500mlでは足りない
人生は、捨てられない未練を詰め込んでいくようなものなのだろう。
好きだった女と酒を飲み、青春を捧げた音楽を聴く帰り道、俺は思う。
全部捨ててしまえばいいものなのに、縋り付くわけでもなく、かといって断つ事も出来ずにぽっかりと空いた心の穴を埋めるようにそれらを注ぎ込む。
今夜は少し飲み過ぎた。がらにもなく音楽の話をしてしまったし、あいつにもいつも以上に絡んでしまった気がする。
店に残っていたあいつは、今頃俺のことを卑下しているのだろうか。夢を、恋を捨てきれない俺を。
いっその事割り切れてしまえばまだ格好もつけられるのだろうが、ダサさを気にする自分はいっそう惨めだ。
トラックが終わり、知らない音楽を流れ出す。雑踏の中で耳にした事がある、恐らく流行りの歌なのだろう。
俺がやっていたモノより圧倒的に評価され、お金を産み出している音楽。世間的にみれば俺がやっていたものよりずっと良い曲なのだろう。
確かに、かっこいい。
だが、俺には自身が捧げた青春の方がより響いてしまう。
あいつに関してもそうだ。テレビや雑誌だけではない。SNSを開いてもあいつより可愛く魅力的な女性はいくらでも現れる。
けれど、誰よりも心を掴んでくるのはあいつなのだ……
そんなところまで考えて、頭を振る。
やはり今夜は飲み過ぎた。いくらなんでもくだらない事に頭を悩ませ過ぎだ。
水でも飲もうかと自販機を探す。
お、あった。
灯台のように、夜道を煌々と照らす長方形。
それに向かって道を渡る。
流行りの異世界転生ものなら、この辺りでトラックにでも跳ねられるのだろう。
しかし残念ながら、閑静な夜の住宅街に排気音は響かない。
ぴ。がちゃん。
無機質な音で産み落とされたペットボトルの首を捻り、澄んだ液体を流し込む。
ごくごくと、喉が鳴る。
思っていたより、俺の身体は乾いていたらしい。口を離した容器は、半分近く空になっていた。
それでもまだ、乾きは治らない。むしろ自分の欠乏を自覚した事で、喉まで干からびて来たように感じる。
どうやらこの空虚は、500mlでは足りないみたいだ。




