23 鹿蹄草
――わたし、ルイーゼ様のお茶に鹿蹄草の粉末を混ぜておりました!!
そういうと、マリーはわあわあと大声をあげて泣き出した。
――ファッツ、鹿蹄草??
それって、嫌な上司のお茶に雑巾の絞り汁混ぜる的なヤツかしら?
鹿蹄草って、この世界の青汁?
どおりでマリーのお茶くそマズだったもんなあ。
「私って、そんなに嫌われてたのね?」
記憶が戻る前は、高飛車でワガママで扇投げたりしてたからなあ……
「ちっ、違います! さる御方に頼まれたのです。断わったら、け、消されると思って……
それに、病気の祖母の薬代を出してあげると言われて断り切れなくて。 本当に申し訳ありません。でもでも、ルイーゼ様になるべく飲ませたくなくてぇ……。 お、美味しくないようにしてたんです。信じてください……」
お茶がまずかったのも、ぬるかったのも、お茶菓子が今ひとつだったのも、ルイーゼがなるべく飲まないように工夫していたらしい。
マリーはひっくひっくと小さくしゃくり上げている。
「ひっく、今朝、祖母が危篤って知らせが届いて…。まだ、80歳なのに、天罰が当たったんです」
80だよね? いや、たぶんおばあさんは寿命だとオモウヨ。
「それでは、すぐにおばあさんの所に帰らないと」
マリーはゆっくりと首を振った。
「いいえ、頂いたお給金は全て祖母に仕送りしていたので旅費が無いんです。……罰が当たったんです」
マリーは両親を早く亡くし、ここから遠く離れた村で祖母に育てられたという。
祖母の死に目に会えないのは、悪いことをしたからしょうが無いのだと、肩をふるわせた。
「もう、うっとうしいわね。命令よ。休暇と旅費を出すから、実家に帰りなさい。しばらく顔を見たくないからゆっくり帰ってらっしゃい」
「うぁああん、ルイーゼさまぁああ。私、一生ルイーゼ様についていきますぅ……」
マリーは、涙でグシャグシャの顔でペコペコ頭を下げた。まるで米つきバッタのようであった。
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マリーを実家に帰したあと、図書室に向かった。我が侯爵家には結構な蔵書を備えた図書室があるのだ。
たぶん、私が知りたい情報の載った本もあるだろう。
あの恐縮ぶりからすると、鹿蹄草って毒薬的なヤツかしら?
私は、いったい何を飲んでしまったのだろう。すごくコワイ。
見たかった本はすぐにみつかった。薬草毒草大辞典だ。
パラパラと薬草毒草大辞典をめくる。
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生薬名:鹿蹄草
一薬草ともいう。山地に自生する多年草。初夏に花が咲き、開花時期、全草を根茎ともに採取。
シカが踏み荒らしそうな林下に生えているので、鹿蹄草の名がついた。一薬草の名は、この葉をもんでつけると病が治るところからつけられた。
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本のページを指でたどりながら、効能を読む。
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効能・効果
強壮、強心、消炎、鎮痛、止血薬としてリウマチ、脚気、関節炎、膀胱炎に効果がある。
生の葉汁を切り傷、打撲に外用。
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――よかった。毒では無かった。
関節炎に効くのね? 年取って痛むようになったら飲もう。
さらに先を読み進める。
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鹿蹄草の粉末を服用すると避妊薬にも効果。
また、お茶がわりに飲むと月経が常に順調になる。
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『!?』
これって、私に避妊薬を飲ませたというわけね。
マリーは最後まで名前を言わなかったけど、私を妊娠させたくない誰かがいるということね。
もっと、ラブコメ展開にしたいのにぃー!
自分の表現力、展開力に打ちしちがれております……
今回は、薬草講座の回でした。(残念)




