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24 お茶会


――誰かが私を妊娠させたくなかった。


でも、私を殺したいわけではない?

妊娠させたくないならヒ素や鉛などの毒物もあるのに、体に悪影響のない薬草を使用している。


マリーが協力しないと消されると言ったことからすると、相手は貴族かしら。

犯人を探りたいけど、バレたことが分かればマリーは消されるかもしれないわ。

そう考えると今は動けないわね。


マリーをちゃんと保護できる環境を整えないと、この件は探れない。

今のところ妊娠の心配は全くないし、毒物を盛られた訳じゃないから緊急性はないかな?

鹿蹄草ろくていそうの話はマリーが帰ってからゆっくり問い詰めよう。




**




 今朝もアランに水筒と帽子を持たせ、日なたで作業し続けないよう、水分をこまめに取り、塩分も取り、こまめに休憩を取るよう注意して仕事に送り出した。


我ながら、虫取りに行く小学生に注意するうるさいオカンのようだ。


アランは熱中症で倒れた負い目があるのか、ちょっと苦笑いしつつも「気をつける」と言って出て行った。

苦笑いも格好いいアランであった。






「エディお兄様、ご相談があります」

相も変わらずやってきたお兄様に相談してみる。


「なにかな?」

「情報通になりたいんですの」

「いきなりだね」

「どうしたら、いいかしら?」


先日の誘拐事件で情報の大切さを痛感したのだ。

他の家、男爵の動きを掴んでいれば、誘拐される事前にいくらでも手が打てたのだ。


「ルイーゼしか集められない情報というと、社交だね。まずはお茶会を開いてみたら?」


 貴族のお茶会は優雅にお茶を飲んで美味しいお菓子を食べるところでは無いのだ。

出回っている噂を集め自分に有利な噂を流したり、流行を把握し新たな流行を発信したりする。

味方を作り、敵を見極める女の戦場なのだ。


主催するお茶会にお呼びする場合、交友関係によっては一緒に呼んでいけない家がある。

お呼びしたお客様によってお出しする茶器やお茶とお菓子も違う。


もちろん、お客様達が楽しい時間を過ごせるように心配りも必要だ。


そういった社交術は代々母から娘に受け継がれるものだが、ルイーゼは母を早くに亡くしたので伝授されていない。


「伯母様に習った方が良いかしら?」

「そうだね。今、避暑に行っているから戻ったら尋ねてみてはどうかな? きっと母も喜ぶよ」




残っていた課題のルイーゼ様イメージアップ大作戦も兼ねて、とりあえず、若い令嬢を何人か招いてお茶会を開いてみた。

若い令嬢たちのお茶会だったので、話題の中心はやはり恋バナである。

やっぱり若い令嬢の興味は婚活よねえ。

前世の仕事はイベント企画だったし、せっかくなので、次は婚活パーティを開いてみようかしら。

まずは気軽な若い人達から交友関係を広げてみよう。




お父様の執務室を尋ねる。

机の上に本や書類が山積みで、お父様は相変わらず忙しそう。


それでも小さな頃から、私がいつ伺っても娘が大好きなお父様は嬉しそうな顔をする。


「最近、ルイーゼは社交を頑張ってるようだねえ。無理しなくても良いんだよ」

お父様がのんびりした声を出す。


今までのルイーゼは、甘やかされたお嬢様で何もしてこなかった。

領地のことも、社交も何もしなかった。


「お父様、今まで何もしてこなくってごめんなさい。社交で得られる情報とかはどうしてらしたの?」


「大丈夫だよ。姉が手伝ってくれていたからね」


やっぱり伯母様が手伝って下さってたのね。

伯母様は端から見てもブラコン、弟であるお父様が大好きなのだ。


姿勢を正すと、父に前から考えていたことを話す。


「お父様、ちゃんと領地経営や政治、貴族同士の権力闘争、お父様がしていることを学びたいの。

ゆくゆくは、女侯爵になるわ。お父様、学ばせて下さい。

自分の知らないところで自分の大切な人が危機に陥って何も出来ないなんていやなの」


お父様はちょっと目を丸くした。

「ルイーゼがやる気になってくれたのは嬉しいけど、それは、アラン君だと頼りないってこと?」


「いいえ、彼が辛いときや倒れてもちゃんと支えられる人間でいたいの。たとえいなくなっても一人で立てる人間になりたいの」


お父様は複雑な顔をしていたけど、それ以上何もおっしゃらなかった。





 珍しく早く帰ってきたアランを捕まえた。

ルイーゼは、じっとアランの目を見つめる。

「この先どうするのか話し合いたいの」

アランが目を見開く。

しばらく思案した後、口を開いた。

「わかった。だけど、もう少し考えを整理する時間が欲しい」

「いいわ。考えがまとまったら教えてちょうだい」




**



 今日はいろいろ有ったせいか、夜中にパチリと目が覚めた。

ルイーゼは、ねんざをしてからずっとアランと別に一人で寝ている。

窓から入る風がひんやりと涼しい。

夏も終わりになってきたんだわ。


喉が渇いたので、枕元の水差しをみるとほとんど入ってなかった。

私専属のマリーがいないのでいろいろおろそかになっているようだ。

夜中に使用人を起こすのもかわいそうなので、1階の食堂まで自分で取りに行く。

もうねんざした足も痛まなくなった。


「ぶえっへっくしゅん!!!」

寒っ。おばさんくさいクシャミだわ。

夜着では少し首元が寒いのでお兄様に頂いたスカーフを巻く。冷えは女性の大敵なのだ。


廊下の突き当たりは、ステンドグラスをはめた天窓から射す月の光で輝いていた。

階段を降りようとしたとき、適当に巻いたスカーフがスルリと解けて階下へ落ちていった。




――ふんわりと落ちていく銀のスカーフは青薔薇の窓からの月光を受けて青くきらめいた。






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