4 今後の方針決定!
そんなことしてる場合では無い、まずは赤ちゃんが無事か確かめねば!
――って、おい! 私ぜったい妊娠してないわ! アレって単に胃の不調、夏バテだわ。
だって私、アラン様と結婚したけどキス以上のことしてないもの。
ああ箱入りお嬢様だったルイーゼ様、キスしたら妊娠すると思ってたよ……
ちゃんと誰か教育しといてよっ……
うわぁ~、エディお兄様に妊娠したって言っちゃったわ。恥ずかしい。
でも、よかった。アランやお父様に言ってなくって。
――っていうことは、私、結婚したのに夫に指一本触れられてない!!
うわぁあ、ルイーぜ様、アランにやっぱり愛されてないわー、ないわー、ないわー。
夜会で聞いた噂では、アランには好きな人がいるらしい。
あの方には婚約していた幼馴染みがいて、なんらかの事情があり(もしくは私のせいで)二人は別れたけれど、あの方はまだ思い続けているらしい。
おもしろおかしく語られたそれがどこまで本当のことかはわからない。
だけど、私に指一本触れてないところを見ると、ある程度真実なのだろう……
ふうと、ため息をつく。
愛されてなかったかあ……。ルイーゼは本当にアランのことが大好きだった。
そして愛されてると思ってた。
涙がポタポタ落ちる。
胸がキリキリ痛い。
ひとしきり泣いたら、気持ちが落ち着いた。
泣いていてもしょうが無い。前を向こう。いっぱい頑張ってみてダメだったら、その時に泣こう。
いろんな経験をしたアラサーの記憶が有って良かった。
これから、どうしようか?
まず、いま解決しないといけない問題点は主に三つ。
一つ目は、私を突き落とした犯人捜し。
これは、今までの極悪所行で容疑者多数なんだよね。うう……
いじめた使用人や無理矢理結婚したアラン、権力を笠に着て威張り倒してたから他にもルイーゼを突き落としたい人はたくさん居そう……
ひとまず、私が誰かに押されて階段を落ちたと言うことは隠しておこう。
犯人を油断させるということもあるが、もしアランや使用人が犯人なら、階段から落とされてもしょうがないといえることを私はしてきた。
それに、もし使用人が犯人なら、平民が貴族に怪我をさせたということで死罪もあり得る。
さすがに、ねんざで死罪は良心が痛む。できれば穏便に済ませたい。
二つ目は、アランの状況把握。
好きな人がいるのに無理矢理ムコにしちゃってたのなら、解放してあげたい。
私の中のルイーゼの恋心は胸を痛めてるけど、前世の記憶があるニュー私は無理強いはいけないと思う。
権力を笠に着て結婚を迫るなんて、パワハラ&セクハラだわ。
やっぱ、結婚は両性の合意がないとね。
まあ、本人が良いというなら、喜んで一緒に暮らしちゃうけど!
三つ目は、ワガママ奥様としての不評っぷりから汚名返上すること。
今までやったことを考えると穴があったら入ってその上に土をかけて欲しいくらい恥ずかしい。
せっかく前世の記憶が甦って、今の自分がダメダメなことがよ~く分かったから、これからちゃんと生きてみたい。
意地悪した人、迷惑掛けた人に謝りたい。
――リベンジ、ルイーゼ様だ!
~ 結婚前のある日の侯爵家の風景 ~
「お嬢様つかぬ事をお聞きしますが、どうやって子供が出来るかご存知ですか?」
「もう、ばあやったら私をいくつだと思ってるの? とうに知ってるわよ」
「つい先日まで、『コウノトリって赤ん坊抱えてよく飛べるわよね?』っておっしゃってましたよね? 本当にご存知ですか?」
「確かに、小さい頃は結婚したらコウノトリが運んでくると思ってたけど。
ほら、馬番のジェムと下働きのミラに、結婚前に子供が出来たじゃない? あれで分かったのよ。私ね、馬小屋でジェムとミラがやってるところを見たの!」
「まあ! なんて破廉恥な!」
「ねえ、びっくりしたわ。舌であそこを舐めていたのよ」
馬小屋でジェムとミラは熱烈なキスを交わしていたのだ。舌で相手の唇を舐めていたのが何とも艶めかしかった。
ばあやは顔を真っ赤にすると耳を覆った。
「それ以上、おっしゃらないでくださいませ!!」
こうしてルイーゼはキスをすると妊娠するという誤った知識のまま結婚することになった。