第百九話 激闘!
「ぐああぁぁっ!!?? 」
吹き飛んだ俺にエルドオーガの容赦ない追撃が続く。俺の体は上下左右にピンボールの様に飛ばされていく。
不味い、このまま地面にでも叩きつけられたら『変身』が解けてしまう!
俺は全身から炎を吹き出し、それをトライデントに集めて炎の塊にして振り回した。
『なんだと!? ぬぐっ!? 』
エルドオーガは即席の炎のハンマーに打ち付けられて地面へと落ちる。俺も受け身こそ取れなかったが、大したダメージは負わずにすんだ。
ひとまず、『変身』が解けなかった事に胸をなで下ろす。しかし何だアレは? 薄い刃で出来た円形の武器、確か『円月輪』とか言う武器だ。ゲームの攻略本で見た事がある。
しかも、電撃を纏ってパワーアップしてやがる。…………まあ、一筋縄ではいかないと解ってはいたがな。
地面から起き上がったエルドオーガの四本の腕から、円月輪が分離して宙に浮かぶ。そしてエルドオーガが手を前に振ると、稲妻を放ちながら飛んで来た!
「…………くっ! ケルベロビュート!! 」
俺はトライデントを振り回し、四方八方にケルベロスの爪撃を飛ばす。それによって四つの円月輪を弾き飛ばしたが、エルドオーガは爪撃を喰らいながらも、お構い無しに肉薄して来た。
エルドオーガの放つ拳をなんとか捌くが、こう肉薄されるとトライデントの長さが邪魔になる。エルドオーガを弾き飛ばそうと渾身の力を込めて蹴りを放ったが、エルドオーガはそれを体で受け止め、吐血しながらも四つの拳を同時に打ち込んで来た!
「がはぁっ!? 」
吹き飛ばされる俺の目に、トドメを刺そうと迫る四つの円月輪が見えた。
「うおおぉぉっ!! 」
『ガガゥッ!! 』
俺の雄叫びに反応してか、俺の両足、その太腿と脛と足先にあるケルベロスの頭が、一気に炎を吹き出した。その勢いで俺は円月輪をかわす事が出来た。
だが、かなりのスピードだというのにエルドオーガが追い付いて来る。…………ったく! 強すぎるだろコイツ!!
肉薄されると、さっきの二の舞だ。ある程度の距離を取らねば。俺は迫るエルドオーガに向けて火球を飛ばしながら『ケルベロファング』を放つ。
だが、エルドオーガはそれを避けもしない。火球はまともに喰らい、三体のケルベロスの牙も体に食い込ませてから振り払っている。
強力な自然回復能力に頼りきった戦法だが、この調子で削り合ったら先に磨り潰されるのは俺の方だ。エルドオーガにもそれが解っているのだろう。
俺はトライデントを地面に突き刺し、さらに背中のケルベロス達に炎を吐かせる事で急ブレーキをかける。凄まじい反動に体がちぎれそうになるのを耐えてエルドオーガを見ると、案の定俺を追い越してブレーキをかける為に地面に爪を食い込ませていた。
距離が離れたが、エルドオーガはすぐに突っ込んで来るだろう。そこに、カウンターを撃ち込んでやる!
俺はトライデントから手を離し、両手を伸ばして指を組み合わせた。その瞬間、両肩の一際大きなケルベロスの頭が拳に移動し、組み合わされて砲台の様に変化した。
そして俺の全身から吹き出した炎がその砲台に集まり、背中のケルベロスの頭が、これから来るであろう衝撃に備える為に地面に突き刺さった。
「…………ぬうぅぅぅっ!! 喰らいやがれ!! 『ケルベロス・ロア』!!」
渦巻く炎が、その衝撃波で地面を抉りながらエルドオーガに突き刺さった!!
『ぐわあぁぁーーーー…………!!??』
炎の渦に呑まれ、その勢いと共に遥か彼方に吹っ飛ばされていくエルドオーガ。『ケルベロス・ロア』が通った道は衝撃波と熱で抉られ、赤く燃えていた。
「ハアッ…………ハアッ…………、やったか…………? 」
『いや、まだだね』
ふと俺の隣に『ビフロンス』が姿を現した。もっとも、俺が見る姿はメテオラのものだったが。
『…………呆れるね、あれほどグチャグチャになっても再生するのか。何が彼をあんなに追い詰めたんだ? 』
「…………アイツの神様が、魔王として送り込んだアイツの元に勇者も送ったんだよ、天使つきでな」
『なるほど。神に捨てられたと言う訳か』
ビフロンスが、憐れだと言いたげに首を左右に振った。
「…………ラルファ……あ、天使なんだけど。ソイツの話しだと捨てた訳じゃ無さそう何だけどな」
『…………こういうのは、受け取る側がそう思ったらそうなのさ。そんなつもりが無いなんて、無責任な言い訳だよ』
「……………………そうか、…………そうかもな」
『…………彼はもう堕ちるとこまで堕ちた。神への敬愛と憎しみの狭間にいるから『悪魔』にも成れない。…………消滅させてあげるのが、一番の優しさかもね』
「……………………」
『…………君にも、一つ干渉するとしよう。終わらせてあげなよ』
『ビフロンス』が再び姿を消し、遠くの方にエルドオーガが起き上がるのが見えた。
そして俺は『必殺技』が使用可能になったのを感じていた。