14 イレーヌ
イレーヌさんに会うために、ダリアさんのお宅にやってきた。
約束の時間より少し早く着いたので、先にお茶を頂きながら、ダリアさんとアランの事業について話しているところに、イレーヌさんがやってきた。
柔らかな栗色の髪に 濃褐色の瞳が美しい。平凡な顔立ちだが優しそうな目とふんわりとした笑顔が彼女を魅力的に見せている。
私と違って優しそうな面立ち、しっかりした清楚系って感じだ。
――ああ、この女性がアランが恋した人なのね。
「初めまして、イレーヌと申します」
「ルイーゼですわ」
「綺麗な方ね。アランはお幸せね」
お茶を頂きながら話を聞くと、イレーヌさんはアランとよりを戻す気はこれっぽっちも無いらしい。
終わった恋は、「男はフォルダ保存、女は上書き保存」って言ったけ?
不憫だ、アラン。
「アラン様とのことは、婚約破棄したときに終わった話ですの」
イレーヌはちょっと哀しそうな目をしつつも、キッパリと宣言する。
「フィリップ様にはいろいろ良くない噂もお聞きしますし、もしフィリップ様と別れたいなら、わたくし手を貸しましてよ」
「そうよ、イレーヌ様、私も手伝うわよ」
ダリアさんも手伝う気、満々である。
「ありがとうございます。ルイーゼ様はお優しい方ですのね。フィリップ様も以前はいろいろありましたが、最近落ち着きましたのよ」
ほわんと微笑む。
女の敵フィリップ、確かに女癖が悪かったが今は反省しお詫び行脚も済んだらしい。
「若気の至りだったみたいですわ。キッチリ叱っておきましたから、反省して更正したみたいです」
あーなんか、このカップルの力関係がみえる。
イレーヌさんほわんとしてるのに、締めるところは締めるタイプみたい。
フィリップ絶対尻にしかれてそう……
「それにね、フィリップ様、お詫び行脚で2度ほど刺されましたのよ」
「ふふふ、ざまーみろですわ」
「そうですわねえ」
うふふと、ダリアさんとイレーヌさんが目を合わせて笑う。
ちょっとコワイ。
フィリップは刺されながらも女関係を精算して、この秋に結婚式を挙げる予定だそうだ。
「もし、お許し頂けるなら、ルイーゼ様にひとつお願いがありますの」
結婚式を挙げる前に、アランにあって謝りたいという。
「うふふ、私お金目当てに婚約破棄しましたの。ひどい女でしょう?
だから一度、アランに会って謝りたいとずっとずっと思ってましたの。
もしルイーゼ様がお許し下さるなら、結婚前に一度アランと会う機会を設けては頂けませんでしょうか?
もちろん、ルイーゼ様が同席して下さって構いませんわ」
アランの家を救うために婚約破棄したのに、それを吹聴する気は無いらしい。
潔い人だ。
アランは今朝、領地へ出立したばかりだ。残念だが、アランがこちらに戻るのはいつになるか分からない。
「アランは仕事で子爵家の領地に行っております。こちらに戻るのはいつになるか分かりませんの」
イレーヌは断わられたと思ったようで、しょんぼりと肩を落とした。
「よかったら、ご一緒にアランの領地へ行ってみませんか?」