序章
以前ゆるゆると書いていた作品をそのまま投げるより、取っ付きやすい方が読みやすいかなぁ、なんて思ったのです。
意識がクリアになった時、そこはとても豪奢な屋敷だった。
見るからに調度品は高そうなものだし、私の着ている服は幼い子ども用の服だ。中世ヨーロッパを思い出させるようなそれは、かつての私には縁のなかったものだ。
いわゆる転生、というものなのだと理解するのに時間はかからなかった。なぜって、それはこの世界が、私が前世で好きだった乙女ゲーム「君と恋するセカイ」の世界だったから。
おっと、今の私の説明をしよう。
今の私はユージェニー侯爵家令嬢、リリアンヌ・マリー・ド・ユージェニー。うーん、長い。エストリア帝国の由緒正しき侯爵家の長子。年齢は10歳。2つ下の弟は次期当主として育てられているけれど、私は淑女となるべく育てられている。
今は薔薇園で散策中、といったところ。少し離れた場所にメイド達が控えている。
…………さて、問題はリリアンヌ・マリー・ド・ユージェニーがいわゆる悪役令嬢という立場な事だ。困った。いやどうしろと。どんなルートでも断罪イベントが来るのだし、悪役令嬢として生まれたからにはそれらしく振る舞うまでなんだけど。
だからと言って、ただ断罪されるだけの存在にはなりたくない。君恋をプレイして、真っ先にクリアした学園の貴公子ライネル様ルートではやり過ぎなくらいだと思ったもの。リリアンヌという令嬢は、ただ悋気に駆られてしまっただけ。だって婚約者を見ず知らずの──もっと言えばぽっと出の───男爵令嬢に奪われる、なんて嫌に決まってる。侯爵家令嬢の誇りが許す筈がない。それが好いた相手であるのなら尚更だわ。
薔薇の香りを胸いっぱいに吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
断罪イベントが来るまでに、私は私にできる精一杯の事をしよう。私にはそれしか出来ないけれど、言い換えれば私には断罪イベントまでかなりの猶予があるのだから。