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20 離別

 

 幼馴染みに婚約破棄を告げられたとき、僕は何も出来なかった。

お金を集めることも、彼女を取り戻すことも……

何も出来ないまま、僕ら家族を救うために彼女は遊び人のフィリップと婚約した。


ずっと後悔してきた。





 だから僕は権力と財力を求めた。

ヴェルザー商会に教えを請い、領地の産業育成、投資を行い領地経営を立て直した。

借金を返済し、金を貯めた。

死ぬほど頑張った。だが、婚約破棄の違約金には足りないし、子爵家の僕に伯爵家に婚約の破棄を求める権力などない。

来年には、イレーヌとフィリップの結婚が執り行なわれる。

僕はあせっていた。


今やっている港の整備が上手く行けば、莫大な利益を生むだろう。

そうすれば欲しかった財力と権力が手に入る。

だが、資金も時間も彼女の結婚までに間に合いそうにない。

結局間に合わないのか、僕は焦っていた。


 ちょうどその頃、侯爵家の一人娘ルイーゼとの縁談が持ち上がった。

我儘な令嬢が僕の外見を気に入ったらしい。

彼女と結婚すれば、欲しかった権力と財力の両方が手に入る。

イレーヌと一緒になることは出来なくなるかもしれないが、せめて彼女が嫌なフィリップと不本意な結婚をすることを阻止することはできそうだ。





**







「私ね、ずっと貴方に謝りたかったの」

イレーヌは僕をじっと見つめる。昔よりずっと大人になった。綺麗だ。


「貴方の意見も何も聞かずに勝手に婚約破棄して、フィリップ様と婚約したこと」


「子供だったの。勝手にそれが皆の幸せになると思っていたの」


「ずっと考えてたの。貴方と別れて毎日、どうしたら良かったのだろう選手権を開催したわ」

イレーヌがクスリと笑う。


子供の頃、イレーヌと僕は上手く行かないことがあると二人でどうしたら良かったのだろう選手権を開催した。

たいていは、二人でグダグダとよく分からないことを言い合うだけで終了したけど。



「僕も開催したよ。ずっと、どうすれば良かったのか毎日考えたよ」


「同じ結論だったとしても、ちゃんと皆で話し合って答えを出さないといけなかったのよ」


「もしかしたら、もっと違う道があったのかも知れないわ」


「それにねアラン、貴方のためだけに婚約破棄したわけじゃないの」

意外なことを彼女は言う。


「私ね、貴方のお母様が私のもう一人の母だったの。だから、アランの家が経済的に困ってお母様のお薬が買えなくなってしまうのはいやだったの」

イレーヌと僕の母は本当の親子のように仲が良かった。母の心臓の持病を心配してくれていたんだ。


「イレーヌ、やっと財力と権力を手に入れた。君が不本意な結婚をする必要はないんだ」

ずっと後悔してきたんだ。何も出来なかった。


「今なら、フィリップとの婚約を破棄できる」


「君を幸せにしたいんだ」


「ふふ、みんな同じ事を言うのね。私が幸せじゃないと思ってるのね」


「私ね、貴方と別れてフィリップ様と婚約したとき、遊び人なんてキッチリ締めてちゃんと幸せになるって誓ったの」

ちょっと得意げにイレーヌが言う。

確かに彼女ならキッチリ手綱を締めそうだ。ああ見えて彼女はしっかりしてるのだ。


「女は強いのよ。それにフィリップ様、遊びはお止めになったの。たとえまた遊んでもキッチリ締めるわ。私ね、ちゃんと幸せになる」


さっき、フィリップをみて『こわかった…』と涙をこぼしたイレーヌを見て、嫌な予感がしたんだ。


イレーヌは自分の母を亡くしてからずっと僕の前で泣いたことはなかった。

イレーヌが泣くなんて、もう二人の間に確かな絆ができつつあるんだ。



「だから、貴方の意見も聞かず勝手に婚約破棄してごめんなさい」


イレーヌが謝ることなど何一つ無いのに。

謝るのは何も出来なかった僕だ。


「私ね、貴方に憎まれたかったの。お金のために貴方を捨てた女って。

そうしたら、貴方に一生覚えていてもらえるって思ったの。子供だったのよ。

でも、もういいの」



最後に彼女はこう告げた。







――私のことなど忘れて。そして幸せになって






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