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25 嘘(うそ)


 


 ふんわりと落ちていく銀のスカーフは青薔薇の窓からの月光を受けて青くきらめいた。




――これって、あの時にみた色だ。


ああ、私を押したのはお兄様だったんだ。


お父様、ばあやとお兄様が、私がこの世で一番信頼できる人だったのに……

なんで? どうして?


お兄様は私を階段から突き落としたいくらい憎んでらしたの?

今まで、私に優しくしてくれたのも、一緒に犯人捜ししてくれたのも、チョロかったのも、私を心配してくれたのも全て演技だったのかしら?


イレーヌさんが攫われたとき、信じてくれたのはお兄様だけだった。

いつから、私を憎んでいたのだろう?


私、何を信じればいいんだろう?

私が見てきた風景は、なにが本当だったのかしら?


――私が今まで信じてきた世界がガラガラと音を立てて崩れた。





**





 次の日、セバスに頼んで、やってきたお兄様と二人っきりにしてもらう。

いつもは、お兄様といえど成人した男女であるから、メイドが控えていたり二人っきりということはないのだ。



「二人っきりなんて、ルーどうしたんだい? なんかドキドキするねえ」

お兄様がのんびりと嬉しそうな声を出す。

いやいや、いい話じゃないからね。


「大事なお話があるの」


「何かな? ルーついにアランと別れて僕と結婚してくれる気になった?」

お兄様が軽口を叩く。


「そういうことじゃありませんの!」

私の真剣な口調にお兄様がちょっと姿勢を正した。


お兄様に頂いた銀色のスカーフを差し出す。

「昨夜、これを階段で落としてしまいましたの。それで気がついたわ。私階段で落ちたときに見た青いモノは、このスカーフだって」


お兄様の目が大きく見開かれた。


一番聞きたくないことを聞かなくっちゃ。ルイーゼの唇がちいさく震える。

「……私を階段から落としたのはお兄様でしたのね?」



「やっとわかったんだ?」


――ルーはほんと、鈍いよね。


あきれたような口調でお兄様が言う。



「やさしいお兄様は嘘でしたの? 私を押したのはやっぱりお兄様でしたの?

嘘でしょ? 全部……最初から……わたくしを欺してましたの?」



お兄様でしたら、わたくしだまされたままでも、よかったのよ。



「―――騙される方が、悪いんだよ」

お兄様が見たことも無いような悪い顔でニヤリと笑う。


「どうして……。何が目的でしたの?」


お兄様がいつになく真剣な目で私をみつめる。


「それを君が聞くの? ほんと鈍いよね。僕はずっと君を愛していた。ルー大きくなったら僕と結婚するって言ったのに、僕が留学してる間にアランと結婚して……。君が幸せならと諦めてたつもりだった。

だけど君に子供が出来たと聞いて、アランと嬉しそうに踊る君を見て我慢できなかったんだ……」


お兄様が私のことをアイシテイタ? ホントに?


「お兄様は、私を殺したいってこと?」



でも、バルコニーの柵が壊れたとき、お兄様が落ちないように支えてくれたよね?

お兄様なら、いくらでも私をこっそり殺せる機会があったよね?


「ああ、でも今は殺す気は無いよ。侯爵家に生まれたのに勤めも果たさず、僕の思いも気づかずワガママな君が大嫌いなんだ。殺さずにずっと苦しむのを見る方が、愉しそうだろう?」



お兄様はそっと耳に掛った髪をかき上げると、悪魔のような微笑みを浮かべた。





――へぇえ、そう。私のことが大嫌いですのね? それで殺さずにずっと苦しむのを見ていたいと?


「嘘つき!」

ツカツカと側によると思いっきりお兄様の両頬をウニーっと引っ張った。




「いったい誰をかばってますの?」

お兄様の目が泳ぐ。


「私たちどれくらい一緒にいると思ってますの? わたくしお兄様が嘘をついても分かるんですのよ」


お兄様がそっと耳に掛った髪をかき上げるのは、本人は気づいてないけど嘘をつくときの癖だ。

このアンポンタンなワトソン君は嘘をごまかすために髪を触るのだ。



さあ、考えるのよ、私!

お兄様の近くで私を害したかった人はだれ?

あの夜会に出てた人で、お兄様がかばいたくなる人はだれ?



「伯母様ですわね?」


「ちがっ!」

アンポンタンなワトソン君が、また髪をかき上げた。


まったく、お兄様ったら!


「本当にお兄様に憎まれてるのかと思って……、つ、辛かったんですからね……」

ほっとしたとたん、涙がボロボロ流れる。

世界が壊れるかと思った。

どんな思いをしたかワトソン君に思い知らさねば!


両頬をウニーっと引っ張ってた手を離して、優しい手つきで赤くなった頬を撫でた。そして指はそのまま頬へと添えて、お兄様の顔しっかり捕まえる。

お兄様の無駄に整った顔に、そっと顔を近づけていく。



「えっ、ええ、キスなの? ルー、心の準備が……」

何やらお兄様が呟いているが気にしない。お兄様の頬が赤くなってゆく。


「そんな訳あるかああああ!」

反動をつけると私はお兄様の顔に頭突きした。




たくさんのブックマーク、評価ありがとうございます。


この物語の登場人物で、作者の一番のお気に入りはエディお兄様(笑)。


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