18 イレーヌside->アランside
** イレーヌside **
これから、ルイーゼ様と一緒にアランに会いに行く。
今週は家族水入らずで子爵家で過ごすからと、伯爵家の護衛を断わった。
ルイーゼ様と待ち合わせて、アランに会いに行くのがバレないようにだ。
元婚約者に会いに行くのだ。フィリップ様にとっては背信行為と言えるだろう。
フィリップ様と結婚する前に、どうしてもアランに会って謝りたい。
ちゃんとケジメをつけてから、嫁ぎたい。
目立たぬように辻馬車を頼んで、ルイーゼ様との待ち合わせ場所の町外れの教会に向かった。
馬車は静かに走り出す。
あれ? 教会への道とは反対方向に進んでない?
こっちは、ブルックの森へ向かう方向だわ。
「御者さん、道を間違えてない? 教会の方向と違うようだけど」
御者の男は返事をしない。
馬車の扉は外から鍵を掛けられたのかびくともしない。
――ああ、また私は誘拐されたらしい。
ちなみにこれで3回目だ。
1度目も2度目も、フィリップ様の女性関係だった。
はあ~、今回も絶対、フィリップ様の女性関係だわ……
イレーヌはため息をついた。
動機は、フィリップ様の婚約者になった私を排除しようということだろう。
3度目ともなると、なんだか慣れというか諦めの心境である。
今度の女性はどんな人だろう?
暴力的な人じゃないといいなあ……
フィリップ様、来る人拒まずで遊んでたらしいからなあ……
できれば、話し合いで暴力的じゃない方向でお願いします!
** アランside **
――イレーヌは大丈夫だろうか?
怪我はしてないだろうか? ちゃんと食事を摂れているだろうか?
彼女が誘拐されて、初めは妻のルイーゼが犯人かと疑った。
だが、犯人はどうやら私の港湾関係らしい。
また、僕のせいで彼女を辛い目に合わせてしまった……
子供が持ってきた手紙にはこう書かれていた。
『 誰にも言わず、一人でブルックの森の入り口まで来い。一人でなかったら女は殺す 』
言われたとおり一人でブルックの森の入り口まで行くと、男達が出てきた。
「さっさと乗れ!」
目隠しした馬車に乗せられ、さらに森の中の屋敷に連れ込まれる。
入った部屋には、でっぷりと太ったベルガー商会会長ダルメがニヤニヤしながら椅子に腰掛けていた。
「イレーヌを攫ったのは、アンタだったのか!」
「そうだ。君に新しい港を作られるといろいろまずいんでね。女を帰して欲しくば、この書類にサインしろ」
差し出された書類は、『港湾の利権を借金のカタにシーモア男爵に譲る』というものだった。
「シーモア男爵も噛んでるのか!」
「ああ、男爵も自分の領地の港が寂れるとお困りなのさ」
「イレーヌは無事なのか? 彼女の無事が確認されなければサインはしない!」
「ああ丁重におもてなししてるよ。ほら、連れてこい」
男達に合図をすると、ドアが開いて縛られたままのイレーヌが連れてこられた。
「アラン! なんで貴方が!?」
入ってきたイレーヌが目を丸くする。
「ほら、彼女は無事だろう? サインしなければ彼女の命はないぞ」
男がイレーヌの喉元にナイフを突きつける。
「アラン、怪しい書類にサインなんかやめて!」
「だまれ!」
男がイレーヌを小突く。
「わかった。サインするから彼女を解放してくれ」
書類にサインをして、ベルガー商会会長ダルメに渡す。
ダルメは嬉しそうにサインを確認すると、男達に指図した。
「用は済んだ。二人とも殺せ!」
「話が違うぞ。彼女を解放してくれるんじゃないのか!」
「二人とも解放してあげるさ。天国へね」
「僕らを殺せば、アンタ達が疑われるぞ!」
ダルメは心外なことを聞いたかのように肩をすくめるとこう言った。
「ハハハ、ちゃんと元婚約者との叶わぬ恋を儚んで心中したように偽装するさ。愛する人と一緒に死ねて、幸せだろう?」