15 小旅行
イレーヌさんとは、王都の外れの教会で待ち合わせてアランの領地へ行くことにした。
本当は家までお迎えに行って、一緒の馬車で出かけたい。
だがしかし、元婚約者の家の馬車で一緒に出かけるとなると、元サヤに戻ったんじゃないかとか、いろいろと周りから邪推される恐れがある。
それになんと言っても現婚約者であるフィリップに知られる訳にいかない。
婚約者が元婚約者に会いに行くのだ、女の敵フィリップも面白くないだろう。
そう言う訳で、口さがのない者にうっかり見られないように、町外れでの待ち合わせとなった。
王都からアランの領地の港までは馬車で2日かかる。
セバスによると、アランは今、街道の整備で県境の町にいるらしい。
そこまでなら1日有れば着く。
せっかくなので、海まで足を伸ばしちゃおうかな?
女性の旅なので、ゆっくりとした行程で女友達と行く二泊三日のときめき馬車の旅である。
「ふふ、ふん、ふん、ふ~ん♪」
お忍びという事で、簡素な馬車に簡素な服装を用意する。
遠足気分だ。
旅行の用意、おやつは300円までなーんて。
夜はやっぱりパジャマパーティかしら? ふふん。
かわいい夜着を用意。
「お嬢様、なんだか楽しそうですね」
ばあやが笑う。
考えてみれば、今世、女友達と旅行なんて初めてだ。
(夫の元婚約者だから友達かどうか、微妙だが……)
またまた、エディお兄様が着いて来たがったが置いてきた。
ウキウキ気分で、マリーに荷物を詰めさせ町外れの教会へ向かった。
今日も朝から良く晴れている。暑くなりそうだ。前世で言うとラジオ体操日和だわ。
などと、ぼんやりと考えながら彼女が来るのを待った。
だが、
――いくら待っても彼女は現れなかった。
待ってたのに来ない。ドタキャンかしら?
何か不都合なこと、――たとえばフィリップにバレたとか、が起ったのだろうか?
ホント、携帯が欲しい。早く誰か発明して欲しい。
この世界の待ち合わせって結構たいへん。基本、人力である。
しょうが無いのでイレーヌの家にマリーを向かわせるが出かけた後だという。
フィリップの家に問い合わせるわけにもいかない。
昼まで待って、行き違いがないように教会のシスターに言伝を頼み家に戻る。
セバスに指示してイレーヌの捜索をお願いする。フィリップの家に探りを入れたが、彼女が来た形跡はなかった。
ダリアさんにも連絡したが、何も知らないという。
イレーヌさん、人さらいにでもあったのだろうか?
この時代、貴族の令嬢が攫われたとなると何事もなく無事帰ってきても、攫われたということで傷物扱いとなる。婚約が破棄されて当然だし、まともな結婚は望めなくなる。
イレーヌさんのことが心配だが大っぴらに探せないのだ。
夜になって、イレーヌの父クレガ子爵とトレーニ伯爵ご子息フィリップが面会を求めてきた。
クレガ子爵は大柄な温厚そうな壮年の男性で、フィリップは黒髪にアイスブルーの瞳、均整の取れた肉体と華やかな顔立ち、女性にもてるのも納得だ。
私のアランほどではないけど、美形だ。
「うちのイレーヌとアランはとうに婚約破棄し何の関係もないのです。どうぞ、うちのイレーヌを返して下さい」
イレーヌの父はごつい体なのに涙目である。
「そうだ! 今返せば穏便に済ます。頼む、イレーヌを返してくれ!」
二人とも、どうも私がアランとの仲を邪推して彼女を攫ったのでは無いかと疑ってるようだ。
――とんでもない、濡れ衣である。
やっと更新できました。難産でした。
更新遅くなってごめんなさい。
ファンタジー設定(魔法有り)にしなかったことを激しく後悔中w