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7 現場百回


 ハイハイ、見た目は悪役令嬢、頭脳はアラサーのルイーゼです。

これから、悪役令嬢ルイーぜ様殺人未遂事件を捜査しちゃうわよ? 


ってことで、助手のエディお兄様をつれて現場検証にやってきました。

正確には松葉杖でひょこひょこやってたら、「僕にまかせて~」とお兄様にお姫様だっこで運ばれてきました。

皆さん、知ってます? どうやら古代エジプトから松葉杖あるようですw

中世ヨーロッパぽいここにもありました。よかった。よかった。



「いつ見ても、ここのステンドグラスは美事だね」

「ええ、我が家の自慢ですの」


 私が落ちた階段ステアケースの上にはステンドグラスの天窓がある。

この天窓は侯爵家の青い薔薇のステンドグラスと言われ、我が家の見所のひとつだ。

うちの紋章が青い薔薇だから、このモチーフにしたらしい。


 彩色されたたくさんのガラスでつくられた花びらが、薔薇を表している。

着色に使われた金属酸化物が不純物を含んでおり、ガラスの表面が平面ではないことから、複雑で微妙な色彩をかもし出している。まるで万華鏡のようだ。



 侯爵家の邸は歴史ある建物で、いろいろなわくがある。

実際、遊戯室の柱の傷は恋人を巡って恋敵ライバルと争ったひいお祖父様がつけたと言われている。

柱の傷よりその後、恋が成就したかが気になるが、その後が伝えられてないところをみると、ひいお祖父様は振られたのだろう。

すぐに刃傷沙汰に至る血の気の多い男は振られてもしょうが無いのだ。


 大広間の鏡は美しさで有名だった五代目侯爵夫人のためにつけたもので、今でも夜になると美しい侯爵夫人が鏡に写ると言われている。

そうそう、幼い頃、この噂が本当か泊まりにきたエディお兄様にねだって夜中に探索することにしたことがあったっけ。

夜中になってエディお兄様がこっそり私の部屋に迎えに来たときには、幼い私はすっかり寝入ってしまい、開かないドアの前でしくしく泣くお兄様の姿があったとか、なかったとか……

もちろん、そのあと使用人の間で小さい子供の幽霊が出るという噂が広がったのは言うまでもない。


 ここもきっと、三世代くらいたつと大叔母様のルイーゼ様が落ちた階段とか言われちゃうんだ。

うっかりすると、夜中にルイーゼ様が背中を押すなどと、学校の怪談化する恐れもある。



「ルー、落ちた階段を見て何かわかるのかい?」

「まあエディお兄様ったら、『現場百回』ですわ」

「なんだいソレは?」

「新人官憲が、ベテラン官憲から訓示を受けるアレですわ。事件現場にこそ解決への糸口が隠されているのです。百回訪ねてでも慎重に調査すべきということですの。

新人はベテランの言うことに反発しつつも、現場で事件の謎を解く決定的な証拠を見つけ、犯人しか知り得ない事実を発見し手柄を上げるのですわ。あらためてヤマさんの言う『現場百回』の重要性を身をもって知ることになる。ドラマですわねぇ」


「ルー、君の言うことがよく分からないんだけど、ヤマさんってだれだい?」

「もう、男が細かいこと気にするとモテませんわよ」



 伝統ある侯爵家、階段から落ちた日から2日もたち、メイドにキッチリ掃除され遺留品も手がかりも何もなかったのである。



――うん。そんな気がしてた。






**



その後、応接間に使用人を一人ずつ呼び出し、私が落ちたときの状況を聞いた。

使用人達はワガママルイーゼ様の呼び出しに緊張しつつやってきた。

質問が終わり、「ありがとう」とお礼を言うと皆、面白いくらいに動揺した。

冷静沈着な執事のセバスでさえ、「ありがとう」というとピクリと肩が動いた。


お礼を言ったくらいで怯えられるとは……


「使用人20人中、怯えるもの8人、引くもの7人、震えたもの4人、肩が動くもの1人だったねえ……」

ワトソン君ことエディ兄様がよく分からない分析をしていた。


状況を聞いた結果をまとめると、私が落ちたのを見た使用人はいなかった。怪しい人も見ていない。

落ちた音を聞いて最初に駆けつけたのはアランだったそうだ。

夜会を体調が優れないと席を外した私を心配して様子を見に来ていたところだったという。




――前世のサスペンスドラマで得た知識によると、第一発見者はかなりの確率で怪しい。









**



 ちなみにその日の夜、ばあやと執事のセバスは、『お嬢様の長かった反抗期が終わった』と、祝杯を上げたという。




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