係性が強い家出身の騎士だけであります! 」


  王都近郊の森での、イハルが手紙を送っていた騎士の一人との密会で言われたのがこれである。


  しかも、既に敵対すると思われる騎士達は監禁しており、王城にいるのは味方の騎士のみ。更には次の王にしようと画策しているルインの身柄も確保してあると言う。


「…………勝ったな」

「ええ、勝ったわ」


  俺と比奈の感想は、おそらくその場にいる全員の思いだ。これは勝ちだろう。どう考えてもここから逆転出来るとは思えない。


  そこからはもう早かった。バッバラを先頭に王城へ入り、国王と悪徳貴族を一網打尽にした。


  いやもう楽勝だった。王城という場所もあるのだろうが、貴族を守る役目の騎士達が、武器を持っていなかったのである。かろうじてナイフを取り出す者もいたが、その程度で俺達に勝てるはずもない。


「だ、誰か曲者を斬り捨てよ! 余を助けた者への褒美は思いのままだぞ!! 」


  捕らえられた王は、縛られた上に俺達に囲まれ状態で喚いていた。バッバラにソックリのブルドック顔である。


「よ、余はこの国の王なるぞ! この様な事が許されると思っておるのか!? 誰か、誰か余を助けよ!! 」

「父上! もうやめましょう。これ以上は、ただ見苦しいだけです」

「…………バ、バッバラか!? こ、これは貴様が仕組んだことなのか!? そんなバカな! 王位なら、いずれは……い、いや! 今すぐ譲ってやっても良い! だから余を助けてくれ! 」


  縛られた状態で見苦しくもバッバラにすがる国王の姿に、バッバラはため息をついた。


「私はこの国の王になるつもりはありませんよ。次の王はルインですから」

「な、なに? い、いや! そうか、ルインか! よ、余もルインには見所があると思っておったのだ! 」

「…………そうですか」

「ああ! しかし、ルインはまだ幼い。なれば、後見人が必要であろう! それならば…………」


  …………呆れたもんだ。この期に及んでまだ権力を諦めていないらしい。これ以上は聞いていられないので、俺は空いている部屋で少し休む事にして、その場を離れた。


  あの国王や悪徳貴族達の運命は既に決まっているのだ。『処刑』である。まあ、生かしておいても毒にも薬にもならない奴らだからな。妥当な所だと思う。


「…………ここでいいか」

「じゃあ、お茶淹れますね」


  客室と思われる部屋を見つけ、そこのソファーに腰を下ろすと、比奈とラルファまで部屋に入って来た。メテオラはそれを見て、無言でカップを二組増やした。


「なんだ、お前らも来たのか。いいのか、こんなとこに居て? 比奈は『ロクハドの勇者』なんだろ? 」

「いいのよ、あっちは師匠が居れば十分だし。それに、私はもうこの国を離れるしね? 」

「…………? どっか行くのか? 」

「…………ついて行くって言ってんのよ。隼人とメテオラに。貴方達、『魔王』を探して旅に出るんでしょ? 」


  メテオラが紅茶の入ったカップをテーブルに置いていったので、俺はそれを一口飲んだ。…………美味いな。高級品なんだろうか? 流石は王城だな。


「隼人、聞いてるの? 」

「ああ、聞いてるよ。…………確かに、俺達は旅に出る。でも、良く解ったな? 」

「そりゃあね。…………隼人がバッバラをどうにかしようとしてたのも、私の為なんでしょ? 私がバッバラに狙われていたから」

「…………考え過ぎだな」

「…………そうかしら? …………まあ、考え過ぎだったとしても、言っておくわね。…………ありがとう、隼人」


  クーデターの真っ最中の王城の一室で、俺達はしばらくの間、とても静かな時間を過ごした。


  もうじき、この国ですべき事が終わる。そうしたら、次はどこに行こうか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ