22 素敵なお茶講座
アランの輝きに満ちている琥珀色の瞳は、瞼でぎゅっと閉じられている。
金色の長いまつげ、すっと通った鼻筋、ふっくらとした唇、苦しげに眉間にしわが寄る。
苦しげに眉をひそめる美青年も、ちょっとかわいい。
人差し指でそっと眉間のしわを伸ばしてみる。
まだ頭が痛むのかしら?
額の濡れた手ぬぐいを取り替えようとすると、アランが小さく呻いて目を開けた。
「ごめんなさい、起こしてしまったかしら? ゆっくり休んでちょうだい。最近、ろくに寝てなかったんでしょう?」
おそらくイレーヌが誘拐されてから、ずっと。
イレーヌさんを救いたくて頑張っていたんだろうな……
前世の頑張っていた後輩くんを思い出す。
「頑張りすぎじゃない? もっと肩の力を抜いていいのよ」
「……悪かった」
アランが決まり悪そうに呟く。
イレーヌ誘拐犯に疑われた件かしら?
まあアレは、私の日頃の行いも悪かったみたいだし……
エディお兄様以外、物の見事に疑われたものね。
「良いわ。許すわ。喉が渇いていない? もう少し水分を取った方が良いわ」
ニッコリと笑って、コップを渡す。
「ありがとう。君も、ええと本調子じゃないのに……」
夏バテのことかしら? ねんざかしら?
「ふふ、もうかなりいいのよ」
もう松葉杖は返上よ。
アランは次の日をゆっくり休んだら元気になって、仕事に復帰した。
元アラサーは、若いって良いなあとしみじみ思う。
若者は知らないだろうが、年取るとドンドン回復力が落ちていくのだ。
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「いつものように淹れてみて。いつものようによ」
「す、すみません。お嬢様」
マリーはブルブルと震えて泣き出した。
マリーのお茶があまりにまずいので、素敵な侯爵令嬢が指導するお茶講座を開催することにした。
彼女、お茶以外は優秀な侍女なのでちょっと教えれば上手くできるんじゃないかと思うのよ。
おほほ、実はわたくし、侯爵令嬢としてお茶も一通り仕込まれてますの。
貴族の令嬢はお茶を自分で淹れないけれど、メイドに指示する立場として、お客様をもてなす立場としても美味しいお茶を淹れる知識と実践が必要なのだ。
マリーの何が悪いのか、まずはいつものようにお茶を淹れるように言ったら泣かれてしまった。
言い方きつかったかしら?
「ごめんなさいね。怖かったかしら? 悪気はなかったの――」
マリーは泣きながら、顔をふるふると横に振っている。
私はハンカチを取り出し、彼女の涙を吹いた。
だけど、彼女は目を真っ赤にして顔を覆ってまた泣いてしまった。
「……ちっ、違うん、ですぅ…。ル、ルイーゼ様が、お、お優しかったから……」
優しくすると泣くレベルって、前のルイーゼのひどさが分かるわ。
そっとマリーの背中をさする。
「…わ、わたし、白状致しますっ!! 申し訳ありません。わ、わたし、ルイーゼ様のお茶に鹿蹄草の粉末を混ぜておりましたぁ!!」
そういうと、マリーはわあわあと大声をあげて泣き出した。
――ファッツ、鹿蹄草??
それって、嫌な上司のお茶に雑巾の絞り汁混ぜる的なヤツかしら?




